地方都市から始まる夢物語…FC今治、中島啓太さんインタビュー(3)

Jリーグへの入会を決めたFC今治について、Qolyでは「サカつく」の宮崎伸周プロデューサーと共に「リアルサカつく」の実態に迫っている。

矢野将文社長に続いてお話を伺っているのは、20代にしてクラブの経営企画室長を務める中島啓太氏。

ここまで2回にわたり、今治にやってきた経緯から岡田武史氏への思募、クラブのビジョンなどをお届けしてきたが、最後となる今回は、スタジアムの“あるところ”に込められた想いなどロマン溢れるストーリーを明かしてくれた。必読だ。

FC今治の企業理念

中島:私たちはサッカー以外にもこの企業理念のために、スポーツ、健康、教育事業の3つでアプローチしようとしています。

競技でいうとサッカー、性別で言えば男性、年齢層でいうとトップチームを多くのみなさんは「FC今治」として認識してくださっていると思います。

でも、ユースやジュニアユースもあれば、サッカースクールもあり、その下の保育園・幼稚園にコーチが毎日無料で巡回しに行くとか、女子バスケットボールのチームとか、スポーツだけでもいろいろあります。

教育事業でいえば、公園の指定管理の事業をとって、幼稚園の先生や子供を集めて森に行く。火起こしの体験や無人島でキャンプをして生きる大切さを学ぶとか、一見サッカーと全く関係ないわけです。

――ちょうどラグビーW杯が大盛況のうちに終わりましたが、実はQolyも必ずしもサッカーにこだわっているわけではないんです。もちろん読者の方はサッカーだけにしてくれって人もいるでしょうが、最初から入り口を狭めようとは思っていなくて。

中島:そう思いますね。それがたぶん、それぞれの組織とかチームが目指しているビジョンや夢、目標とかだと思うので。私たちの場合は、心の豊かさを大切にしたい。

中島:逆説的なのですが、この地域の面白さというのは、そのスタンダードがなかったことだと思っています。

つまり、サッカーってどんな服装していくの?どうやって応援するの?例えばゴール裏とメインスタンドがあったら、どこに座ればいいの?というところからのスタートだったんです。

この夢スタが竣工する以前、四国リーグに在籍していた時は人工芝のピッチで試合をしていたのですが、そこはメインスタンドしかないんですよ。そうすると、その時代から応援してくれているファンの中には、夢スタが竣工した後も、ゴール裏ではなくメインスタンドに座る人も沢山いるわけです。

だから、ずっと飛んだり跳ねたりはしていないかもしれませんが、夢スタのメインスタンドのほうにも昔から応援してくれているファンもけっこういます。昔はメインスタンドしかなかったから。

これは世の中のサッカーカルチャーとはちょっと違いますよね。でも狙ったわけではなくて、この地にあったその当時のものを一緒に作っていこうとすると結果この文化になった。

自分たちから夢を掲げ、そこに共感してくれた人と一緒に「新しい文化」を作っていく。だけどあるものを使うみたいな。この共創関係は、この地域独特の面白さなのかなと思いますね。

「応援の型」とかって、それが正解かどうか誰も分からない。たぶんファン中にも、もっとこうやったらいいとか、野球みたいな形式の応援のほうが盛り上がるんじゃないかとか思う人もいらっしゃるんじゃないかと思います。

でも別に誰も全否定しない。なぜなら私たちにはスタンダードがなかったので。そういう意味で、ゼロから共に作り上げていく楽しさというのは、確かにこの町にあるのかなと思いますね。

再現性のない魅力

――Jリーグは企業チームがプロ化しておよそ30年。それぞれの歴史があってもう簡単には変えられないですよね。ないところからできるという意味では、下のクラブのほうがいろんなことができるし可能性があるのでは。

中島:確かにそうかもしれませんね。文化とは時間をかけて自ずと形成されるものだと思います。その30年の歴史・文化は少しずつ方向性を変えることはできるかもしれないですけど、突然なかったことにはできないですから。

宮崎:エデュケーション(教育)ってすごい時間がかかりますよね。5年、10年のスパンで考えないと。

中島:なかなか難しいですよね。人の心が変わらないとできないことなので。

岡田さんが今治を選んだ理由の一つが、ご自身がこの地に長い間、関係性があったことは間違いありません。でも同時に、今あるものをゼロに戻してスタートするのではなく、ほぼゼロからスタートしたほうがいいという考えを持っていたことも事実だと思います。

それはもしかしたら岡田さんの直感だったかもしれないのですが、その選択を存分にみんなが活かそうとしていると思います。それは私たち会社のメンバーも選手も、もちろんファンもそうだと思います。

ほぼ何もなかったところ…大西SCとして約40年前に創設され、随分以前から応援してくれるファンもいるので、何もなかったわけではないですが、岡田さんが来てみんなで一緒にリスタートするという楽しみは、唯一無二で再現性のないものかと。

――そこはすごい「サカつく」的ですよね。

宮崎:うんうん。

中島:今の世の中って、再現性を求めすぎだと思うことがあります。とあるところで成功したモデルを「横展開」という言葉を使ったり、実証実験で成功したモデルを広げたり、何かこうやる・攻略法があるという考え方に基づくことって多いと思いますよ。

でも結局のところ、当たり前ですけど地球上で人間が生きている限り同じことは起こり得ない。そこにドラマを持っているかどうかってすごく大事だと思う。

岡田さんがもう一回生まれてくることも、現在の同じメンバーが再び集まることも残念ながらなくて、今頑張っている選手がまた集まることもない。

町だって、ひょっとしたらお世話になっている会社が潰れるかもしれないし、自然災害に襲われるかもしれない。いろんなことがあるなかで、再現性のないものに私たちは乗っかっている。その船旅を一緒に楽しめたらなと思います。

――船旅といえば、クラブのテーマの中に「海賊」というのもありましたね

中島:夢スタでは、私たちスタッフとボランティア組織「Voyage」のみんなで、海賊の衣装を着てお客さんをおもてなししています(笑)。

それも、私たちのチームやスタジアムのコンセプトです。今治は海の町だから、クラブのエンブレムカラーは瀬戸内海の群青、夜の海を照らす灯台の光・黄色、上がる波しぶきの白。

群青とイエローとホワイトであって、ブルーでもネイビーでもないです。言いやすいからブルーとネイビーというだけで、私たちは群青、瀬戸内海の海の色であり、灯台の光です。

そうすると私たち「海賊」として、この町から世界の波にうって出ていくこの景色は絶対に消せない。だからスタジアムにはバックスタンドがないんです。

残念ながら先日亡くなられたのですが、我々の会社のアドバイザリーボードに建築家の鈴木エドワードさんがいらっしゃいます。夢スタがまだ山だった時にきて、向こう(海側)の景色を見てこのように仰いました。

「このチーム、この風景を大事にしていいんじゃないですか。」

もちろん土地とかお金の制約もあったのですが、この風景とストーリーを大事にするがゆえに向こう(バックスタンド)がないです。吹き抜けになっています。

もちろん次のスタジアムも、できる限り海の景色を残したい。瀬戸内海から昇る朝日も美しいですし、この地域にしかないものを残していきたいですよね。

そうすると、スタジアムは船に見立てることができる。選手のクラブハウス…選手入場の時、LDH JAPANのアーティストの方々が作ってくれたFC今治応援ソングがかかって、サビの部分でクラブハウスのドアが開きます。

ドアが開くのを待つ選手の横には「We sail to the Dream」(夢に向かって航海する)…造語ですけどそれが壁に刻まれている。

今から夢の舞台に向かって私たち出航して行くぞというのを、選手が入場するの最後の瞬間に残してほしい。そんな選手をお客さんが拍手で迎えて、今から一緒にこの船で旅をしていくというストーリーを作る。

そういう場所にしていきたいという想いはありますね。

宮崎:ちょっとびっくりしました。「クラブとスタジアム」がセットかと思っていたら、実は景色もセットで。

中島:はい。でも、もちろんいきなりそうなったわけではないですよ。

私たちがスタジアムビジョンとかコンセプト、お客さんをこういう雰囲気でおもてなししたいと発信するから、だったらLDH JAPANさんが海賊の衣装をデザインしますとアドバイスをいただきました。

デロイトさんだったら、海賊衣装はデザインできないけど、この1日をデザインするために観戦者調査をして、お客さんにこういう体験を提供できればもっと盛り上がりそうですよとアドバイスを頂きます。

ユニフォームは、松山市出身でLDH JAPANに所属するEXILE/GENERATIONS パフォーマーの白濱 亜嵐さんがデザインしてくださる。その時に、LDH JAPANさんのブランドのインスピレーションもあるのですが、この町はやっぱりブルーでね、群青でねと。そうすると波っぽいから今年はボーダーにしてみようとかになるわけです。

そのブランドとか私たちの夢やコンセプト、ビジョンがあるから言葉になる。言葉になるから伝わるし、伝わるから伝染するし、乗っかってくれる人たちがいます。

ひょっとしたらハードウェア的に時代の最先端のものではないかもしれません。それでも、スタジアムビジョンを掲げ、それに則ったストーリーを作り、小さなワクワクを感じてもらえる様な演出をちりばめるのが、この夢スタです。

その夢やビジョン、そしてそれに共感して応援してくれる方々、この“無形資産”を私たちは大事にしていきたいと思っています。

最近はサポーターも「今治タオルを揺らせ」とか。今治しかできない、再現性がない応援をやり始めてくれているようです。

それが体験できる船に一緒に乗りませんか、というのが私たちの“口説き文句”です。

(FC今治の取材はまだ終わらない!続きは近日公開)

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プレイヤーは自分だけのオリジナルクラブの全権監督となり、クラブを育て、選手をスカウト。そして、育てた選手とともに世界の頂点を目指します。

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