明るい黄色の車体に、赤や緑、オレンジなど色とりどりに描かれた太陽や花。あっと驚いてしまうような鮮やかなタクシーが2019年11月から、北海道旭川市の街を走っている。
絵を描いたのは知的障害のある青山雄一さん(35)。「ここは赤。ここは紫がいいかな」。10月中旬、旭川市内にあるガレージで、真剣な顔の青山さんが車に描き終えた下絵に色を塗っていた。配色に悩みながら油性ペンを手に取り、車体はどんどん色鮮やかになる。声を掛けると「楽しいです」とにっこり。約2週間かけて完成させた。
障害者の就労を支援する同市のNPO法人「ゆい・ゆい」が「障害に関係なく才能を生かしてほしい」と協力。「いつか大好きなタクシーに絵を描いてみたい」という青山さんの夢がついにかなった。
「ゆい・ゆい」の野々村雅人理事長(49)によると、青山さんは約10年前から支援を受けている。仕事の合間に大好きな車やタクシーの絵を夢中になって描くことが多かった。野々村理事長が「青山さんの絵は人柄がにじみ出ている。言葉を使わなくても、絵を通じてたくさんの人に彼の優しさを伝えられるのではないか」と立ち上がった。
青山さんの絵をできるだけ多くの人に見てもらおうと、自己プロデュースが難しい本人に代わり、野々村さんが絵はがきの販売を始めた。ほかにも、障害がある人の作品を集めた「アール・ブリュット展」に作品を出したり、「ゆい・ゆい」のブログやフェイスブック、ツイッターなどの会員制交流サイト(SNS)に掲載したりするうちに、温かみのある絵がたちまち評判になった。自信をつけた青山さんは、手のひらサイズのおもちゃの車にも絵を描くようになった。
そうした中、6月に旭川市の「みつばちタクシー」の岸政充社長が「車に絵を描いてくれないか」とオファー。展覧会で青山さんの絵を見た友人から連絡があり、実際に自分で作品を見て一目ぼれしたという。「夢をかなえるお手伝いがしたかった」と岸社長。
だが、おもちゃと実際の車とでは大きさが全然違う。「車のサイズに合わせて描けるのか」と周りは心配したが、市内のリサイクル業者が無償で廃車を貸し出してくれ、本物の車を使った練習で大きさの感覚をつかめた。本番中は毎日「ゆい・ゆい」のスタッフらが励ましの言葉をかけながら付き添い、青山さんはスムーズに描き終えることができた。
11月上旬のタクシー運行初日。記念すべき第1号の客は青山さんだった。自らタクシーを予約し、母親と一緒に旭川市のシンボルとして知られる旭橋を背景に記念撮影するなどして、市内を回った。感想を聞かれると「うれしかったです」と笑顔を浮かべた。
野々村理事長は「タクシーに絵を描いている間、青山さんはこれまでにないくらい生き生きしていた」と感慨深そうに振り返った。続けて「障害のある人も可能性を最大限に広げられるよう、手を差し伸べることが大切だ」と強調。「タクシーは街中を走るので、たくさんの人にわくわくしてもらえるだろう。青山さんのアートを見ることが、思いやりある社会づくりのきっかけになれば」と期待している。(共同通信=吉田夏海)