パワハラのトリセツ?

 〈急に不機嫌になることがあります〉〈定期的に褒めると長持ちします〉〈何でもない日のちょっとしたプレゼントが効果的です〉…主人公は結婚間近の女子なのだろう、相手へのお願いが並ぶ▲西野カナさんのヒット曲「トリセツ」。注文だらけの一方的なリストに見えるが、大切なあなただけに伝える「私の取扱説明書」はやっぱりどこかほほ笑ましい。では、こちらはどうだろう▲〈侮辱や暴言はいけません〉〈無視して孤立させるのもだめです〉〈過大・過小な要求もいけません〉。職場のトリセツ、部下のトリセツ…と呼ぶのではおそらく言葉が軽すぎる▲ハラスメント規制法の施行に向け、パワハラの定義や防止策を具体的に盛り込んだ指針が国の労働政策審議会でまとまった。パワハラとして類型化されたのは「精神的攻撃」「人間関係からの切り離し」など6種類▲それにしても、子どもの学級会レベルのような議論が国の審議会で真剣に交わされていることにまずは驚く、と書いたら言葉が過ぎるだろうか。これはセーフ、こっちはアウト、と▲大人が大人に接するのだから「常識」というものがあるはずだ…では新しい仕組みが動きださないのだろう。事細かなトリセツ。この社会の幼稚な劣化が相当に深刻な段階にきていることを改めて思う。(智)

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