英語教育への危機感は中学受験層にも、じわじわと増えているダブルディプロマ制度

中学受験に関する数字を森上教育研究所の高橋真実さん(タカさん)と森上展安さん(モリさん)に解説いただく本連載。

いよいよ今年も中学受験まで2カ月を切りました。受験生のいるご家庭では、これからがラストスパート、一日一日が気の抜けない毎日だと思います。

親御さんは、本命校はもちろんのこと、併願校についてもしっかり準備されているでしょうか。

学校の情報は絶えず変わっていくもの。大学受験における英語の混乱もあり、中学受験でも英語教育を行う中高一貫校への期待が高まっています。ここにきて、相次いでダブルディプロマ・コースの開設を発表する学校が増えてきました。

そもそもダブルディプロマ・コースとは何なのでしょうか?新しい英語教育の形と言えるのでしょうか?

今回の中学受験に関する数字…×2


ダブルディプロマって何?

<タカの目>(高橋真実)

今回のテーマは、グローバル教育の最近の注目キーワード、『×2』=ダブル、「ダブルディプロマ」です。

ダブルディプロマとは、国内と海外の2つの学校の卒業資格を得ることができる教育プログラムです。

このダブルディプロマを高校でいち早く導入したのが文化学園大学杉並高校です。文化学園大学杉並高校では、カナダのブリティッシュコロンビア州教育法によって認定されたカリキュラムを提供するダブルディプロマ・コース(DDコース)を設け、このコースの卒業生には日本とカナダの両方の高校の卒業資格を得ることができます。

DDコースを卒業し、英語圏の大学・短大へ進学を希望する場合、一定の成績基準を満たしていれば、一般的な留学の際に必要な検定試験を受けなくても出願が可能となります。

2015年度からスタートした本コースでは、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学をはじめとした海外大学へ進学した卒業生もいます。文化学園大学杉並中学校では、高校からのDDコースに備えるため、2年生から準備コースも設けられています。

多様化する中学・高校のグローバル教育

ここにきて、麹町学園女子、神田女学園、国本女子が相次いで2020年度からのダブルディプロマ・コース開設を発表し、ダブルディプロマに注目が集まっています。

以前、グローバル教育と言えば英語教育の充実と海外での語学研修がほとんどでした。私立中学・高校では、ターム留学などの多様な留学プログラムを用意する学校も少なくありません。

その後、文部科学省のグローバル教育の施策の1つであるスーパーグローバルハイスクール(SGH)がスタートしたころから、海外研修の内容が変化していきます。英語を学ぶことが中心だったものが、渡航先の大学でのプログラムに参加する、企業を訪問する、ボランティア活動をするなど、体験型のプログラムが増えてきました。

グローバル人材となるために必要なのは、むろん英語力だけではありません。異なる文化を理解し、そこで生きる人たちと共生するマインド・セットも重要な要素です。こうした要素も踏まえ、中学・高校のグローバル教育は多様化しています。

こうしたグローバル教育の潮流の中でダブルディプロマへの取組みが増えていく背景には何があるのでしょうか。

日本の学校と海外の学校、両方の資格が取れる

<モリの目>(森上展安)

タカの目さんの今回の数字は「かける2」。つまりダブルですね。何がダブるかというと「ディプロマ」がダブルということなのですが、それで思い出すのは「ダブルディグリー」ですね。2つの大学の課程を修徳して卒業資格を得るというような意味に使います。

今回は大学の話ではないということもあるのでしょうが、「ディプロマ」がダブルと言っていますね。ディグリーの方は「課程」の意味合いが強いのに対して、ディプロマは卒業「資格」の意味合いが強いという点が違いますが、両者とも通常は日本の学校と海外の学校と両方の教育を受けて両方の卒業資格が取れるという点では同じことなのだと思います。

女子校だから成功する?

カナダの場合、アメリカ以上に多文化共生に熱意があり、州によって違いはあるようですが、要は正式に高校の公教育の内容を海外の高校に指導できる仕組みがあり、その仕組みを取り入れるとカナダの高校の内容を修得したということで高校卒業資格が得られ、従ってカナダの大学に出願進学することがカナダの国内生同様に可能になるということです。

このようにカナダの高校の卒業資格が得られることでカナダの大学進学の展望が得られるわけですから、重点は「ディプロマ」なのですね。

大切なのは、「居ながらにして」という点です。留学しないで日本の在籍校でカナダの先生の指導が受けられるのが魅力でしょうか。言うまでもありませんが、その心は留学ほどには費用が掛からない点がまずもって魅力であり、留学のようには心配しなくてよい安心感もありますね(もちろん、その分、異文化体験のメリットはなくなりますが)。

ただ、同じダブルディプロマでも麹町学園女子と神田女学園のそれはアイルランドやニュージーランドの高校で、こちらは向こうの高校に一定期間(2年間くらい)留学するようにスケジューリングされています。それでも在籍校を休学にしないで、また向こうに行きっぱなしでもないスタイルです。

こうした学校は多くが女子校(文化学園杉並は近年共学化しましたが)で、入学自体は入りやすくて、女子ですから日本と外国の高校内容との両方の勉強は時間がとられ大変ですが、基本的に真面目ですから、やり遂げられます。

やり遂げればカナダ等の海外大学にまず間違いなく進学できますから大学入試もクリア。得られるものとしては、こうした資格もさることながら、やはり語学力であり会話力であり積極性なのだろうと思います。

こうなると、高い確率で就職先に恵まれます。大学で秋田国際教養大が極めて就職が良いのと同じで、語学力があり積極性があることが属性として身につきます。

つまり、従来なら親子ともども相当程度覚悟して留学させなければ得られないものが、小さなマインドセットと塾・予備校費用分くらいで就業まで展望できることが一定の人気が見込まれる理由でしょう。

国内だけでなく、海外大学をも見据えた学びが出来る

一方、これからわが国の大学進学も従来の一般入試は減少し、多くが総合選抜型になると言われています。その意味でも、普段の高校での学びがそのまま大学に接続しているのですから、いわば国内大学でこれから進むはずの「接続」が、こうして実際に稼働しているという安心感、安定感もあると思います。

これまでのように海外大学を出て就職することが一般的でなかった時代は、やはり日本の会社文化、会社風土もドメスティックなものでしたが、もはやそこは一変しており、海外はもとより国内の会社でも外国人が働いており、グローバルな多文化社会に移行しつつあることは事実です。そうした中で活躍を求められるのですから、知的好奇心が強く柔軟性に富む高校生時代にその素地ができるなら歓迎されるでしょう。

そしてこうした教育が女子校に多いことは、女子校がかつて多かった専業主婦前提の教育からキャリア重視の教育に転換すべき時代にあって、女子の強みである誠実な努力でコミュニケーション能力を磨き、キャリアアップしていく具体的な進路として浮上したものでしょう。

タカの目さんも書かれているようにSGH事業がスタートして以降、体験型の留学プログラムが増えてきたということもありますが、これに先立って大阪薫英、佼成女子のニュージーランドなどへ一年間留学させるプログラムがあり、英語力の伸長もさることながら精神面の成長が顕著に見られました。(その後一年留学は他に郁文館グローバルなども取り入れています)

ダブルディプロマのうちカナダとのものが「居ながら」スタイルなのでハードルが低く、アイルランドとのものは二年間留学ですから、一年留学より少し高いハードルとなります。

そのように一年留学を軸にしてみると体験の幅がより多様になっている反面、総合選抜型(海外大学進学)というところが時代志向的と言えます。なお立教英国のように提携する日本の高校生を高2で預かり、イギリスの名門大学に行かせる方法もあります。

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