企業の「省エネ活動」が個人投資家の運用成績にも影響しうる理由

世界的に環境破壊が大きな問題として注目される中、環境問題の解消に向けた取り組みを強める企業の株式に投資しようという機運がみられます。こうした企業に投資することで、その企業が行う環境対策事業を支援する、という趣旨があるからです。

環境対策にはさまざまなものがあります。近年、最も注目されているのは、地球温暖化を抑えるために温室効果ガスの排出を削減することです。企業が排出するCO2(二酸化炭素)を減らすには、そもそも使用する燃料を減らすことがより本質的といえます。使用する燃料を減らせば、CO2が減るからです。

使用燃料を減らすということは、実は企業の利益拡大にもつながります。燃料のコストを減らせるからです。つまり、使用する燃料を減らす努力をする企業は直接的な企業価値の面でも株価の好パフォーマンスが期待できます。

そこで今回は、燃料などのエネルギー消費量を削減する努力をした企業について、その後の株式パフォーマンスを観察してみます。


政府も旗を振る省エネ推進の流れ

エネルギーの使用の合理化等に関する法律、通称「省エネ法」という法律を聞いたことのある方も少なくないかもしれません。

もともとは中東戦争による石油危機への対応から省エネルギー化を推進するため、1979年に制定されたものです。その後、時代に合わせて何度も改正を重ね、足元では昨年改正されています。

工場等、輸送、建築物や機械などについてのエネルギー使用の合理化を目的としていますが、基本的にはエネルギーの使用状況を経済産業省に届け出や報告するというものです。この中には、過去5年度間でエネルギー使用に関する状況が年平均1%以上改善できなかった場合はその理由を記載しなければいけないなど、少なからず企業の省エネへの努力のプレッシャーがあったり、報告を怠ると罰金などが科されます。

このように、エネルギー消費を減らすことは環境問題というだけでなく、資源を大切に使うという観点でも政府の意向が強く表れています。

どのくらい削減すればパフォーマンスが良い?

それでは、実際の分析に移りたいと思います。これまでの環境問題と株価に関する分析もそうでしたが、環境に関する情報を活用するにはちょっとした工夫が必要です。

単純にエネルギー消費を減らしたことを良しとすると、景気が悪くなって企業の生産量が落ち込み、エネルギーを使う必要がなくなったケースも含まれてしまいます。そこで、会社全体の事業活動量を示すものとして「売上高」を用いて、「エネルギー消費量÷売上高」をどの程度減らすことができたかによって、「エネルギー消費削減の努力をしている」と評価することにします。

分析は、次のように行いました。東証1部でエネルギー消費量を公表している企業を対象に、毎年1回、8月末時点で取得できるエネルギー消費量をチェックします。そして、「エネルギー消費量÷売上高」が3年前と比べて減っているかのデータで分類し、その後1年間の株式の平均収益率を見ました。

今回の分析では、企業を4つに分類しています。「エネルギー消費量÷売上高」が「大幅に減った」「ある程度減らした」「ある程度増えた」「大幅に増えた」の4パターンです。次ページの表で示した収益率は、2008年以降でさらに平均しています。

分析結果をどう読み解けばよいのか

分析結果には、少し変わった特徴があります。「ある程度減らした企業」のその後の株式パフォーマンスが最も良かったことです。これは事前の仮説通りで、エネルギー消費を減らす努力をした企業はその後の株価が上昇する、という結果となっています。

【東証1部上場企業のエネルギー消費の増減とその後3年間の平均株式収益率】

(注)2008年以降、8月末での東証1部企業のエネルギー消費量÷売上高が3年前と比べて「大幅に減った(▲0.002%以上)」「ある程度減らした(±0%から▲0.002%まで)」「ある程度増えた(±0%から+0.002%まで)」「大幅に増えた(+0.002%以上)」で分類し、その翌月から3年間の株式収益率の平均をさらに時系列で直近まで平均
(出所)Bloombergのデータを基にニッセイアセットマネジメント作成

ところが、「大幅に減った企業」と「大幅に増えた企業」は平均収益率が悪いほうから数えて1位と2位です。エネルギー消費が大幅に減ったり増えたりする状況は、企業の努力というより、別の要因が大きいのでしょう。

たとえば、今までとは異なる別のモノを製造するようになり、それに応じて燃料の使い方が大きく変化することなどが考えられます。こうした分析結果から、エネルギー消費を減らす努力をした企業のほうが、より高く評価される傾向がありそうだということが推測されます。

実際に近年は「環境への意識が高い企業に投資すると、パフォーマンスが良くなる」という結果が報告されるようになりました。企業側にとってみると、資料エネルギーを減らすことによるコスト削減が直接利益を高めることにつながる点でも、株価パフォーマンスが高いのは納得できる結果です。

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