メクル第423号 自己表現する大切さ学ぶ 演劇ワークショップ 長崎・南小中

3枚の写真や役の性格を考えながらストーリーを作っていく中学生=長崎市立南小中

 「劇(げき)で演(えん)じるだけが表現(ひょうげん)ではなくて、見ていて笑う、泣く、拍手(はくしゅ)するというのも立派(りっぱ)な表現です」-。
 コミュニケーション力や自己(じこ)表現力を高め、自分や他人への理解(りかい)を深める演劇(えんげき)ワークショップが9日、長崎市千々(ちぢ)町の市立南小中(岡田政宏(おかだまさひろ)校長、児童・生徒各8人)でありました。演劇を通じ、伝えること、表現することの大切さを学びました。

 同校は小学校と中学校の併設(へいせつ)校で、児童と生徒合わせて16人。幼(おさな)いころから一緒(いっしょ)で、とても仲良しです。でも子どもの数が少なく、限(かぎ)られた人間関係なので、自分の気持ちを伝えたり、人と積極的にかかわる経験(けいけん)が不足する傾向(けいこう)にあるそうです。ワークショップで他人とかかわるこつを教わりました。
 講師は、長崎市の劇団(げきだん)「Fs’(フーズ) Company(カンパニー)」代表で、脚本(きゃくほん)や演出(えんしゅつ)も手がける福田修志(ふくだしゅうじ)さん(44)ら3人。小学生と中学生が午前、午後に分かれて、さまざまなことに取り組みました。

♪状況を伝え合う

 まずは、2人組でゲームに挑戦(ちょうせん)。つま先をくっつけ、両手をつないで向き合い、体を後ろに倒(たお)してVの字を作り、お尻(しり)を下げながら突(つ)き出していく。やってみますが、お互(たが)いのタイミングがずれて、うまくいきません。
 ここで福田さんがアドバイス。「『わー』とかじゃなくて、『もう少し倒れて』とか『お尻下げるね』とか、自分がどうしたいか、どうしてほしいのかを相手としっかり話をするとうまくいく」
 お互いの状況(じょうきょう)を言い始めると、成功するペアが出てきました。自分や相手の状況を把握(はあく)し、伝え合うことで、うまくいくことを実感していました。

♪イメージを共有

 次は、輪になってボール渡(わた)しゲーム。本物のボールを渡した後、ボールを持っているつもりで同じように渡します。
 でも、ボールの大きさが変わってしまったり、ボールを手放す動きがなかったり。「やってる人が、頭の中で同じ大きさや形などを考えないといけない」と福田さん。想像(そうぞう)力を働かせ、同じイメージを持つことで、ないはずのボールが見えてくるのだと分かりました。

♪意見を出し合う

 いよいよ4人ずつ2班(はん)に分かれて物語作り。「カトリーナ(ずるい)」「シリン(のんびり)」といった役名と性格(せいかく)などをそれぞれ決めて、3枚(まい)の写真を基(もと)に物語を作っていきます。
 ある小学生のチームは、「泣き虫」のミハエルが、いなくなったカブトムシを探(さが)しに行くストーリー。「やさしい」「頭がいい」といった登場人物の性格・特徴(とくちょう)や星空の写真などから物語のイメージを膨(ふく)らませていきます。「カブトムシがいなくなったら、どう思う?」「『誰(だれ)かが持って行ったの?』って思う」。意見を出したり、質問(しつもん)したり。約30分後には一つの物語が完成していました。
 さて、お披露目(ひろめ)の時間です。
 ミハエルはカブトムシを探している途中(とちゅう)に出会ったうそつきのクラリスにだまされ、無理やり廃棄場(はいきじょう)で働かされます。ようやく逃(に)げ出すと、夜空からたくさんのカブトムシが飛んできて、そのうちの1匹(ぴき)がミハエルの頭の上で話しだしました。
 「ぼくは本当は(ミハエルが飼(か)っていた)カブトムシだったんだ。ミハエルにつかまえられて、やり返しただけなんだ」
 このカブトムシはミハエルから逃げた後、うそつきのクラリスに化けて仕返しをしたのです。でも後悔(こうかい)し、最後は謝(あやま)って仲直りしました。
 絵本のようなすてきなストーリー。みんな物語の世界に引き込(こ)まれていました。

♪想像する大切さ

 3年の橋本和馬(はしもとかずま)君(8)は「楽しい劇にしたくて面白いことを考えた」。4年の山崎恵美里(やまさきえみり)さん(10)も「みんなの意見でどんどん話が変わっていって、すてきな物語ができた」と笑顔でした。
 中学生も、風車の写真から発電所をイメージしたり、煙(けむり)を山岳(さんがく)地帯で使う酸素(さんそ)に見立てたり。「写真の中にある少ない情報(じょうほう)からみんなで想像し、話し合ってストーリーを作った。最初は3枚の写真をどうつなげるのか不安だったのに」。3年の森永(もりなが)蒼空(そら)さん(15)は、想像力を膨らませることの大切さを実感していました。

♪ ♪

 福田さんは「劇だけでなく、絵を描(か)く、演奏(えんそう)することも表現。やる人と見る人がいて成り立つ。見る人が笑う、泣く、拍手(はくしゅ)するというのも立派な表現」と教えてくれました。
 相手のことを考え、想像する。自分の意見も伝え、共有しながら一緒に取り組む。その大切さを知った中学3年の古本瑛子(ふるもとえこ)さん(14)は-。「自分の気持ちを表現するのは言葉だけじゃない。拍手の仕方もだけど、身ぶり手ぶりも使って率直(そっちょく)に伝えていきたい」

4人で考えた物語を発表する小学生
中学生4人は、発電の仕事をしている2人の物語を発表

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