特別な意味をもった曲「心の絆」とフレディ・マーキュリー最後のレコーディング 1986年 6月9日 クイーンのシングル「心の絆」がリリースされた日

迫りくる死期、フレディ・マーキュリー最後のレコーディング

フレディ・マーキュリーの最後のレコーディングは、1991年、湖に隣接したスイスのスタジオで行われている。すべてがフレディの体調に合わせて進められ、他のメンバーはフレディがスタジオの扉を開けて入って来るのを、根気よく待ち続けた。それは誰もがフレディの死期が近いことを知っていたからだった。

胸が詰まる話だが、それでもメンバーや関係者の証言を聞く限り、レコーディングの雰囲気は、壮絶というよりは穏やかなもので、メンバー間には笑い声が絶えなかったという。ブライアン・メイは「悲しくなかった」と語り、「むしろ幸せだった」と付け加えている。

迫りくる死期を前に、どうしてそんな風にしていられたのか、僕には想像もできないが、残された歌声を聴いて思うのは、フレディが自分のすべきことを最後までやり遂げようとし、それを実行したということだ。そして、彼のそばには最後まで友達であるバンドメイトが揃っていた。それは確かに幸せなことだったのかもしれない。

生きる喜びに満ち溢れたフレディのライヴパフォーマンス

フレディ・マーキュリーは喜怒哀楽の振り幅が広い人で、どこまでも高みへと上り詰めていくヴォーカルや、その自信に満ち溢れた堂々たるパフォーマンスを観るたび、「あぁ、この人は喜びに魂を打ち震わせる人だったのだなぁ」という思いが胸に広がる。その生命の輝きが多くの人を惹きつけたし、ステージでは観客の心を瞬時に掌握することができた。

僕がそんなフレディの勇姿を初めて観たのは、1985年7月の『ライヴエイド』だった。世界中のファンにとって特別な時間となったこのパフォーマンスだが、クイーンはその2ヵ月前に日本でも素晴らしい演奏を披露している(残念ながら僕はその時のライヴを観ていないが、今は映像作品で追体験することができる)。しかし、まさかこれが最後の来日公演となるとは、当時は誰も思わなかった。フレディの生前におけるクイーン最後のツアーは、1986年6~8月にかけて行われた『マジック・ツアー』。そして、フレディがエイズと診断されたのは、1987年春のことだった。

クイーンにとっても特別な曲、ラストツアーで演奏された「心の絆」

「心の絆(Friends Will Be Friends)」は、変わらぬ友情を歌った賛歌で、1986年発売のアルバム『カインド・オブ・マジック』に収録され、シングルカットもされた。

 友達はいつまでも友達だ
 君が人生の幕を下ろすとき
 そしてすべての希望を失くしたとしても
 手を伸ばしてごらん
 友達はいつまでも友達だから
 最後の最後まで

白眉なのはプロモーションビデオで、ファンを前にしたライヴさながらの映像は実に感動的だ。フレディは目を輝かせ、その肉体は躍動し、全身から喜びが満ち溢れている。そして、観客の心を掴み大合唱へと導いていくパフォーマーとしての圧倒的な実力には、今更ながら驚かされるのだ。

「心の絆」は『マジック・ツアー』において、ステージのラストを飾る鉄壁の2曲「ウィ・ウィル・ロック・ユー」と「伝説のチャンピオン(We Are the Champions)」の間で歌われている。おそらくメンバーにとっても特別な意味をもった曲だったのだろう。

人の死とは? フレディ・マーキュリーの人生が投げかける問いかけ

ここで話を冒頭に戻す。1991年、スイスの湖畔にあるスタジオで、フレディは最後のレコーディングを行った。その時の様子がメンバーの口から語られた時、僕が真っ先に思い出したのは「心の絆」だった。この曲の歌詞そのものだと思ったからだ。

そして今、このコラムを書きながら、改めてブライアン・メイの言葉を反芻している。「悲しくなかった」、「むしろ幸せだった」。当時はわからなかったが、今はなぜかうらやましい。人の死とは一体なんなのだろう? 魂を震わすようなフレディの45年の人生は、そんな問いかけさえも僕に投げかけてくる。

カタリベ: 宮井章裕

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