困難を極める"多胎育児"、「ネガティブな感情を持ったことがある」は93.2%

認定NPO法人フローレンスが実施したアンケート調査により、多胎育児家庭の93.2%はネガティブな感情を持ったことがあることや、外出の困難、睡眠不足などの、過酷な現状が明らかになりました。

地縁血縁による支えがかつてよりも見込めなくなっているいま、双子や三つ子を育てる母親のためには、それを支える社会的なサポートが何よりも必要とされています。


約9割が「外出・移動」に困難

多胎育児当事者の93.2%が「気持がふさぎ込んだり、落ち込んだり、子どもに対してネガティブな感情を持ったことがある」──。

そんな実情が、認定NPO法人フローレンスが、全国の多胎家庭1591世帯から集めたアンケート調査により明らかになりました。

核家族化が進み、かつてのような地縁血縁の支えによる育児の助けを得ることが難しくなっているいま、双子や三つ子の母親の体験している苦労は極めて重くなっています。病児保育や障害児保育に取り組んでいるフローレンスの調査は、その実態を浮き彫りにするものでした。

多胎育児中に「辛い」と感じた場面を挙げてもらったところ、(複数選択可能)もっとも多く挙がったのが、「外出・移動が困難である」という回答で、実に89.1%の人がこれを挙げました。

多岐に渡る"辛い"の理由

具体的な回答としては、「2人が同時に泣くかもしれないと思うと不安で公共交通機関を利用できない」「準備の段階からとにかく大変。一人の準備をしてももう一人準備をしている間に泣いたりどこかへ行こうとしたり。結果引きこもってしまう」などの声のほか、「バスで乗車拒否されたことがある。畳むことを条件にされると、荷物と子供2人とベビーカー全部を抱えることはできず、結局諦めてしまう」。電車では、「目的地がエレベーターがない駅だったので、駅から出られなくて帰宅した」などの声が挙がっていました。

「辛い」と感じた場面のほかの項目では、「自身の睡眠不足・体調不良」が77.3%

「乳児期にそれぞれの泣きを対応してたら15時間かかっていた。ご飯どうしたかの記憶がない」「双子が交互に寝たり起きたりしている時期は、いつ寝たらいいのか分からず、気絶している状態が睡眠時間でした」

「自分の時間がとれない」が77.3%

「日中、保育園に通わせられたら幾らかは楽になるのに、専業主婦だから保育園に入園できない。多胎家庭は希望すればみんな入園できる制度が欲しい」「自分のトイレに行くわずかな時間さえもありません。我慢をしすぎて膀胱炎にもなりました」

「大変さが周囲に理解されない」49.4%

「一度に子育て終われていいね、と言われる。一度に2人分降りかかってくるから大変なのに」

といったアンケートの回答が寄せられていました。

100人に1人の妊婦が多胎児の母に

多胎児は不妊治療の影響などもあって増加傾向にあり、厚生労働省の「人口動態統計」によると、現在は毎年およそ100人に1人の妊婦が双子以上の多胎児の母親になっています。

多胎家庭では、多大な育児負担を保護者が担っている状況があり、ある多胎家庭では、1日のオムツ替えは28回、授乳は18回にも及んだそうです。

2018年には、愛知県豊田市の三つ子の母親が、泣き続ける次男を畳の床にたたきつけて死なせる事件が起こりましたが、三つ子の育児で鬱状態になった母親に対して寛大な判決を求める声が上がっていました。

母親には19年3月に懲役3年6ヶ月の判決が言い渡され、被告側は控訴しましたが、名古屋高裁は控訴を棄却しています。

ベビーシッターを頼みたくても高額でためらう

11月7日に厚生労働省で行なわれたフローレンスの記者会見では、実際に双子を育てている母親と、三つ子を含む4人の子供を育てている夫婦が、それぞれ子供を連れて登壇。

双子を育てている角田さんは、「夫は仕事で終電まで帰ってこず、育児は長いトンネルの中にいるようでした。そんな私を救ってくれたのは保育園の入園通知でした。事件を起こしてしまった三つ子のお母さんも、もし保育園の入園通知が届いていれば、犯行を思いとどまったと思います」と涙ながらに訴えていました。

多胎児家庭は、特に車のない家庭では外出が困難になりがちで、ベビーシッターなども、人数分で高額になるため、ほとんどの母親は使用を思いとどまります。

保育園は母親の就労が大きな認定要素であるため、多胎児家庭であっても母親が専業主婦の場合、なかなか入れません。一方で、就労して保育園に入ることができても、頻繁に子供が体調を崩し仕事を休まなければならなくなるなど、多胎児の母親が安定して働くには絶望的に困難な状況があります。

フローレンスでは、行政に対する要望として、保育園の必要性認定に「多胎児であること」を入れることを求めています。また、現在ほとんど機能していない、「居宅訪問型預かり制度」、つまり家にシッターさんが着てくれる形の預かりサービスの拡充も、同様に行政に訴えていくといいます。

多胎育児の大変さを伝える声は、ツイッター上でも #助けて多胎育児 のハッシュタグで挙げられています。

今回のアンケートでは、「どのようなサポートがあれば気持が和らぐか?」という質問に対し、「家事育児の人手」「金銭的援助」「子を預ける場所」「同じ立場の人との交流」といった声が挙がっていました。

多胎育児には社会のサポートが不可欠

多胎児家庭の置かれている状況の困難さを考えるに、乗り物のなかで子供が泣き出すとあからさまに迷惑顔をする人がいるといった、子育てする母親に冷たい社会に日本がなってしまっていることも、大きな要因であるように思います。

少子高齢社会の中、多胎児の母親はもっと大切に、暖かく扱われてしかるべきです。親族やお隣さんの助けに頼るといった、昭和のような時代ではなくなっている以上、地縁血縁に代わるサポート体制を構築し、社会全体で多胎児の家庭を支えていくような体制を形作っていく必要があるのです。

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