倒産を招く連鎖退職の恐怖

ムードで辞める?今どき社員の特徴と予防策

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突然始まる連鎖退職。気づいたときには手遅れの可能性も(写真はイメージ=PIXTA)

 人手不足を原因とする倒産が増えている。東京商工リサーチによると、2019年1月~11月の累計で374件となり、通年では最多を記録した昨年(387件)を上回ることがほぼ確実となった。こういった状況の中、企業にとってもっとも恐ろしいのが、社員が次々と辞めていく「連鎖退職」だ。同名の著書があり、人材マネジメントに詳しい青山学院大学の山本寛教授によると、連鎖退職しがちな社員には共通する特徴があるという。管理職が注意すべきポイントや予防策を解説してもらった。

■ある日始まった負のスパイラル

 「社員60人の半分が1年半で辞めた」。新規株式公開を狙っていたコンサルティング会社で起きた連鎖退職。ほぼ全部署、全職種で退職が続出し、上場が実現不可能になった。原因は社員に対する社長の信頼に欠ける行動。「優秀な経営メンバーがまず抜け、その下にいるメンバーが影響を受け辞めていき、会社の業績が下がって他の社員も辞める負のスパイラルに陥った」。管理職だった元社員は振り返る。

 この会社だけではない。筆者がインタビューした限りでも、新入社員20数人のうち3年間で10数人(4割以上)が次々に辞めた建材メーカー、20人の職員のうち10人が1年の内に一斉退職した保育園など、様々な業界で連鎖退職の例が報告されている。

 転職が一般的になった近年、部署から年間一人、二人の退職者が出るのは普通だ。しかし、その程度を超え連続的に退職者が出る連鎖退職が問題化している組織が増えている。人手不足と採用難がますます深刻になっているからだ。

 人事担当者と話していて人手不足が話題に上らないことはほとんどない。有効求人倍率が昨年まで9年連続で上昇しているように採用は非常に困難であることから、一人でも多くの社員に長く働き続けてもらうリテンション(定着)が重要にならざるを得ないのだ。

■意思よりも「雰囲気」が決め手

 では、連鎖退職と通常の退職を分ける差とは何なのだろうか? それは、連鎖退職が同調行動、つまり他人の反応に一致するような行動だということだ。

 もともと人は自分の意見や行動をすべて自分で考えて決めるのではなく、周りの人の意見や行動を基準に決めていくことが多い。さらに、現代のように比較的社会が安定しているほど同調行動が一般的になる傾向があるという。本人の明確な意思というより職場の「雰囲気」が決め手になるのだ。

 インタビューでも、「(退職は)雰囲気や風土に影響を受けるのかなと思いました」などの声が多く聞かれた。この「雰囲気、風土」を解釈すると、「職場の空気が悪い」「何となく、この会社には未来がなさそう、将来が危うそう」「早く辞めたほうが良さそう」というものではないだろうか。

 そして、この空気の背後には、同期や先輩、上司など身近な人の退職が影響することがある。「あの人も辞めた」「先輩や同期がどんどん辞めている」となると、「この会社は危ないかもしれない」「早く逃げたほうがいいかも」と不安が募り、退職願望につながることがあると報告されている。

 そうしたもやもやした退職願望を持っているときに、仕事上や人間関係でネガティブな出来事が起こったり、逆によりよい条件の転職先を見つけたりすると、辞意に歯止めがきかなくなる。

ネガティブ感情が強い人は連鎖退職する可能性が高い(写真はイメージ=PAKUTASO)

■連鎖退職しがちな社員の特徴とは

 それでは、どんな人が連鎖退職しがちなのだろうか。

 第一は、会社や仕事へのネガティブ感情が強い人だ。誰でも多少は会社、部署や自分の仕事に、時には「辞めたい」「他の部署へ移りたい」「嫌だ」というネガティブ感情を持つだろう。しかし、その感情がとくに強い人が周囲の退職が一押しになって連鎖退職する可能性が高いだろう。

 262の法則(優秀層2割・普通層6割・できない人2割に分かれやすいという組織の法則)で言えば、上の2割ではない人に多いと指摘する声もある。IT系企業の元社員は「その意味では、誰でもあるのかもしれませんね」と話す。

 第二は、繰り返しになるが、他人の影響を受けやすい人だ。組織で仕事をしていれば、誰でも同僚や上司の影響を受けないわけにはいかない。しかし、その程度は人によって異なる。とくに、年齢が若い人や入社して日の浅い人は、自分に自信がないこともありその傾向が強くなりがちだ。

 第三は、やりたいことや自分のなりたい姿が明確な人だ。キャリア目標がはっきりしている人といっても良い。こういう人は、自分と同じ方向を志向するファーストランナー(連鎖退職で最初に辞めた人)が辞めた場合連鎖退職しやすいだろうし、その人自身ファーストランナーにもなりやすい。

 この他にも連鎖退職しがちな人はいるだろう。部下の連鎖退職を止めていくためには、管理職は、部下の性格や流されやすさなどにも注意しておく必要がある。

■予防のための対策は?

 連鎖退職を予防するため会社や上司ができる対策にはどのようなものがあるだろうか。

同期社員同士のヨコのつながりが明暗を分ける?(写真はイメージ=PAKUTASO)

対策①「タテ・ヨコ・ナナメのコミュニケーションの強化」

 コミュニケーションの強化は連鎖退職の防止につながる。ある給食センター運営会社では、入社式後に行われる短期の集合研修の後は、学校や事業所等に配置され異動も少なく、新入社員同士のヨコのつながりが少なかった。

 新入社員の早期離職者が多く出た同社では、月1回本社での集合研修を実施するようにした。その結果、教育の質向上とともに新入社員のネットワークが築かれ、直近3年の入社1年以内の離職が1人と大きく減ったという。

 しかし、「ヨコだけが強いと一緒にズルズル辞めてしまいますからね」という声も聞かれる。そこで、重要なのが経営トップや上司が何を考えているかをわかりやすく伝えるタテのコミュニケーションだ。

 特にファーストランナーになる可能性がある優秀層は、上昇志向が強いことも多く、企業が何を志向し、そのことに自分がどの程度関われるか等、経営トップの方針を知りたがるだろう。そのために全社的な職場懇談会を開くことも大事だが、要はその場で出された若手からの意見を実際に取り上げていくことだ。

 さらに、ナナメ(他部署の人と)のコミュニケーションも重要だ。社内報等で他部署での新しい取り組みを知ることや、場合によっては部署内で言いにくい不満を漏らしやすく、ストレスの発散にもなる。このように、様々な方向のコミュニケーションが機能していることは連鎖退職の防止につながるだろう。

対策②「自律的にキャリアを考えてもらう研修」

 自分の将来のキャリアを普段から考えている人は、周りの人が辞めてもすぐ「一緒に辞めよう」と考える人は少ないだろう。これまでのキャリアの棚卸しを行う、将来に向け自律的にキャリアやキャリア目標を考える、その達成のために会社の中で身に着けていくものを考えていく等の研修を行うことで、連鎖退職の予防に役立つだろう。

対策③「社内での部下の影響力のウォッチ」

 部署の中で仕事ができ、コミュニケーションの中心になっている人がどこにいて、どういう人だということを管理職が知っておくことだ。

 これは連鎖退職において、ファーストランナーになるかもしれない人をチェックすることでもある。その人の人間関係をある程度把握しておくことで、連鎖退職が発生した際、引きずられて辞める図式を察知できる。「あの人が辞めたから、火消しにかからなければ」という準備が可能になる。

 もちろん、普段からの注意深いウォッチと感受性の高さが求められるという意味で簡単ではない。

対策④「引き継ぎの重視」

 人手不足で社員一人ひとりが目一杯の仕事をしている企業が多い中、特にファーストランナーが非常に重要な仕事を担当していた場合、その人の仕事をまず短期的に手当てする必要がある。

 これがうまくいかないと他の人に多くの仕事が回され、負担増でドミノ的に退職者が出る。負担をゼロにはできないとしても、周りへのマイナスの影響を極力減らすことが重要だ。

 職場のどのメンバーがいつ異動、休職、退職するかわからない時代だ。管理職は一人ひとりの仕事を把握し、いざ必要になった場合の手当や代替要員を常に考えておくべきだ。

 人事部門も連鎖退職を防ぐため、速やかな配置転換や配置転換した社員への教育、引き継ぎ自体の簡便化・システム化など最大限の配慮を行う必要がある。

 この他にも考えられるが、要は連鎖退職を全社的な問題としてとらえ、経営陣、人事、管理職が一体となって対策に取り組む必要があるだろう。退職者が続出し始めた後で「そう言えば、あの時危険な兆候があった」と気づくのではなく、事前に「火種」を見逃さないことが大事だ。(青山学院大学経営学部教授=山本寛)