あちゃー!お気に入りのウェアが破けた。そのとき捨てますか?
岩場で服を引っ掛けて破いてしまったり、火を扱う際に生地をうっかり溶かしてしまったり。アウトドアのウェアやギアはタフに作られているとはいえ、思いがけないアクシデントでダメージを与えてしまうことがあります。また、長く使い続けていると擦り切れたり、パーツが外れたりという、経年での傷みが出てくることもあります。
そんなとき「しょうがない、捨てるか」と思う前に、実はやれることがあるかも、というお話です。
パタゴニアが取り組む「Worn Wear」プログラムって?
環境問題や労働者問題など、社会問題に積極的に取り組むアウトドア製品企業として認知されている<パタゴニア>。
本国アメリカで「Worn Wear(直訳:着古した服)」は、ツアーによる修理、中古品の販売と段階を経て拡大しています。
日本では2005年にはWorn Wearの前身となる「つなげる糸プログラム」(ユーザーから不要となったパタゴニア製品の回収)を開始しました。
このように「リサイクル/リペア/リユース」を企業の責任としてプログラム化しているのです。
「やっちまった…」の心当たりあり? 修理ランキング発表
ところで、どんな理由で傷んだ製品が修理に持ち込まれるか、みなさんは想像がつきますか?
リペアセンターで対応した「修理内容ランキング」をまずはごらんください。
4位 パーツ交換
3位 ジッパー交換
3位、4位は使用時に可動させることが多い箇所です。それだけに故障も多くなってしまうのかもしれません。
2位 糸ほつれ
ダウンウェアのステッチがほどけてしまうなど、手縫いではきれいに直しにくいので納得です。
そして、堂々の第1位は……
1位 破れ/溶け穴
アウトドアの過酷な環境ではやはり「破れ」が1位に。またキャンプなど火の使用による「溶け穴」もうっかり作ってしまいがちです。
年間2万件を修理する「リペアセンター」へ潜入取材!
そんな傷んでしまったパタゴニア製品の修理を行う拠点、それが今回ご紹介する「リペアセンター」です。
1988年に設立され、現在は日本国内に2ヶ所、約40名ほどのスタッフが業務に携わっています。ここに店頭に持ち込まれたもの、直接送られてきたものなどが集約され、専門スタッフの修理を経て、再びユーザーの手に還っていくのです。
修理を依頼される件数は徐々に増加し、いまでは年間2万件(!)を超えています。
このリペアセンターはこれまでほとんど取材を受けていなかったそうですが、今回は潜入OKとのこと。リペア作業がどのように行われているか、センター内を見学していきましょう!
使用パーツもサンプルなどからリサイクル。端材もリサイクル
工房の奥に行くと、ずらりとかけられたパタゴニアのウェアが。生地が破けていたりと◯の部分が傷んでいるので、修理待ちかな?と思いましたが、実は違います。
これらはサンプル品などユーザーの手に渡らなかった製品。でも修理用のパーツに使えるものもあるので、ストックされているのです。修理をするための素材もリサイクルからという徹底ぶり! そして作業場にしては糸くずも落ちておらず、きれいなのですが……。
パタゴニア
齋藤さん
センター内には修理で出た端切れや糸などをリサイクルするためのボックスがあります。
ここまで徹底していることは、働くスタッフたちにとっても自慢なんです
深緑にモスグリーン、黄緑……。「緑」の当て布は1色だけではありません
整理棚にはきれいに仕分けされたリペア用の素材の数々がストックされています。パーツや素材の種類・色ごとに整理されており、ここから当て布などを見つけ、修理していくのですが……。
グリーンの引き出しを開けてみると、「何色ものグリーンの布」があふれています。よく見ると、格子の大きさにも微妙な違いがあります。
パタゴニアでは毎シーズン新色のアイテムが発表されていますが、リペアセンターに届けられるのは昨シーズンのものとは限りません。10年前のアイテムもあります。修理する場合にも、まったく同じリペア素材があるとは限らないのです。
つぎ当てでその製造年の生地ストックがない場合は「できるだけ近い色・近い素材」で対応せざるを得ません。ここからがスタッフの腕の見せどころでもあり、悩みどころでもあります。
パタゴニア
齋藤さん
同じ色の当て布でも、どの色が本来の色に近くお客さんに戻した時に喜んでもらえるか。
迷った時は自分だけでなく、数名のスタッフで「この色はどうか?」など相談しながら修繕しています
実際のリペア作業を拝見!
修理を担当するスタッフは、縫製や洋裁の経験者だけではありません。また経験者であっても、通常の洋服作りとはまったく異なる、テクニカルな素材を扱うのは初めてということも多いそう。そこで最初は素材やミシンの扱いになれるようトレーニング期間を経てから、実際の修理に携わります。
見せてもらったのは袖口に穴が開いてしまったハードシェル。上の焦げた穴がリペア前です。傷んだ部分を切り取り、新しい布で補修しています。
見える外側だけの修繕ではありません。張り替えた布の縫い目から水が浸み込んでは本来の機能性が損なわれるので、裏側のシームもしっかり行います。
こちらはスタッフの練習用。穴が開いたフリースに継ぎはぎを行なっています。丸く(=角を作らず)継ぎはぎするのがいいそうです。
百戦錬磨のスタッフも仰天。「記憶に残る」リペア物語
さまざまな修理が持ち込まれるリペアセンター。「これは……いったい何があったの??!」と思うようなケースもありますか?
パタゴニア
齋藤さん
動物にかまれた系……とか、ありますね
野生動物ではないことを祈りつつ(愛犬でありますように!)、スタッフの印象に残ったリペアについて教えてもらいました。
ハサミを使えるようになった子どもが、R2ジャケットを……
ギザギザに刻まれたR2ジャケットは「ハサミを使うことを覚えたての子どもがつい楽しくなって切ってしまった」と持ち込まれたもの。子供の成長はうれしい反面、残念な状態になったジャケットを目にしたユーザーの気持ちも、痛いほどわかる事例でした。
パタゴニア
齋藤さん
パズルのようにつなぎ合わせ修理を終えたとき、「R2ジャケットが親子の残念な思い出とならずによかった。リペアに出してくれてありがとう」と思いました
キャンプで活躍のナノ・パフ。うっかり災難から復活
こちらはスタッフ斎藤さんの私物。キャンプに使用しているナノ・パフは、料理をするときに袖部分が熱で溶けてしまったのだとか。
ナノ・パフはキルティングのステッチに沿って当て布ができるので、同じ箇所を2回(!)も直しても現役です。「色の違いもほとんどわからない仕上がりです」とのことですが、うっかりにはご注意を!
企業としての「機能性への責任」とユーザーの「愛着」のはざまで
ところで。アウトドア用品は高い機能性があってこそ、フィールドで身を守り、本来の役割を果たすことができます。
だからこそ、「どこまで修理するのか?」の葛藤があるといいます。
例えば、機能性を高めるために縫製なしの圧着シームで作られている防水性ジャケット。
剥がれてしまった箇所を縫製して修理をすることはできるし、ユーザーもそれを望んでいます。でもフィールドで期待されるそもそもの機能を考えると、十分な機能が回復できるとはいえない場合もあります。
パタゴニア
平田さん
アウトドアメーカーとして、長く使うことを推奨する企業として、「どこで寿命の線を引くのか?」は永遠の課題ともいえますね
こんなにある。ゴミ箱へ捨てる前にできること
まずは自分で簡単な修理をしてみる
修理に出した場合、手元に戻るまでにやはり多少の時間がかかってしまいます。そんなときにまずやってみてほしいのが「セルフリペア」。
HPでは「ドローコードの戻し方」「毛玉の取り方」のような初歩的ものから、「ジッパーの交換方法」といった裁縫難易度の高いものまで、修理手順が紹介されています。所要時間と難易度が書かれているので、それを参考に自分で直せそうか、まずチェックしてみるのも手かもしれません。
写真はショップでも販売されている「リペアシール」。シールを貼るだけ、アイロンも不要な便利アイテム。簡易的な修理になりますが、破れた箇所に貼ることでそれ以上傷が広がることを防いでくれます。
リペアセンターに修理を依頼する
今回紹介したように、自分では修理が難しいものに関しては、パタゴニアのリペアセンターにて修理を受け付けています。
「修理後の仕上がりがちょっと心配……」というひとは、修理サービス詳細内で紹介されている仕上がり見本を参考にしてみてください。見た目だけでなく機能面まで考えて、専門のスタッフが最善の方法を選んでくれるはず。
リサイクルボックスで回収。資源を最後まで無駄にしない
パタゴニアの店内には「回収ボックス」が設置されています。ここで回収したものは、製品にリサイクルされるもの、リサイクルできなくてもリパーパスされるもの、資源の無駄にならないよう責任を持って扱われます。
「消費」ではなく「所有」へ。資源を使うことの意味
どんなアクティビティもウェアやギアが必要だし、また機能もどんどんアップデートされていきます。
新しいものがほしくなったとき、それがファッションや流行として消費するためなのか、それとも自然を長く楽しむために所有するのか、一度立ち止まって考えてみる。資源を使った製品の先には、自然フィールドや私たちの暮らしがあります。
捨てられていたかもしれない年2万点の商品がまた所有者の元へ還っていく。このことがもたらす意味を少し考えてみませんか?
Worn Wear Snow Tour開催決定!
2020年3月6日〜22日の期間、縫製スタッフを乗せたリペアトラック「つぎはぎ」が上越・東北エリアのスキー場を訪問します。縫製スタッフによる修理やセルフリペアやウェアメンテナンスの方法紹介などを行います。
パタゴニア製品に限らず受け付けているので、ぜひ見かけたら立ち寄ってくださいね。