“悪徳”ネット通販のトラブル続出、騙されて高額契約を結んでしまったら?

ネット上の通販トラブルが頻発しています。「今だけ!通常価格5,000円を、初回のみ、お試し価格!90%オフの500円」といった広告に誘われて契約する試供品商法からアダルトサイトの架空請求まで様々あります。なぜ、トラブルは起こるのでしょうか? 騙されてしまう心理を読み解きながら、どうすれば被害に遭わないかを考えます。


効率施行後でも横行する悪徳商法

SNSなどでは、通常よりかなり安い価格を表示して健康食品やサプリメントを販売する広告を、よく目にします。その時、「お得だ!」と思って、広告をタップして販売サイトで購入すると、商品は届きます。しかし、しばらくたつと、また同じ商品が届き、定価5,000円の請求書が同封されています。驚いて、業者に問い合わせると「4回の定期購入での申し込みです」と言われます。慌てて注文サイトを見ると、確かに販売画面には「4回の定期購入」との記述が。

「すみません。見逃していました」と、キャンセルを訴えても、「それはあなたの確認不足ですから」と、業者は返品を受けず、泣き寝入りしてしまう人はかなり多いのです。

過去の悪質な手口では、「定期購入」といった文言を、申し込みの画面より、かなり下にスクロールしなければ見られないところに書いていたり、スマートフォンでは読みづらい小さな文字で記載していました。しかしこの種のトラブルの多発により、現在は法律が改正されて、申込みの画面には、支払いの総額や契約期間を明記することになっています。

法律施行後、私は期間や総額を記載しない業者に電話をして、改善を求めたことがありますが、「そんな法律は知らない」とノラリ、クラリ、かわします。その時は、ネット上に載る法律文を読ませて、法令を遵守するように詰め寄ったこともありました。なかには、「うちの商品は、無期限なので、総額表示はできませんね」という業者もいましたが、その時は「だったら、契約の期限がないことを告げるべきでしょう」と、注文者が誤認するような書き方を厳しく指摘しました。

いまだに、誤魔化した表記を行う販売業者もいますが、今は、ほとんどの業者が、定期購入であることを書いています。ところが、いまだにこの種のトラブルが多いのです。なぜ、でしょうか?

スマホの画面が小さいため、注文する際に文面をしっかり読まずに、クリックすることもあるかもしれません。ですが、本当に利用者だけの落ち度、それだけでしょうか?これまで様々な悪徳商法を調査してきて、このトラブル発生の裏に悪質な業者側の戦略も垣間見えるのです。

業者による多様な罠

実は、きっかけになる最初の広告(ターゲッティング広告)から誘導された販売サイトには、定期購入であることが、利用者にはっきりと見やすく書かれていないことも多いのです。書いてあっても、激安価格の表示に比べて小さな文字で、しかも、目立たないような色を使い載せていたり、写真やたくさんの文字のなかに埋もれるように、重要なことを記載しているものも見られます。しかも広告文だけはやたらに長く、最後の申し込み画面にいくまで、時間がかかるような作りになっています。ここに、私は文章を読むのを面倒にさせて、読み飛ばしを行わせようとする業者の意図を感じます。

なかには、幾つかの広告を経由して、販売サイトへ誘導することもあります。こうなると、販売サイトの申し込み画面に総額や期間が書かれていても、多くの人は、すでに最初の画面で金額を見たつもりなので、つい「わかっているよ」と読み飛ばして、申し込みをしてしまいます。もし、私たちも知人から、同じ話を2度、聞いたら「知っているよ」と、聞き流すかと思いますが、まさに、そうした心理をついているといえます。こうした罠にはまらないためにも、申し込む際には、総額や契約期間をしっかりと確認するようにしてください。

もし記載の文字が小さかったり、画像や文章に埋もれさせるような誤魔化しを感じられるような表記をしている時には、悪徳業者の可能性もありますので、安さにはつられずに契約には慎重になるべきでしょう。

F字動線に要注意

もうひとつは、モノを見るうえで、目線というものがありますが、その裏をかいていることもあるでしょう。よくいわれるのが、ネット上では、F字型に目線が動くといわれます。サイトをみる際、まず目に入ってくるのは、画面の上部にある大きな見出しです。その見出しを左から右に読んでいき、興味を持てば、左上から下に目線を移して、興味がある文章があれば、その文章を左から右に読んでいきます。

それを繰り返します。つまり、サイト利用者の視線は無意識にF字型で動く傾向があるわけです。見やすいサイトはこのような作りになっているといわれます。逆にいえば、視線が移動するF字の動線に乗せなければ、人は気づかないことになります。悪徳業者はこうした閲覧者の動きが分かった上での騙しの罠を仕掛けているのではと、思うことがあります。

動揺を誘う卑劣な業者

以前に、テレビ番組で、私が横でサポートして、役者さんに怪しいアダルトサイトにアクセスしてもらいました。サイトのからくりについては、何も教えずに本人に任せる形で撮影を進めます。役者さんは、まず画面に大きく書かれている、いやらしいエッチなタイトルに目をつけて、「人妻の○○が○○して~」(仮)と、声に出して読みます。その下に再生ボタンのついた動画サイトを指さして「これをクリックしてみましょうか」と言うので、私は静かに頷きます。そしてクリックすると、突然、画面上に「年間使用料金、20万円を払うように」という請求画面が出ます。

それを見て慌てた役者さんは、業者に電話をします。

「すみません。いきなり、お金を払ってくださいという画面が出てきたのですが」というと、業者の男は、「画面には、規約が書いてあったでしょう。それを見なかったのですか?」と尋ねます。
「いいえ、書いてありませんでしたよ」
「いいえ、書いてありました」
「それでは、再生前の元の画面に戻って下さい」と言います。

料金が表示された画面のあるボタンを押すと再生前の画面に戻りました。役者さんはサイトの画面をみながら、「どこにも書いてありませんよ」と言います。
「いいえ、書いてあります」
「どこにですか!」語気を強めます。
「再生画面の上に、大きなタイトルがありますよね」
「ええ」
「はい、その上になんと書いてありますか?」
上にスクロールすると、なんとタイトルの上に「再生ボタンを押したら、年間利用料金として、20万円の料金が発生する」といった文言が書かれています。

一気に、役者さんは動揺します。
「すみません。見ていませんで」「それは、見落としたあなたが悪いんでしょう」と、一気に攻めたてられます。こうして「見落としたあなたが悪い」と言われて、お金を払わされる人は実に多いのです。ですが、私が横にいるので、お金は払わせません。契約とは双方の同意があって、成立するものですから、だまし討ちをするような表記でお金を払う必要はないことを伝えて、最終的に「架空の請求である」ことを攻め立ててもらい、嘘を暴き、相手に電話を切らせるようにしてもらいます。

通販トラブルを回避するために

このようにネットでは、F字の法則のように、下に下にと目が行くようになり、上には、行かないものなのです。まさに、このアダルトサイトは、人の目線の動きを巧みについた騙しといえるでしょう。これは一例ですが、悪徳・詐欺業者は、私たちの目線を微妙に外したところに、大事なことを記載します。その戦略を知ることは、身を守ることにつながります。

ですので、少々面倒でも、すぐに注文のボタンを押さず、間を置き、ゆっくりと上に下にスクロールして、注文内容を確認してください。そして、大きな写真や文字の間に、大事なことを隠すように書いていないかを見てください。私は15秒ルールをお勧めします。「商品がほしい」と思って、すぐに、タップするのではなく、最低、15秒は立ち止まってから、指先を押してください。

この間に、この商品の返品は可、不可なのか。総額はいくらなのか、契約期間は?など、チェックしてください。ネット上にある、すべての業者が善良なところとは限りませんので、一時停止して、慎重に前に進むことが、トラブル回避のためには大事なことなのです。

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