「野村ID」受け継ぐ楽天三木監督と館山2軍投手コーチ 荒波を乗り越えた2人の野球人生

楽天の三木新監督【撮影:菊地綾子】

ヤクルト黄金期「ID野球」を知る三木監督

 2018年の最下位から巻き返し、今季はリーグ3位で終えた楽天。さらにチームを強化するべく、シーズン後に続々と新体制が発表された。注目は新監督に就任した三木肇氏と、2軍投手コーチに抜擢された館山昌平氏。2人の共通点は現役時代をヤクルトで過ごしていること。また、両氏に対して「知的」「頭脳派」といったイメージを持つ野球ファンもいるのではないだろうか。今回は楽天に新しい風を吹かせるであろう三木監督と館山コーチのキャリアを改めて紹介したい。

 野村克也氏率いるヤクルトがデータ重視の「ID野球」で日本一に輝いた1995年。この年のオフに行われたドラフト会議で三木監督は上宮高から1位指名でヤクルトに入団した。90年代は池山隆寛氏、土橋勝征氏、宮本慎也氏、辻発彦氏、00年代は岩村明憲氏といったタレント揃いのヤクルト内野陣のなかで、三木監督はプロ2年目の1997年から1軍の試合に出場。両打ちのユーティリティープレーヤーとして貴重な戦力となっていった。

 2008年にトレードで日本ハムへ移籍するも現役を引退。日本ハムで指導者としてのキャリアをスタートさせる。引退翌年の2009年にファーム内野守備コーチへ転身すると、2012年から1軍内野守備コーチを務めた。この間に教えを受けた主なメンバーは杉谷拳士内野手、中島卓也内野手、西川遥輝外野手など、現在のファイターズを担う面々。自身の現役時代と似た、俊足で守備の堅いプレーヤーを成長させた。

 2014年からは古巣ヤクルトにコーチとして復帰すると、2015年にリーグ優勝に貢献。特に山田哲人内野手は三木監督が1軍コーチ就任した2015年以降、盗塁数が30を越えるようになり、球界を代表する走攻守全てを兼ね備えた選手へと飛躍している。

三木監督は今季2軍監督でイースタン・リーグ優勝に導く

 そして今季、楽天の2軍監督へ。就任1年目ながら、70勝48敗5分で球団創設15年目初のイースタン・リーグ優勝へと導いた。昨季チーム盗塁数がリーグ最少60個だったのが、今季はリーグ4番目に多い99盗塁に増え、チーム守備率.983は千葉ロッテ並ぶ同率1位だ。選手起用の面では、内田靖人内野手や西巻賢二内野手といった若手を根気強く起用しながら、今江年晶内野手、嶋基宏捕手のベテラン勢の調整の場も設けた。個人タイトルでは藤平尚真投手は勝率第1位投手賞を、小野郁投手が2年連続2度目の最多セーブ賞を獲得している。

 10月14日に行われた1軍監督就任会見で三木監督は「野球というスポーツは、すごく間が多く、考える時間がありますので、『頭のスポーツ』であると僕も教わりました。それ以外(運動能力など)の部分ももちろんあるのですが、野球のことをたくさん勉強して、色々な知識をつけていくことが大事かなと思います」とチームへの印象を話した。

 今季の楽天はリーグ最少の48盗塁。対する優勝した西武は強打とともに、チーム盗塁がリーグ最多134個という足を使った野球も大きな強みになっている。だからこそ、ヤクルト黄金期を知り、走塁指導に定評を持つ三木監督にかかる期待は大きい。

館山氏にかかる期待、藤平、釜田ら若手の台頭も

 ファームの投手コーチに入閣した館山昌平氏は、プロ17年目の今季で現役を引退したばかり。2002年のドラフト会議で3巡目で日本大から入団。1981年3月17日生まれ、いわゆる「松坂世代」と呼ばれる世代だ。

 スリークオーターから投じられる力強い直球は、現役最後の年になった今季も140キロ中盤を記録(6月12日楽天戦では最速144キロ)。さらにスライダー、フォークなど多彩な変化球で打者を幻惑。巧みな投球で2008年から5年連続2桁勝利を挙げ、右腕の館山氏と左腕の石川雅規投手の二枚看板で東京ヤクルトをけん引した。

 館山氏が多くの野球ファンをひきつけた理由として、ケガ・手術を何度も乗り越える不撓不屈の姿も挙げられるだろう。右ひじ靱帯、血行障害の治療のため引退後を含めて計10度の手術を経験。それでも必ずマウンドへ舞い戻った。右ひじ手術明けで6勝を挙げた2015年にはカムバック賞を受賞している。

 荒波を乗り越えてきた右腕は、どのような指導者になるだろうか……。投球術の指南はもちろんだが、自身の経験と幅広い見識を元に体との向き合い方や心のあり方も伝えてくれるだろう。今季ファームのチーム防御率はイースタン2位の3.01。そこにはイースタン・リーグ最多107奪三振を記録した藤平投手、館山コーチと同じようにケガからの完全復活を目指す釜田佳直投手など成長を待たれる投手陣が在籍している。

 また、ヤクルトから加入し、今季楽天での1年目を終えた由規投手は館山コーチと「スワローズとイーグルスの設備、環境の違いについて話した」という。杜の都で指導者人生をスタートさせた館山コーチ。彼の手ほどきで若鷲たちには大きく羽ばたいていって欲しい。(「パ・リーグ インサイト」菊地綾子)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

© 株式会社Creative2