第五十六回「良さがまったくわからないジェファーソン・エアプレイン」

現地に行くと聴きたくなる音楽があります。先日、サンフランシスコに行って、車の中でグレイトフル・デッドを聴いたら、やはりなんだか良かったのです。

ですからサンフランシスコといえば、やっぱりデッドだな、などとしたり顔でいたわけなのですが、いつもグレイトフル・デッドを聴いていて思うのだけど、実は、本当のグレイトフル・デッドの良さは、われわれ日本人には理解できないのではないかと思えてくるのです。どうしてなのか自分でもよくわからないのだけど、これは、なんか、大きなところで、大きな人たちが聴く、アメリカの音楽だからなのだと。

それにわたし個人、グレイトフル・デッドの音楽は好きだけど、あのビジュアルが、あまり好きではありません。クマだとかガイコツだとか、サイケデリックなあの感じがちょっと苦手です。ちなみに一番好きなアルバムは、以前のコラムでも書いたけれど、『Workingman's Dead』です。

そんでもって、サンフランシスコの代表的なバンドのもうひとつといえば、ジェファーソン・エアプレインです。しかしながら、このジェファーソン・エアプレインのほう、わたしには良さがまったくわからないのです。好きな人がいたら申し訳ないのです。これは、わたし個人の単なる趣味の意見ですからご勘弁ください。

とにかく、ジェファーソン・エアプレインは、あの女の人の唄い方が嫌なのかな、どうにもこうにも、演劇的な感じがしてダメなのです。そんでもって、なんだかダサいアングラ感もダメです。インテリぶってる感も嫌です。

そのアルバムは、『Surrealistic Pillow』です。

最初に聴いたのは10代の頃でしたが、ジャケット写真にバンジョーを持っている人がいるのに、騙されてしまいました。「ああ、なんか、カントリー調の、素朴な音楽なんだな」と思ってみたら、まったく素朴ではなかったのです。

そんでもって、今回、ジェファーソン・エアプレインの『Surrealistic Pillow』を、ふたたび聴いてみたのですが、やはりダメでした。演技がかった歌声が好きにはなれませんでした。皆様も好きか嫌いかどうか、試しに聴いてみてください。好きな人がいたら申し訳ないです。これは個人的な感想です。

戌井昭人(いぬいあきと)

1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。

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