指導者を表彰する「ベストコーチングアワード」誕生 現場で生かしたい医学の知識

指導者を対象とした「ベストコーチングアワード」の表彰式が行われた【写真:佐藤直子】

一般社団法人スポーツメディカルコンプライアンス協会が制定、全41チームが受賞

 指導者を対象とした新たな表彰制度が誕生した。一般社団法人スポーツメディカルコンプライアンス協会(SMCA)は15日、「エニタイムフィットネス Presents ベストコーチングアワード2019」の表彰式を行い、全国の少年野球チーム、中学生野球チームの中から、古い慣習にとらわれず最新の練習方法や教育を実践しているチームを表彰した。

「ベストコーチングアワード」は全国の少年野球チーム、中学生野球チームを対象に、その指導方法に新しい評価基準を設け、実践しているチームを3段階に評価、表彰する日本初の試み。成長期にある小中学生に対して、指導者がしっかりとした知識を持ち、子供の将来を見据えた指導をしていると考えられる全41チームを表彰した。また、エニタイムフィットネス特別功労賞には、子どもたちの障害予防と無限の可能性の探究と育成を目指した画期的なルール「SUPER PONY ACTION 2020」を制定した一般社団法人日本ポニーベースボール協会が選ばれ、同協会理事長で元ヤクルトの広澤克実氏が出席した。

 表彰式には多数のゲストが出演。まず、肩肘を専門とし、これまで何人ものプロ野球選手の治療・手術を手掛けてきた慶友整形外科病院の古島弘三医師が講演。「医学知識を野球指導に生かす」をテーマに、成長期にある子どもたちに対して長時間練習させることの危険性、痛みを早く知るためのコミュニケーションの重要性、十分なリカバリータイムを取ることの大切さなどを説いた。

 古島医師が調べ、蓄積したデータによると、小中学生に肘痛を経験した子どもが高校生になって肘痛や肘の怪我を再発する確率は約46%で、小中学生で肘痛を経験しなかった子どもが高校生になって肘痛や肘の怪我をした確率約10%と大きく差がついた。また、骨や筋肉、関節が未発達な小中学生の体に過度の負担をかけると成長ホルモンの分泌が減少し、疲れが抜けずに体の成長が促されないばかりか、精神面での成長にも影響を与える可能性を示した。

元横浜・野村弘樹氏「何事も“過ぎない”ことが大切」

 続いて行われたパネルディスカッションには、元横浜の野村弘樹氏、ロッテの大塚明1軍外野守備・走塁コーチ、今季現役引退した元ヤクルトの楽天・館山昌平2軍投手コーチ、ヤクルトの近藤一樹投手、元DeNAの中後悠平氏、プロ野球の丹波幸一審判員、ユーチューバーのクーニン氏が登場した。これまでトミー・ジョン手術(肘内側側副靱帯再建手術)3度を含む10度の肘手術を経験している館山コーチは、ストレッチの大切さを熱弁。「プロ野球に入った時に、先輩の体の柔らかさに驚いた。正しい角度でストレッチをする姿を見て、自分も意識するようにした。もっと早くから取り組んでおけばよかったと思います」と話した。

 自身の息子も中学の頃に肘を痛めて手術した経験を持つという野村氏は、「子どもたちの実年齢と骨年齢が違うということを、指導者が理解するべき。練習強度の見極めは、しっかり指導者がするべき」と提言。指導者に対して「一番は何事も“過ぎない”ことが大切。試合に勝ちたい、勝たせたいと思う中でも、投げすぎない、練習しすぎないことを意識して、リカバリーに務めてほしい」と訴えた。

 SMCAは2019年、代表を務める中野司氏を中心に、元ロッテの荻野忠寛氏らが設立した団体で、「子どもの適切なスポーツ環境を整備する」ことを目指している。そのためには、子どもの体の発育を理解し、基礎的な医学的知識を持った指導者の育成が必要だとし、各地で啓蒙活動を行うと同時に、指導者ライセンスを発行。限りない可能性を持つ子どもたちの成長を応援することを目的としている。SMCAの特別顧問も務める古島医師は「正しい知識を持ち、実践する指導者が表彰される制度が生まれることで、全国の指導者の意識改革に繋がれば」と話した。

 今回受賞した41チームのうち、最も評価の高いトリプルスターズを獲得した13チームは下記の通り。

○「ベストコーチングアワード2019」トリプルスターズ受賞チーム
西田川ジュニアクラブ(全軟連・福岡)
TOHOパイレーツ(全軟連・東京都)
八幡イーグルス(全軟連・東京都)
浦和ボーイズ(ボーイズ・埼玉県)
本庄ボーイズ(ボーイズ・埼玉県)
館林慶友ポニー(ポニー・群馬県)
南生田ウイングス(全軟連・神奈川県)
レッドスネークコルツ(全軟連・神奈川県)
堺ビッグボーイズ(ボーイズ・大阪府)
春日学園少年野球クラブ(全軟連・茨城県)
和光リバーツインズ(全軟連・埼玉県)
特定非営利活動法人 前橋中央硬式野球倶楽部(ボーイズ・群馬県)
玉名町少年野球倶楽部(全軟連・熊本県)(佐藤直子 / Naoko Sato)

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