半袖の人

 寒い日が増え、街にコートやマフラーが目立つようになって、夏に悲しいお別れをした職場の先輩のことを思い出している。真冬も半袖のポロシャツ姿がその人のトレードマークだった▲「おはよーっす」。文字に「音量」がないのがもどかしい。フロアの誰もが手を止めて振り返るような、と書いたら、あの元気なあいさつの雰囲気が少しは伝わるだろうか。誰よりも大きな声で出勤してきた▲先輩は、新聞の作り方が変わって今はもうなくなった「工務局」を振り出しに、紙面の間違いを見つける校閲部の部員や写真部のカメラマンとして勤務した。畑違いのどこへ行ってもその部署のムードメーカーだった▲面倒見がよく、世代を超えて皆の兄貴分だった。オートバイを愛し、海を愛した。がっちりした体格で、高校時代はラグビー部。病気の方で避けて通るとしたら、きっとこんな人だ、と思わせた▲その先輩が難しい病気に襲われた。闘病は5年を超え、一時は職場に戻ってくれたが、回復はかなわず、静かに目を閉じた。病気には勝てんやったな、と病床で話されたと聞いた。58歳の短すぎる生涯。計り知れない無念をただ思うことしかできない▲人気者だった。冬になるといつも「長袖は持たんのですか」と皆に囲まれて、いつも真ん中で笑っていた。(智)

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