新たな軌条 相鉄・JR直通線(3)濃紺の車両、ブランドの上質さを演出

JR東日本との直通線で使用される相模鉄道の新型車両12000系=横浜市保土ケ谷区の相鉄線西谷駅

 車体がまとう上品で深みのある濃紺は「ヨコハマネイビーブルー」と命名された。その色は港町・横浜が歩んできた歴史を表現している。

 今年4月にデビューした相模鉄道(横浜市西区)の12000系。JR東日本(東京都)との直通線で使われる新型車両だ。

 車内は落ち着いた雰囲気を醸すグレーが基調。発光ダイオード(LED)照明は日中と夜で色調を変え、爽やかさと温かみを感じさせる。つり手は握りやすさを追求して楕円(だえん)形に。案内表記ははっきりと見やすいドイツの書体を採用した。

 こうした明確な意図のあるデザインは、同じ濃紺の20000系やリニューアルされた9000系にも通底している。

 「安全と機能を最優先した上で、全てをデザインし直した」

 相鉄ホールディングス(HD、横浜市西区)の経営戦略室担当部長、山田浩央はそう話す。車内に取り付けられた小さな鏡にすら、ストーリーがあるという。

 年号が大正だった創業期からしばらく、相模川の砂利を運搬していた相鉄。その事業は一時、経営を左右するほどの規模だった。市民の間には「砂利鉄」という呼称が浸透していたという。

 その後、会社の発展とともに相鉄のイメージは変遷をたどる。「うぐいす色」「赤」「オレンジと青」-。人によって答えが違う理由は何なのか。山田が説明する。

 「車体の色が歴代ばらばらだったからです」

 鉄道会社にとって、車両は輸送手段であると同時に最大の広告塔でもある。その色やデザインは、利用者が抱く印象に直結するためだ。

 JR、さらには東急電鉄(東京都)との直通線が走りだすと、東京都心での露出がぐんと増える。「新しい相鉄像」を創り出す絶好機を控えた2013年、社長特命の戦略「デザインブランドアッププロジェクト」は動きだした。

 車両だけでなく、駅舎や制服にまで統一感のある意匠を凝らし、時間をかけて上質なブランドイメージの確立を目指す。狙いは明快だった。

 全体の指揮を執る総合監修には、「くまモン」を世に送り出したクリエーティブディレクターの水野学らを迎えた。強力な助っ人の作品は早くも効果を表している。

 「イケメン電車」

 光沢のある濃紺の塗装を施した車両は、流行に敏感な女子高校生のハートをつかんだ。水野らの意見を取り入れて改修が進む駅舎も、利用者から好感を持って受け入れられている。

 プロジェクトを手掛ける上で、相鉄が強く意識した会社がある。関西私鉄の雄、阪急電鉄(大阪市)だ。

 「マルーン(濃い茶色)と言えば阪急」

 それは関西市民にとって「合言葉」も同然なのだという。車体の色によるブランディングの好事例だ。

 阪急は同時に、長い時間をかけて洗練されたイメージを醸成してきた。全国23の鉄道事業者を対象とした日本生産性本部(東京都)の顧客満足度調査で、阪急は開始から10年連続トップを守っている。

 実は、相鉄にもそうした気品を感じさせる素地があった。その訳は、私鉄では珍しい新型車両の「鏡」が教えてくれる。

 かつて、相鉄は「おかいもの電車」とも呼ばれていた。終着の横浜駅で降り、西口の百貨店に行くことが今以上に特別な体験だった頃。車内の鏡は、着飾った乗客が手早く身だしなみを整えるのに欠かせないアイテムだったのだ。

 時は移ろい、グループ創立から100年を迎えた相鉄は、満を持して東京都心へ進出する。

 山田は言う。

 「次の100年をかけてイメージを磨き続けた先に、相鉄が目指す理想像がある」

 =敬称略

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