今作で見納め? 日産が誇る“世界最高レベル” 「GT-Rニスモ2020モデル」をサーキットで体感

「日産復活、復権のリーダーシップをとれ」。残念ながら明るい話題の少ない、今の日産にあって世界が憧れるブランドがGT-R。

その最高峰に位置するニスモの2020モデルをじっくり試します。


世界中のクルマ好きに支えられ進化

2007年のことです。デビュー直前の「GT-R」を浜松近郊の小さなサーキットで試せる機会を得て、私も含めてジャーナリストたちはけっこう興奮していました。そしていよいよ始まったサーキット走行。助手席には監視役の日産関係者が乗り込み、私たちが無茶しないかと見張られながらの走行でしたが、それでも軽く流しながらも想像以上に強烈な加速力と4輪でガッチリと路面を掴んだコーナリングの抜群の安定感に驚いたことをいまでも覚えています。あれから12年、GT-Rは進化を続け、今では日本ばかり海外でも高い評価を得るスーパースポーツになっています。

白状すれば、あの時のGT-Rが、ここまでフルモデルチェンジもせず、生きながらえるとは想像すらしていませんでした。初期モデルは最高出力480馬力でしたが、徐々にパワーを上げ、2017年モデルでは570馬力に到達。スペシャルモデルの「NISMOモデル(以下ニスモ)」は600馬力を発生するまでになり、現在まで維持しています。

価格も初期モデルは777万円だったのですが、今ではノーマルモデルが1,082万8,400円から、最高峰のニスモは2,420万円というプライスタグが下がって【上がって?】いるのです。12年間の間の性能の進化、価格の推移にはやはり驚かされていますが、その一方でGT-Rの存続を危ぶむ声が聞こえていることに、少しばかりの不安を覚えています。日本を代表するスーパースポーツの運命はどうなるのでしょう。

ご存じの通り、GT-Rはスカイラインの歴史と共にある重要なブランドでしたが一時、日産の開発プランから消えました。それを復活させたと言うか、開発再開を本格的に指示し、表舞台に戻したのが、あのカルロス・ゴーン氏です。この辺の話は色々なところで山のように証言やレポートが書かれていますから、今回は説明を省きますが、それにしても最大の理解者でもあるゴーン氏後ろ盾を期待できない中で、2020モデルの最新GT-Rはどんな姿で登場したのでしょうか? 今回もワクワクしながら試乗に向かいました。

フロントバンパー、アンダーカバー、Vモーションが際立つフロントグリル&バンパーニスモ専用の装備は数多くあり。さらにカーボン素材をルーフだけでなく、エンジンフードやフロントフェンダーにも使用

600馬力をなんとも優しく、楽しめるスーパースポーツ

ズラリと並んだ2020モデル。ノーマルモデルもフラッグシップのニスモ、細部の変更を施されていますが大きな変化はありません。ただ、ニスモに関してはより迫力を増したと言う印象を強く持ちました。そんな印象を抱いているうちにニスモの試乗が巡ってきました。最初からいきなりアクセルをガツンと踏み込むのは危険なので、まずはやんわりと走り出しました。

GT-Rの最高峰モデルだというのに、拍子抜けするほど静かに穏やかにスルスルッと加速が始まりました。

テストコースはサーキットですからもちろん制限速度はありません。大人しく走り出したはずなのですが、第1コーナーを過ぎて軽くアクセルを開けるとあっと言う間に100㎞/hをオーバーしていきますが、次のコーナーに突入するブレーキをグッと踏み込むと、これまた適正で気持ちのいいブレーキングが始まり、思った通りの、こちらの運転レベルでも十分に安定してコーナーを抜けることが出来る速度まで、気持ちよく減速してくれます。この右足の踏み込みで自在に速度を減速できるブレーキフィーリングの気持ちのいいことと言ったら、極上と言っていいでしょう。

照明の明暗を適正にすることでより視認性を向上。アナログは情報も瞬時に認識できる

さらにコーナリング中のブレーキングもある程度簡単にコントロールできますから、ちょっぴりオーバースピードで突っ込んだかな、と思っても十分にリカバリーが効くのです。そしてコーナーのクリッピングポイントを通過したあと、アクセルをグッと踏み込んで加速体勢へと移行するのですが、これも強力な加速Gを感じながらも実に安定していますから怖いことはありません。

周回を重ねるごとにコースにも慣れ、ペースはどんどん上がっていきます。600馬力もあるのですから、ガツンとアクセルを踏めば暴れる可能性もあるのですが、これが何とも素直に冷静にその馬力を乗りこなしている自分を発見するのです。

自然なポジションが取れるペダルは位置・操作性も自然でレーシング走行でも扱いやすい

加速から減速、また加速しながらフラット感のあるコーナリングをコントロールする。もう楽しいという一言しか有りません。その速さと安定感の高さたるや“世界最高レベル”と言っていいほど気持ちがいいのです。

そんな楽しい時間もチェッカーフラッグを振られ、あっと言う間に終了しました。こんなに優しい600馬力はそうそうあるものではありません。初期のモデルの頃は馬力こそ小さいのですが、もっと力任せの感じで、機械や電子制御を駆使して力尽くで走っている感触がありました。ところが最新のGT-R,そしてニスモは“速く走っても快感、ゆっくり走っても快感”と言うレベルまでたどり着いていました。

GT-Rは永遠のワクワククルマとして進化せよ

チェッカーを受けた後、クーリングの周回に入りました。日常的な速度域で、お買い物からサーキットまで十分に対応できるスポーツカーの魅力を噛みしめながらピットに戻りました。この走りを支えてくれた新開発のハイグリップタイヤ、そして新デザインの専用アルミ鍛造ホイールは世界のトップブランド、レイズ製を採用しています。さらに専用カーボン製セラミックブレーキが足下を固めているのが視覚からも理解できるのです。

レカロ製カーボンバックシートはホールド性の高さと質感の高さが魅力

さらにボディ剛性を高めるという専用のカーボンルーフや専用RECARO製シート(オプション)とスポーツカーとしての演出効果は十分すぎるほどあります。この鉄壁とも言える足下の備え、ボディのしっかり感の構築などがあるからこそ、600馬力も生きてきます。

ヨーロッパやアメリカの人たちに聞くと、ほとんどが「日本に行ったらGT-Rに乗せてくれ」と言います。一見不格好なこのスタイルも“日本車らしくっていいじゃないか”とか“日本車にイタリアンデザインなど期待しないから、これでいい”とか“無骨さがカッコいい”など、色々とポジティブなことを言われます。

そうなんです。GT-Rは美しいとか流麗とか、そんな表現は似合わないかも知れませんが、これこそ“和製スポーツカーの代表”と言うスタイルを持っているのかも知れません。

そんな世界に通用する、そして日産のイメージを牽引する重要な存在であるGT-Rなのですが「ひょっとしたらこれが最後」になるのでは、とも言われていることは事実です。「どうやらニスモをベースにしたファイナルエディションも準備され、GT-Rはそれで一端終了」とか、いろんな話が入ってきます。

次世代の新型GT-Rの存在があれば別に不安はありませんが、それが確実と胸を張れる状況じゃないというのです。つまり「今の日産にそんなことやってる暇はないよ」とか「利益率の高いクルマを速くどんどん出せ」とかいう意見です。分からないでもありません。スーパースポーツや、さらにはフェアレディZより、台数の見込める利益率の高いクルマに注力した方がいいというのです。

しかし、一度なくすと、こう言ったクルマたちはとくに復活が難しいのです。現在のような状況だかからこそ、日本の象徴として世界に誇れるスーパースポーツが日産に、そして日本にも欲しいのです。ただし、今後はGT-Rに限らず、クルマに対するエンジン音や走行音などについての規制は厳しくなる一方です。

そうした規制をクリアした上で新世代のGT-Rを作るとすれば、先日発表され、話題となったポルシェ タイカンのようなEVかもしれませんが、現状ではモーターとエンジンの新しいGT-Rを見せてくれてもいいと思います。時代に合わせたニューGT-Rも期待したいと思います。

頑張れ日産!

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