読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、教育費にお金を使い果たした貯蓄ゼロの50代夫婦。家計は毎月大幅な赤字、老後資金は退職金頼みで将来が不安だといいます。FPの横山光昭氏がお答えします。
学費にお金を使い果たし、貯蓄と呼べるものが「セロ」になってしまいました。長男はすでに社会人ですが、いまも次男の学費がかかっています。来年卒業ですが、卒業後半年経過すると、子どもの奨学金240万円ほどの返済も始まります。現状の家計では貯めるのはなかなか難しいのですが、奨学金を返済しながら貯金し、運用もして老後資金を増やしたいです。安全で確実な運用方法を知りたいと思っています。
家の状況としては、住宅ローンはあと残り800万円ほど。毎月支払っていくと定年退職とほぼ同時に支払いが終わる予定です。夫は退職金が出るので、これが老後資金になるかなと思っています。ただ、隣に夫の両親が住んでいて、いずれ介護が必要になると思うのですが、夫の兄弟はまったく無関心。介護のすべてが私たち家族にのしかかりそうです。そうなると、体力だけではなく、金銭的にも苦しくなるのではないかと思い、不安です。退職金を全額、老後資金にまわせなくなるのではないかと思っています。今から将来に備える方法はあるでしょうか。
<相談者プロフィール>
・女性、52歳、既婚(夫:54歳、会社員)
・子ども2人:長男(25歳、会社員)、次男(22歳、大学4年、一人暮らし)
・職業:専業主婦
・毎月の手取り金額:約42万円
(夫:約39万円、長男:3万円)
・年間の手取りボーナス額:184万円
・貯蓄:ほぼ0円
・退職金:約1800万円(60歳時)
【支出の内訳(50.7万円)】
・住居費:8.3万円(住宅ローン、ボーナス返済なし)
・食費:8.4万円
・水道光熱費:1.7万円
・通信費:2.9万円(スマホ3台、タブレット1台)
・日用品代:2.5万円
・医療費:2.3万円
・教育費:10万円(次男への仕送り)
・被服費:1.6万円
・生命保険料:2.8万円
・小遣い:3万円(夫のみ)
・その他:7.2万円(交通費、車関連、ペット費ほか)
横山:ご相談ありがとうございます。お子さんの教育費で貯蓄がゼロになり、お子さんのためにご自分たちの老後資金を食いつぶしてしまう人は最近よく目にします。退職金があるとはいっても、老後が長くなっている今、それだけでは不十分な場合もあります。どう改善すべきか見てみましょう。
いまの生活のままでは退職金もすぐ底をつく?
手取りが月39万円、長男さんから3万円の生活費をもらい、42万円が毎月の生活費になりますが、支出は50万円を超えています。毎月8万円以上が赤字になっています。これは大きいですね。つまり、年間180万円ほど出るボーナスの半分は、赤字の補てんに使われているということです。これではお金は貯まりにくいでしょう。
今の貯蓄ゼロの状態は、次男さんの最後の学費を支払ってそうなったということでしょうか。今のままですと、ご自身の老後資金が何もない状況です。退職金があるといっても1800万円ほどとのこと。現在、生活費が非常に大きくかかっているので、年金生活に入るとあっという間にその1800万円はなくなってしまうでしょう。
そのため、今できることは毎月の生活費を圧縮をして、お金を少しでも貯めていくことです。そうすると、年金暮らしに入っても貯めたお金や退職金を長持ちさせることができるでしょう。
見直すべきは食費や通信費、日用品など支出全体です。必要な部分、過剰となっている部分を洗い出すところから始めましょう。
子どものお金は“子どもも”負担するように
ところで、これだけの赤字家計の中、来年から次男さんの奨学金を相談者さんが返済する予定とのこと。
240万円の貸与を受けているので、利率にもよりますが、秋からの返還額は月に1万4000円程になるでしょう。「たいしたことのない金額」と受け取っていらっしゃるかもしれませんが、これが15年ほど続きます。相談者さんご夫婦が67~69歳まで返済が続くということです。年金生活に入っても固定費の支出が続くのは、きっと大変だと思います。
今は「仕送りがなくなるから大丈夫」と思えるかもしれませんが、そもそもが赤字の家計。仕送りがなくなってわずかに貯金ができるはずだったのに、それもできなくなってしまうかもしれません。
貯金ゼロの状態から脱却し老後資金を作るには、少しでも支出を抑え、蓄えていくべきです。ただ、次男さんに急に「自分で返済して」と言っても、長男さんは奨学金を使っていないように思いますので、「自分だけ借金を背負うなんて」と次男さんは思うかもしれません。そうであれば、返済の半分を長男さんに手伝ってもらうことを考えてもよいと思います。長男で教育資金をおおむね使ってしまい、やむを得ず奨学金を利用したということになるでしょうから、不公平感がないように、平等にするとよいのではないかと思いますよ。
長男さんも急に言われると戸惑うでしょうから、年末年始で家族が集まるときなどに、みんなで話題にしてみるとよいのではないでしょうか。押し付けるのではなく、理解をしてもらえれば良いのだと思います。奨学金のことに加え、ご夫婦の老後資金のことも伝えるとよいと思います。
“老後は子どもに面倒を見てもらえばいい”と考える人もいますが、それは子どもにとって大迷惑です。そういったことも踏まえ、ご夫婦の老後が安定するように、お金を準備する策を家族みんなで話し合ってもよいと思います。
“貯蓄ゼロ”は投資をする資格ナシ?
また、老後資金作りの方法の一つに「運用もしたい」ということが上がっていました。将来を見据え、投資を始めることは非常に良いことだと思います。ですが、相談者さんはまだそうしてよい段階にはありません。なぜなら、生活を維持し、守るための蓄えがないからです。
ですが、老後までも時間がないことも事実。ならば、支出を削減してしっかりと余剰金を作り、貯金と投資を両方する、並走という方法をとることがよいように思います。ただ、これをするには安定して余剰金を出せていないと上手くいきません。つまり、はじめにお伝えした支出削減ができて、家計が安定してから始めるとよいでしょう。
老後資金作りによい投資制度を国が出しています。それを活用するには、しっかりとした余剰金が必要です。家計費が足りなくなり、下ろせるお金は下して家計を回していこうということでは投資は続きません。そういうことをしっかり考えていきましょう。
相談者さんご夫婦の、今のお金の状況は決して良いとは言えません。ただ、改善の余地はまだあります。今から懸命に取り組んでも、老後も長く働きましょう、ということになるかもしれませんが、収入があるうちはしっかり貯め、お子さんに迷惑をかけることがない老後を送ることができるように準備していってください。