潰れるラーメン店はどこに問題があるのか、ラーメン店経営のプロが明かす「裏側」

「国民食」といわれ老若男女に親しまれているラーメン。電話帳に登録されているだけでも全国で3万軒超という数のラーメン店があるそうです。全国にある郵便局の数が2万4,000店弱ということから考えても、これはかなりの数。

私たち日本人はラーメンを「食べる」のも大好きですが、逆の見方をすればこれはラーメン店を「やる」人が多いということもあります。

なぜこんなにも人はラーメン店をやりたがるのか。そこにはどんな魅力とビジネスとしての「うまみ」があるのか。「経営」という側面からラーメン店について考えると、日常的に食べているラーメンの味も少し新鮮に感じるかもしれません。

今回お話を伺ったのは、ラーメンプロデューサーとして独自の方法論をもとに400店以上のラーメン店をプロデュースしてきた藏本猛Jrさん。

藏本さんが今年10月に上梓した書籍『誰も知らなかったラーメン店投資家になって成功する方法』(合同フォレスト)にはラーメン店の「オ―ナ―」として資金を投資して稼ぐノウハウが示されています。「味」や「こだわり」だけではないラーメンビジネスの奥深さについて、数々のラーメン店を見てきた同氏ならではの経験を交えて語っていただきました。


「工場系」ラーメンって?

自己流でラーメン店を切り盛りしていたご自身の経験をもとに、ラーメン作りのオリジナルな方法論を確立した藏本さん。そのキモはラーメンの「命」ともいわれる「スープ」と「麺」にあります。

藏本さんがプロデュースするお店では、ある食品メーカーの工場で作ったスープと麺を使用。お店で手間暇をかけてダシを取ったスープと、食感や太さなどにこだわった自家製の麺を売りにするラーメン店も多いなか、こうした工場方式を採用することで味の安定化と厨房オペレーションの効率化が図れると言います。

「変にこだわりすぎて店内で作るなら、オペレーションが簡単なほうがいいんじゃないかと思うんです。ラーメンの味は豚骨や鶏ガラなどを煮出して取ったスープに、調味料などを混ぜ合わせた“かえし”といわれるタレを入れて作るのですが、スープは同じでも、その“かえし”を変えることでいろいろなラーメンを作れる。ラーメンの修行をしていたらそういう発想にならないですよね。スープよりもかえしのほうが大事なんです」

「手作りだからよい」は幻想

そのやり方は始めた当初にはラーメンマニアから「工場系」と揶揄されたりもしたそうですが、今では人気店でも工場でのスープ作りを導入するところが出てくるほどに。

実際にその店が「工場系」なのか「手作り」なのかは「食べただけではわからない」と藏本さん。また、「工場系」よりも「手作り」のほうが優れているのかというとそうとも限らないとも言います。

「何十年もやっている老舗の店が、平気でうま味調味料を大量に入れたりしています。その店では豚骨を3日間煮込んでスープをとっているのですが、ようやく出来上がったと思ったら、そこにうま味調味料をドバドバ入れているんです。それを見ていて言葉が出なくなっちゃって(笑)。何のために3日間も煮込んだのって」

雰囲気のあるお店でこだわり抜いて作られた1杯……というのももちろん魅力的ですが、消費者である私たちにとっても、品質を担保された「工場系」のスープはメリットをもたらしているのかもしれません。

今は「おいしくて当たり前」の時代

本では「投資」としてラーメン店経営を薦めている藏本さん。では、「儲かる」ラーメン店に不可欠な要素とは?

「ラーメンにかぎらず、飲食店の場合、半分くらいは立地で決まってしまいます。というのも、今、まずいラーメンってほとんどないと思うんですよ。昔は汚くて驚くほどまずいラーメン屋というのがありましたが、今は"おいしくて当たり前"なんです」

消費者の目も肥え、またインターネットによってそのお店に対する人々の評価がオープンに共有されるようになった結果、「おいしくない」店は生き残れなくなりました。一定上の味の水準に達していることは前提条件となっているのです。

「味」による差が生まれにくくなっている現在だからこそ、店を出す「場所」が非常に重要だと藏本さんは力説します。

「儲かるための条件は、60%が立地であとは“人”です。路地裏の名店というのは今でもありますけど、今から始めるならそこで勝負するべきではない。人目について利便性が高い場所じゃないと、売上が作れないですから」

ラーメンの原価率は?

しかし立地がよく、人通りもにぎやかな場所となるとどうしても家賃は高くなります。それでも儲けようとするには、ラーメンそのものの価格設定も重要になってきます。最近では1杯1,000円超えも当たり前になってきたラーメン業界ですが――。

「僕が手掛けている店の場合、原価率は30〜32%。それが40%までいっちゃうと、普通にやっていたら経営が成り立たない。ただ、原価率を低く設置しようとすると難しいのは販売価格です。(30%なら)1杯1,000円で売れば300円までかけられるけど、それだと高すぎるんじゃないかと思います。今、牛丼がワンコインで食べられる時代にラーメンだけが1,000円って、なんでそんなに高いの?って思ってしまう」

1杯あたりの価格が上がっているということは、そこに使われている材料の値段が高くなっているということ。確かにこだわり抜いた食材をアピールするラーメン店も数多くあります。しかしそれは「おかしいと思う」と藏本さんは言います。

「高くなっているのは完成度の高いラーメンが好まれるようになった結果です。○○産の魚介とか、ブランド豚とか、いい材料を使わないといけなくなっちゃうから高くなる。ラーメンというカテゴリに限っては、そんな必要あるのかなって僕は思いますね。本当はもっと庶民の食べ物だったはずですから」

もちろん食べる側からすればおいしいに越したことはありませんが、藏本さんの「ラーメンは庶民の食べ物」という言葉には納得も覚えます。こだわりすぎることでラーメン本来の立ち位置からずれてしまっているのではないか……。ラーメン店の立ち上げに命を懸けているからこそ感じる違和感がそこにはあります。

「1日100杯」が分水嶺

さて、一口に「ラーメン」といってもお店によって千差万別のバリエーションがあります。味付けや具材によって、儲かりやすい(原価が低い)メニューとそうでないメニューがあったりするのでしょうか?

もしあるのであれば、できるだけ原価率が高いメニューを選ぶのが食べる側としてはコストパフォーマンスがいいということになりますが、藏本さんによれば「いえ、特にこれを出したから赤字になるとか、これを出すと儲かるというのはないと思います」とのこと。

「原価率から考えればシンプルな中華そばがいちばん安くなりますが、シンプルなぶん、いいダシを使わないといい味が出ないですからね」。

なるほど、確かにあっさりとした醤油味の「中華そば」こそ、スープと麺の味がいちばん伝わるメニュー。基本の部分に手が抜けないからこそ、それが原価にも影響するというわけです。

ちなみに、ラーメン店1軒を考えた場合、損益分岐点は藏本さんによれば「だいたい1日100杯ぐらい」とのこと。数字からはイメージがしづらいですが、10席程度の小規模なお店を考えると、ひっきりなしにお客さんが入ってくるような状態だそう。

「なかなか忙しい店ですよね。100杯売っているお店ってそんなにないと思います。常に行列が絶えないような繁盛店は別ですけど」

「売り切れ」も戦略?

工場で作った濃縮スープを仕入れる「工場方式」では、当然ながら店でスープを作る必要がありません。しかも薄めて温めるだけなので、1時間もあれば十分な量のスープをストックできるそうです。

ということは、ラーメン店でよくある「スープ終了のため閉店」ということもない……のかと思いきや、藏本さんは自身がプロデュースする店には、予定の杯数が売れた時点で「『スープ切れました』という張り紙を出すように」言っているとか。

「じつは“売り切れ御免”も大事なんですよ。僕はプロデュースする店には予定の杯数売れたら『スープ切れました』という張り紙を出すように言うんです」

つまり、作ろうと思えば作れるにもかかわらず、それをあえて「やらない」ことでお客さんの飢餓感を煽る。もしかしたらあなたがいつも行っては売り切れで悔しい思いをしているあのお店も、そんな戦略をもって「終了」の張り紙をしているのかも……。

狭い店のほうが儲かる!?

とはいえ、ごく普通の発想では、お客さんが来店するにもかかわらず売り止めるというのは機会損失ではないかとも思うのですが、そこには人間の複雑な心理に対する読みがありました。

「確かに機会損失かもしれないですけど、人間って『食べられなかった』というのが次につながるんですよね。だからあえてそういうやりかたをする。もちろん手作りしている店だと、寸胴1つで70杯くらいしか取れないから、それで終わりということになるのですが」

同じように、席数を増やしていつ来ても座れるようにするよりも、あえて席数を少なくして常に満員という印象を与えることで、その店が繁盛店だと思わせるというのも戦略として重要だと藏本さん。

行列ができていると並びたくなるのは「バンドワゴン効果」として行動心理学でも裏付けられている心理現象。ラーメン店は回転が早く原価率を低く抑えられるぶん、少ない席数でも薄利多売で利益を出すことが可能なのだそうです。

というわけで、ラーメンプロデューサーに伺ったラーメン店の裏事情、いかがでしたか。たかがラーメン、されどラーメン。今度近くのラーメン屋さんに行った際にはビジネス視点でお店の様子を見てみると、新鮮な発見があるかもしれません。

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