伊藤銀次と高橋幸宏、¥ENレーベルのクリスマスアルバムにみる2人のポップスター 1983年 11月28日 細野晴臣と高橋幸宏を中心とした ¥ENレーベルのオムニバスアルバム「WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS」がリリースされた日

ニューウェーブの立役者が名を連ねたクリスマスアルバム

1983年11月28日、その年のクリスマスを飾るべく飛ぶ鳥を落とす勢いの ¥ENレーベルより、アルバム『WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS』がリリースされました。

細野晴臣、越美晴、上野耕路、戸川純、立花ハジメ、高橋幸宏といった ¥ENオールスターだけに留まらずピエール・バルー、ムーンライダーズ、清水信之、大貫妙子、そして伊藤銀次といった当時の日本のニューウェーブの立役者も名を連ねる豪華な構成となっております。全曲解説と参りたいところではあるのですが、概ね当時の細野晴臣のテイストであるアンビエントなテイストでまとめられているアルバムの中からある意味異色と言えるかな? という2曲にスポットライトを当ててみたいと思います。

伊藤銀次の歌う、オーセンティックなロックンロールクリスマス

■ ほこりだらけのクリスマス・ツリー / 伊藤銀次
■ 作詞・作曲・編曲:伊藤銀次

こちら Re:minder でもおなじみの伊藤銀次さんの手になる、大人の恋愛の機微を綴った歌詞によるちょっと切ない気分を感じる、このアルバムでは唯一のオーセンティックなロックンロールナンバー。ボーカルもご本人ということで軽快な銀次節を聴かせてくれています。

また、先刻申し上げた通り ¥ENオールスターを中心としたなかでアン・ルイスや Exotics 時代のジュリー等のヒット請負人の参加は、伊藤銀次氏が日本のニューウエーブ界の牽引者であったが故かと思います。さらに、今でも現役バリバリのスーパードラマー山木秀夫や、のちにFENCE OF DEFENCE のギタリストとして活躍する北島健司を抜擢するなど “大人の本気を感じる名曲” と言えるでしょう。

当時のテクノキッズにこの曲がどのように届いたかがとても興味深いとろではありますが、1981年の大滝詠一『A LONG VACATION』発売に端を発する第一次ナイアガラブームの余波がまだあった1983年のことなので、これをきっかけにナイアガラーになられた方もいらっしゃるように思います。きっとそうです。

アルバムの大トリを飾る ¥ENレーベルマスター、高橋幸宏

■ ドアを開ければ・・・・ / 高橋幸宏
■ 作詞・作曲・編曲:高橋幸宏

さて、このアルバムの大トリを飾るこの曲は、¥ENレーベルマスター、細野・高橋コンビから高橋幸宏さんの手になるものであります。日本語でソロアルバムの曲を歌う場合、この方はとてもラブソングが多いのでありますが、この曲の中のドアを開けてプレゼントを見つける “君” が誰なのかはあまりはっきりしません。ただ曲の途中で回想と思われる描写があるところから子供なのかな? と想像をしてしまうのですが、それが誰なのか、立場としては父親なのか、そうではないのか… なども具体的には示されません。そんな余韻を残しながらこの曲の終了によってこのアルバムは終わります。

そしてこの曲のクレジットには、高橋幸宏本人とテクニカル・アシスタントとして藤井丈司、そしてエンジニアの小池光夫の三名しか記載されておりません。これは即ち事実上ほぼ高橋幸宏1名の手になる曲と思われ、そのようなアプローチはこれまで見られなかったものであり、以降の高橋幸宏の作品へのコミットが変わって行くことが予感される、象徴的な作品ではなかったかと思うわけであります。

こちらであえてこの二曲を取り上げさせていただいたのは、高橋幸宏、伊藤銀次というメロディーメイカーが同一の盤面に名を連ねるという事がこの時代ではこの盤でしか実現できていないように思うからなのでございます。

1983年の最前線サウンド「WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS」

その他にもピエール・バルーが作詞したサンバ的クリスマスナンバー「Ca jour la...」(作曲:加藤和彦、編曲:清水信之というコンビ)や、大貫妙子の作詞・作曲を、細野晴臣が編曲という形でコラボレーションした「祈り」等々、1983年当時の最前線のサウンドが詰まっています。

皆さんも、この『WE WISH YOU A MERRY CHRISTMAS』と出会うことがありましたら是非お聴きください。素敵なクリスマスが迎えられること請け合いです。そしてイブが明けて迎えた “25 Dec.” 、その朝に “ドアを開ければ” 貴方にも……。

カタリベ: KZM-X

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