リセール市場で圧倒的人気、「ロレックス」は他の高級ブランドと何が違うのか

時計に関心が無くても、「ロレックス」のブランド名を聞いたことがない人はまずいないでしょう。何となく、お金持ちっぽい人が付けているイメージだと思います。しかも時計好きの間では、中古品すら高値で取引されているとか。

でも、スマートフォンで誰もが簡単に時間が分かる時代、なぜ高値で壊れやすい高級時計、しかも特定のブランドが人気なのでしょうか。意外と知られていない「ロレックス人気の本当の理由」について、日本を代表する時計ジャーナリストの1人にして時計専門誌『クロノス日本版』編集長、広田雅将さんに聞きました。


職人が作る高価格帯路線に

――ロレックスと言うと、やたらと品薄だったり中古品も値上がりしたりなど、高級時計の代表格のようなイメージがあります。実際にはもっと高額なブランドもありますが、一般人にはやはり「高級時計=ロレックス」の印象が強いです。なぜでしょうか?

広田:ロレックスは今、なかなか買えなくなってしまっていますよね。でも、昔からかというとそうではないのです。1960年代後半くらいまでは、「実用性も高い良い時計を作っているが、その中の1つ」という感じでした。「上質な時計」というスタンスは今もずっと変わっていませんが。

クオーツ時計が普及するにあたって、ロレックスは「ステータス」方面に舵を切ったのが功を奏しました。その後はクオーツを作ることもありましたが。

――それまでのゼンマイで動く機械式と違い、電池を動力にして水晶を使うクオーツの腕時計が登場した「クオーツショック」事件ですね。

広田:1969年12月25日にセイコーが(世界初のクオーツ腕時計)「アストロン」を販売したことで、それ以降、時計がごそっとクオーツに入れ替わったのです。機械式より圧倒的に正確な上に毎日ゼンマイを巻く必要もなく、集積回路などの技術進歩で(製造の)自動化ラインにも乗れました。クオーツの普及で、高いお金を払わずとも正確な時計が万人の手に入るようになったのです。

日本メーカーは60年代に機械式時計製造の自動化を進めており、クオーツ時計への転用にも成功しました。スイス勢はこれに対抗しきれず傾いたのですが、その後逆に「職人が分業で時計を作るのは“尊み”がある」と打ち出し、高価格帯に舵を切ろうとしたのですね。

特にロレックスで一番わかりやすいのが、曜日付きのシリーズ「デイデイト」です。「大統領の時計」だとか、ステータスのある物として打ち出しました。

ステータスシンボル

――米国大統領に贈呈したといった逸話が有名ですね。

広田:また、ロレックスは会社として(購入者への)メンテナンスをちゃんとしていました。そもそも時計として丈夫で正確、「モノがちゃんとしていて素晴らしい」というのもありますね。

――ただ、いくらロレックスが高品質でも、他ブランドに比べて知名度人気が頭一つ抜けているのは、素人目にもちょっと疑問です。高レベルなブランドは他にもありますし、高級路線は多くのスイスメーカーが取ってきた戦略でもあります。

広田:ロレックスはブランド戦略で、一貫して「防水性」「正確性」「ステータスシンボル」というポイントを(消費者への)コミュニケーションで言ってきました。一方で(超高級ブランドでない)こうした実用時計メーカーは、販促にお金をよく使います。例えば他ブランドはアンバサダー(商品を宣伝してもらう「大使」の意。時計の場合、よくスポーツ選手や芸能人などに商品を贈り着用してもらう)を立てる手法を好みます。しかしロレックスはそれを使わず、ステータスシンボルとしてのイメージを一貫して伝えてきました。その点がうまかったと思います。

時計(のデザイン)自体も一貫しています。70年前の時計と2019年の時計を見比べても、「オイスターは同じこういう形だ」といったことが分かる。時計のスタンスが全然変わらず、「アイコン」になっているというのも良かった。

また、ブランドが成立する条件として、実は市場にある程度の「数」が無くてはならない点もあります。逆説的ですが、時計を買いに街に行ったとき、時計店や中古ショップに一定数置いてないと、ブランドにはならないのです。

その点、ロレックスのような(商品数の)規模は、なかなか「ちょうどいい」とも言えます。60年代のロレックスは年間6万本程度しか作っていなかったと思います。それが今は、100万本とはいかないまでもそれに近い数を作っています。

「すそ野は広く、頂は高く」

――ちょっと意外な話ですね。高級品の世界では「希少性」がいかにもブランド力を押し上げるのかと思いきや、ある程度は市場で目につかないと、認知度や人気がそもそも上がらないという……。

広田:ブランドビジネスとは面白いものです。「すそ野は広く、頂は高く」が必要なのです。ロレックスは必ずしも「頂(=マニア度)」は高くないのですが、この会社自体があまりブランドの情報を開示していないので、親しんでいるユーザーたちがみんな調べるようなって造詣が深くなり、自然と「頂」も高くなった。

この「数」の問題は難しいですね。コモディティー(市場価値の低い一般商品)になってはいけないが、雑誌などでしか見られないモノになってもいけない。実は職人が1つ1つ手作りした物は、ブランドとして成立しづらいのです。(店で簡単に)見ることができないから。ライカやシャネルだってそうですが、工業化した物の方がブランドビジネスとしては成立しやすいのです。

――こう見ていくと、ロレックス人気はいろいろな要因が重なって成立しているようですね。

広田:確かにロレックスは、「万事抜かりが無かった」点が大きかったと思います。まあ、この価格帯の時計では随一と言えるくらいによくできています。やはり、モノがちゃんとしていないと「論外」ですから。

――ありがとうございます。次回は、このロレックスを始め時計初心者が気になる「リセール」の秘密に迫りたいと思います。

広田雅将(ひろた・まさゆき)
時計ジャーナリスト。時計専門誌『クロノス日本版』編集長。共著に『ジャパン・メイド トゥールビヨン-超高級機械式腕時計に挑んだ日本のモノづくり-』(日刊工業新聞社)、監修作品に『100万円超えの高級時計を買う男ってバカなの?』(東京カレンダーMOOKS)など。

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