西武ドラ8岸を変えた代表監督の言葉 「それができたらすぐにNPBにいけるよ」

西武から8位指名を受けた徳島インディゴソックスの岸潤一郎外野手と養父鐵氏(左から)【写真:養父鐵】

四国アイランドリーグplus代表監督の養父鐵氏

 今年のドラフトで埼玉西武ライオンズから8位指名を受けた徳島インディゴソックスの岸潤一郎外野手は、異色の経歴を持つ。高知・明徳義塾高では甲子園に4度出場。エースで4番を務め聖地を沸かせた。さらに3年時には、岡本和真内野手(巨人)、高橋光成投手(西武)らとともにU-18日本代表にも選出され、将来を嘱望される存在だった。しかし、進学した拓大では怪我に苦しみ、3年秋に野球部を退部。同時に大学も中退した。一度は野球を諦めたが、再びプロを目指し18年に徳島入り。野手として活躍し、独立リーグ2年目の今年、悲願のNPB入りを掴んだ。

 四国アイランドリーグplus代表監督として、今年6月に行われた北米遠征で岸と1か月間を共にした養父鐵氏は、素晴らしい素材を持っていると岸を絶賛する。

「バッティングも思い切りがいいし、足も速い。打てなくても落ち込まず、試合後に一人でスイングをしている姿もよく見ました。自分の中で、その時その時に応じて対応できる。それに大舞台に強く、腹を決めて打席に入れます。それができなかったら、あれだけ甲子園で活躍できないと思います」

 NPBでも十分に通用すると認める養父氏だが、岸の行動で気になるところがあった。自分のチームのピッチャーが、打たれたりフォアボールを出してしまったときに、外野で守備に就きながら嫌な顔をしていたのだ。

「自分のチームのピッチャーが打たれたりフォアボールを出してしまったときに、センターから嫌な顔していたら、自分がスカウトだったら100パーセント取りません。そんな協力的ではなく、同じ方向を向けない選手はいらない。そこで一言『頑張れよ。みんな守ってるぞ』と言えるか言えないかで大きく変わると思います。岸には『改善してみたらいいじゃん、簡単なことじゃん。それができたらすぐにNPBに行けるよ』。そう言いました」

外野で見せていた“顔”は監督の一言で次の試合から改善

 一度しか注意しなかったが、岸は次の試合から嫌な顔を見せず、外野からマウンドに向かって声を出すようになった。

「すごくいいものを持っている。ただ、そういう部分がNPBに行けない原因なんじゃないかなと思いました。みんながやっていなくても、そういうところができるかどうかはすごく大切です。岸は次の試合から変わってくれた。なので『お前がNPBに行きたいなら応援するよ』と言いました」

 それから4か月後のドラフトで、西武から8位指名を受けた。大学時代は怪我に悩まされ、すべてが上手くいかなかった。それから3年が経ち、岸は人間的にも成長を遂げ、一度は諦めたNPBへの切符を獲得した。

「いい時は誰でもいいんです。悪い時にどうするか。そういう環境じゃないとか、いろいろ理由は付けられる。彼は成長してきている。NPBに行ったら面白いと思います。ただ、そんなに甘くない。独立リーグは年間70試合しかないので、シーズンを通して戦う体作りが必要だと思います。このオフからきちっとやって、どうやって結果を出していけるか、楽しみですね」

 支配下選手最後の74番目に名前を呼ばれた23歳は、甲子園で躍動した高校時代から成長を遂げた姿を、NPBの舞台で見せてくれるはずだ。(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

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