仁政

 半年ほど前、ある裁判で判決を言い渡した後、裁判長が被告に「人生をどうしたいのか。人生の持つ意味とは何か」と問い掛けて、いくらか話題になった。それをニュースで見たという読者のお一人から電話を頂いた。「人生って言葉をあらためて辞書で引いてみたんですよ」▲平明な説明が載っていたらしいが、隣にある見慣れない言葉も目に留まったという。「仁政(じんせい)=国民に対して恵み深い政治」。いい言葉だとおっしゃっていた▲数々の言葉を残した政治家は「仁政」の一語もご存じだったろうか。亡くなった中曽根康弘元首相は「戦後政治の総決算」の看板を掲げ、内政も外交も変えた。改革こそが「恵み」をもたらすのだと、一念が胸にあったのだろう▲国鉄、電信電話、専売の3公社の民営化を推し進めた。日本が姿を変えている―と、その頃の国民の多くが感じたに違いない▲当時のレーガン米大統領とは親密な関係で、1986年には不意を突く衆参ダブル選挙で大勝を果たした。固い日米同盟、「勝てる選挙」の仕掛け人…。今の首相と似ているようでもある。一方で、時に世論に耳を傾け、軌道修正する姿勢も持ち合わせていた。似ていないようでもある▲「仁政」を成そうとしているか。「改革の人」の足跡は、今の政治への問い掛けにも思える。(徹)

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