食用湯を石けんに加工、販売のNPO30周年 川崎

工場で作った粉せっけん「きなりっこ」を袋詰めする職員ら

 川崎市内の小学校などで使われた食用油をせっけんに加工して販売する取り組みを続けてきたNPO法人「川崎市民石(せっ)けんプラント」(川崎区)が今月で30周年を迎えた。多摩川の水質汚染をきっかけに市民6千人の出資で設立され、環境に優しいまちづくりを目指して活動を継続。12月1日にはその歴史を振り返る催しも開かれる。

 小学校や一般家庭などから年間約7万リットルの廃食油を回収し、リサイクルせっけん「きなりっこ」を製造する。完成したせっけんは市立小学校の8割に当たる90校の給食室で使われているほか、市内を中心に40カ所近くで販売されている。

 始まりは1970年代。当時の多摩川では、生活排水に含まれる合成洗剤の影響で、洗剤の泡が風に吹かれて舞っていた。「自分が被害者になるだけでなく、加害者にもなる」と市民らの間で合成洗剤の追放運動が高まり、廃食油を資源としてより安全なせっけんを作ろうと、89年11月に工場が誕生した。

 「女性7人からのスタート。最初はうまく作れず大変だった。30年たつなんて本当にあっという間」。今でも残る唯一の立ち上げメンバー、薄木かよ子副理事長(68)はそう感慨深げに振り返る。「釜炊きの工程で吹きこぼしていつも掃除ばかり。いろいろな方々の協力のおかげでやってこられた」と感謝する。

 石けんプラントは地域活動支援センターも運営しており、知的障害者やアルコール依存症患者ら約20人の利用者が工場での作業に従事する。「力作業も多いので彼らがいないと仕事が回らない」とは清水真理子理事長(57)。利用者は油をタンクに注いだり、出来上がったせっけんを袋に詰めたりして生き生きと働いている。

 工場で作る「きなりっこ」は粉せっけんや固形せっけんにとどまらず、液体タイプや水回りの掃除に適したプリン状のものなど多岐にわたる。清水理事長は「生活の全てをきなりっこだけで済ませられる。ほとんど手が荒れず、体に優しいので若い人にこそ勧めたい」とアピールする。

 2011年からはせっけんのみならず、廃食油からバイオディーゼル燃料(BDF)の製造にも取り組んでいる。現在は運搬用のトラックをBDFで動かしており、清水理事長は「もっといろいろな人たちを巻き込んで市内のさらなる資源循環に取り組んでいきたい」と意気込んでいる。

 30日午前10時半から正午まで、工場見学や粉せっけんの量り売りを行う。翌12月1日午前11時からは記念イベントが開かれ、30年の歴史をまとめた映像を上映するほか、立ち上げ時のメンバーによるトークショーも開催する。問い合わせは、石けんプラント電話044(276)0739。

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