登山ウェア、ちゃんと選んでる?
ザック、登山靴、レインウェアの3つは登山の三種の神器とも言われ、快適に登山を楽しむために自分にあったものを選ばなければいけません。
そして安全で快適な登山において、三種の神器選びと同じくらい大切なのがウェア選び。
乾きにくいウェアはNG!
登山では、汗でウェアが濡れることによって起きる汗冷え対策が必要。基本的に濡れると乾きにくい綿素材のウェアは選ばず、すばやく乾くポリエステルが重宝されてきました。
世界一わかりやすい『登山に綿のTシャツを着ていくのがNGな理由』
「登山に綿はNG!」ということは、よく言われています。スポーツ用の速乾ウェアの方が、コットンのTシャツやパンツより汗が早く乾くから…と...
そしてポリエステルと同様に根強い人気なのが、羊の体毛から作られる繊維であるウール素材のウェア。その中でも「メリノ種」の羊から採れる細く柔らかいものは、メリノウールと呼ばれ重宝されてきました。
まるで魔法の素材?メリノウールって最高!
メリノウールには上の画像のような特徴があり、まとめると登山において着心地が良い(調湿機能、温かい、涼しい、防臭、柔らかく着心地が良い、汚れにくい、紫外線保護、その他)素材ということ。
私も登山でメリノウール素材のウェアを愛用しているのですが、実は少し気になることがあるんです・・・。
メリノウールって乾きにくい?
メリノウールのような吸水性が高い素材は水をたくさん吸うことができますが、それは同時に乾きにくいということでもあります。
つまり汗をかいてウェアが濡れた場合、汗冷えが起きるリスクがあるということ。
しかし、吸水性があり乾きにくい綿で懸念される汗冷えが、どうして綿以上に水分を吸収するメリノウールでは言われないのでしょうか?
いろいろ調べてみたのですが、わかったようなわからないようなモヤモヤとした感じです。
不思議すぎるメリノウールのチカラ。どうして汗冷えしにくいの?
モヤモヤしててもしょうがないので、ウールの良さを広げるために活動しているザ・ウールマーク・カンパニーの安江さんに、メリノウール素材のウェアが汗冷えしにくい理由を聞いてみました。
汗冷えしにくい秘密は繊維の表面にあり!
編集部 大迫
吸水性が高く乾きにくい素材は、汗などで濡れてしまうと冷えを感じやすいですよね?どうして、メリノウールを使ったウェアは汗冷えしにくいのでしょうか?
安江さん
汗冷えしにくい秘密は、メリノウールの表面のスケール(うろこのようなもの)にあるんです。
編集部 大迫
スケールについては、自分で調べていた時にでてきました。メリノウールの表面は、こんな感じになっているんですよね?
安江さん
そうそう。繊維の表面は水を弾く撥水性。そして繊維の内側は水に馴染む親水性の機能があるので、水を吸収します。
編集部 大迫
吸水するチカラが高いということは、乾きにくいということじゃないんですか?
繊維の内側は濡れている状態なのに、どうして冷えを感じにくいのでしょうか?ここがいまいち理解できなくて・・・
安江さん
鋭い質問ですね。確かに繊維自体は濡れている状態です。これは言葉で説明するよりも、どんな状態か見てみるとわかりやすいですよ。
濡れているかどうかではなく、肌に触れるかが重要
安江さん
左がメリノウールで、右が綿です。
どちらも汗を吸って繊維の中には水分がある状態なのですが、メリノウールの方は繊維の中に水分が閉じ込められているような状態なので、濡れていることを肌が感じにくくなっているんです。
編集部 大迫
なるほど。絵で見るとわかりやすい。実際に繊維は水分を含んでいるけれど、その水分があまり肌に触れていない。
つまり、汗を伝って身体の熱が逃げやすい状態になっていないんですね。
安江さん
疎水性と親水性のバランスが、それを実現しているんです。
しかもメリノウールの場合、繊維内の水分が蒸発することで繊維自体が冷えます。間接的に衣服内を冷やすので体温が下がりすぎず、着用者は急激な冷えを感じないのもポイントです。
止まらない!メリノウールが登山にピッタリな理由
汗冷えの仕組みとメリノウールの有用性がわかったところで、次は登山で着たくなるような機能について掘り下げていきます。
快適さのポイントは圧倒的吸水量!
安江さん
さきほど出たメリノウールの吸水力なんですけど、他の繊維と比較するとこれくらい違うんですよ。上にあるほうが優位です。
編集部 大迫
こんなにも違うんですね。
安江さん
この豊富な吸水力は、汗冷え以外にも登山者にうれしいって知っていますか?
編集部 大迫
それって吸湿性のことですか?水のようになった水分だけでなく、水蒸気の状態である湿気も吸収してくれるという。
編集部 大迫
人間は常に身体から汗を放出しているので、蒸気のような汗を吸ってくれるのはいいですよね。ムレないからほんと快適。
安江さん
そのとおり、さすがメリノウールを愛用しているだけある。なのでメリノウールを着ていると、肌表面は常にドライな状態なんです。
しかも、湿気を吸うことでメリノウール表面のスケールが開きます。すると、水分吸収が早くなっていくんですよ。
編集部 大迫
それは知らなかったです。夏場は特にウェア内が湿気でむわっとして不快だったんですけど、メリノウールにしてから不快な湿気がなくなって本当に衝撃的でした。
安江さん
しかも、衣服内の湿気を吸収しつつ、外へ湿気を放散して放熱も行ってくれます。
つまり、衣服内を常に快適な状態に保ってくれるんです。
編集部 大迫
過剰に熱くなったり寒すぎたりせず、常に快適な状態を作ってくれるので筋肉の疲れなども起きにくいですね。
防臭性!UV対策機能!まだまだ出てくるウールの強み
編集部 大迫
メリノウールの機能では忘れちゃいけないのはが防臭性。そのせいか、メリノウール素材の靴下を履いている人も多い気がします。
安江さん
天然の抗菌作用によって悪臭のもととなるバクテリアの増殖を防ぎますし、においの元となる分子を繊維内に閉じ込めるため、菌が分子のところまでたどり着けないんですよ。
編集部 大迫
メリノウールのにおいに関するさまざまな研究結果が出ているようですが、どんなにおいにも効果的なんですか?
安江さん
汗のにおいやにおいの三大要素といわれるアンモニア、イソ吉草酸(※)、酢酸では効果が実証されています。しかし、全てのにおいで実験したわけではないので、すべてのにおいに有効とは言えません。
※イソ吉草酸:足のにおいの原因と言われる物質
編集部 大迫
それでも、かなり有用であることがわかりますね。
におい以外でも夏に着た時に印象的だったのが、ポリエステルのウェアにくらべて日光を熱く感じなかった点です。
安江さん
メリノウールは断熱性があるので、涼しく感じます。そして意外と知られていないのが紫外線への強さです。SPFは30もあるんです(綿やポリエステルは10。繊維比較)。
編集部 大迫
そんなにスゴイんですね。本当に、登山にうれしい機能をもった素材ですね。
安江さん
いや~本当に不思議で多機能な繊維なんですよ。
あらためて言おう!「メリノウールは最高である」と
汗冷え、におい、保温性、調湿性、UV対策など、そのチカラをあらてめて知ると長年の間、登山者に選ばれ続けてきたことにも納得です。
生地を厚みを変えれば、年中着られるメリノウール。ぜひ、ウェアやソックスなどを身に着けて快適に登山を楽しんでください。