「桜を見る会」から透けて見える政府のご都合主義  情報隠しと漏えい、使い分け

By 尾中 香尚里

名簿廃棄に使ったとされるシュレッダーを視察する「桜を見る会」を巡る追及本部の野党議員ら=26日、内閣府(同本部提供)

 安倍晋三首相が主催する「桜を見る会」をめぐる疑惑は、いっこうに収まる気配を見せない。野党各党による追及はやまず、26日には追及本部の議員らが、招待者名簿の廃棄に使われたとされる内閣府の大型シュレッダーを視察する騒ぎに発展した。

 シュレッダーに群がる国会議員たち。はたから見れば滑稽な光景ではある。ネット上には「税金でシュレッダー視察」と野党側をやゆする声も出た。だが、そもそもシュレッダーがこんなにも脚光を浴びてしまった原因は、当の政府の側にある。

 共産党の宮本徹氏が国会質問のために招待者名簿を資料要求した当日に、内閣府は名簿を大型シュレッダーで廃棄。野党側は当然「国会の監視を逃れるために廃棄したのではないか」と追及したわけだが、そこへ内閣府の大塚幸寛官房長が20日の衆院内閣委員会で「(桜を見る会の開催から)遅滞なく廃棄しようとしたが、シュレッダーが空いていなかった(のでたまたま当日になった)」と答弁したことで、野党側は「そんな都合のいい話があるか」とさらに怒りを増幅させたのである。

 「火に油を注ぐ」とはこのことだ。ネットの言葉では「燃料投下」とでも言うのか。これでは野党の追及が収まるはずもない。26日の野党追及本部のヒアリングでは、名簿を廃棄した時間が宮本氏による資料要求の直後だったことも判明。「同じ日」どころか「ほぼ瞬間的に」名簿が廃棄されたことになるわけで、「国会の監視を逃れるために廃棄したのではないか」という野党側の疑念は、ますます深まる形になった。この日はついに、自民党の二階俊博幹事長までもが、記者会見で「いちいち廃棄する必要はない」と政府に苦言を呈した。

「桜を見る会」を巡る追及本部の会合で、政府側出席者(手前)に質問する野党議員=26日午後、国会

 二階氏の指摘は正しい。資料要求のあった段階でさっさと名簿を提出していれば、そしてその内容に問題がなければ、この問題はここまで「炎上」することはなかったかもしれないのだ(前夜祭をめぐる不透明な会計の問題は別だが)。

 安倍政権は政府の情報を公開することについて「不都合な事実をあら探しされる」と、極めてネガティブに受け止めているようだ。今回の招待者名簿問題に限らず、森友問題の対応などを振り返っても、それはよく分かる。

 だが情報公開は、本来はこういう時に政府を「守る」ためにも存在する。もし政府の政策遂行について、批判勢力(野党だけとは限らない)からあらぬ疑いをかけられ批判された時、記録が残っていれば、その記録を公開することで疑いを晴らすことができる。菅義偉官房長官の口癖ではないが「その批判はあたらない」と胸を張ることができるからだ。だから本来、政府は行政文書を長く保管しておいた方が「身の証を立てる」ためにも有益なはずである。

 情報公開の主たる目的は、政府が正しく機能しているかどうかを国民が監視することだ。だが、情報公開法の第1条には、法の目的として「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資すること」とも書かれている。「国民の的確な理解」。それは時に、情報公開が政府にとって、国民の理解を得て「味方につける」ための道具ともなり得ることを示している。政府が国民の理解を得られるような行動を取っていれば、の話だが。

「桜を見る会」で記念写真に納まる安倍首相(中央)と招待客ら=4月、東京・新宿御苑

 なぜ第2次安倍政権では、そうならないのだろうか。

 誰の指示だか知らないが、政府が最初に名簿の提出を渋ったばかりに、苦し紛れに「シュレッダーが空いていなかった」などという、はたから見ても噴飯ものの国会答弁を生み、かえって野党を勢いづける結果になった。野党の追及を「くだらない」などと言う前に、そんな事態を呼び起こした政府の側を責めるべきだろう。

 政府情報の取り扱いについて、もう一つ指摘しておきたい。

 立憲民主党の蓮舫参院幹事長が「桜を見る会」での飲食物提供業務を受注している業者との契約内容について内閣府に問い合わせた内容が、飲食物を提供した業者側に漏えいしたとされる問題だ。蓮舫氏は26日、業者に接触した内閣府職員が特定できたと連絡を受けたと明らかにしたが、現時点で政府側から反論がないところをみると、事実なのだろう。

 問い合わせの内容については、ここでは触れない。問題は、政府が職務上知り得た野党の動きが、直接関係する対象に漏れたこと。さらに、ここは今後の調べになるが、蓮舫氏の携帯電話番号までが、なぜか業者に伝わっていたことである。蓮舫氏のツイッターによれば、この業者は面識のない蓮舫氏の携帯に直接「お話ししたいことがある」と電話してきたという。

 こんなことがまかり通れば、例えばもし今後、野党議員が政府と反社会勢力のつながりについて調査を始めたとして、それに関連して政府側に何らかの問い合わせをした時、それが政府側を通じて反社会勢力側に伝わる可能性を否定できなくなる。調査に対する萎縮効果を生みかねない。こんなことはあってはならない。

 二つの事象を重ね合わせれば、安倍政権は自分にとって都合が悪い情報は徹底的に隠す一方で、批判勢力を封じるのに役立つ情報は意図的に漏らしていることになる。後者は事実であれば国家公務員法違反にもなりかねないが、そんなリスクを冒してでも、自分に都合の良いように情報をコントロールしたいのだろうか。

 「桜を見る会」の問題は、もはや「税金で選挙区のお友達を接待?」という域を超え、第2次安倍政権におけるあらゆる「影」の部分を明るみに出そうとしている。「いつまで桜をやっているんだ」などと冷笑してすむ問題ではない。(ジャーナリスト=尾中香尚里)

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