「多様性ある社会へ」乙武洋匡さん、義足歩行の狙い語る 不倫騒動は「身から出たさび」

共生社会の実現について講演する乙武さん=JR平塚駅前のラスカホール

 ベストセラー「五体不満足」の作者・乙武洋匡さんが25日夜、JR平塚駅ビルのラスカホールで講演した。不倫騒動で一時は活動を自粛していたが、現在はロボット義足の開発プロジェクトに携わるなど精力的に活動の幅を広げる。自己責任論の根強い日本社会で今もなお、心のバリアフリー化が進まぬ現状の打破に向け力を込めた。「障害者もマイノリティーも、誰一人として取り残されない社会の実現を目指したい」

 先天性四肢欠損により幼少期から電動車いすで生活を続けた乙武さん。1998年に出版した「五体不満足」がベストセラーになった。一時は参院選への立候補も模索したが、2016年に週刊誌で不倫問題が報じられ断念した。

 講演で乙武さんは一連の騒動について「身から出たさび」と謝罪した上で、現在の活動について報告。騒動後、世界各地のバリアフリーの実情を見て回ったという。ロンドンやメルボルンなどに滞在し「車いすで困っている人がいれば、周りの人が自然と手助けしてくれた」と振り返った。

 ロンドンの地下鉄ではラッシュ時に駅で入場規制があるものの、車いすでも通勤時間帯の電車に乗ることができたという。乙武さんは「日本では混雑時の電車には車いすもベビーカーも乗れない。日本の通勤電車の便利さは交通弱者を排除した上で成り立っている」と指摘した。

 帰国後は、モーターで駆動するロボット義足の開発プロジェクトに協力する。広告塔として活動するほか、自らも重さ5キロの義足を着け、生まれて初めての二足歩行を試みた。「歩いた経験がないからどう歩けばいいか分からない。完全にマイナスからのスタート」と苦労を口にする。

 これまで電動車いすのイメージの強かった乙武さんが義足で歩く姿を広く伝えることが目的だ。障害者の社会参加を支える技術革新を進め、「全ての人が同じだけチャンスや選択肢を与えられる社会にしたい。たとえいばらの道でも、日本を多様性のある社会にするため自分の人生を使い果たしていく」と宣言した。

 講演会は「共生社会の実現に向けて」と題し、約230人が訪れた。平塚青年会議所(常盤健嗣理事長)が創立60周年を記念し主催した。

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