銀行唯一の夜間営業、現役世代の顧客開拓が狙い あおぞら銀行・馬場信輔社長 独占インタビュー(前編)

 2016年2月、日本銀行のマイナス金利導入で、金融業界は収益環境が悪化している。金融機関は従来の顧客向けの資産運用業務だけでなく、若年層を中心とした新規顧客の獲得に必死に取り組んでいる。
 あおぞら銀行(TSR企業コード:299003981、千代田区、東証1部)は今夏、普通預金金利が0.2%と業界最高水準の個人客向けのインターネットサービス「BANK支店」開設で話題となった。
 日本経済は少子高齢化の進展や中小企業の「事業承継」問題など課題が山積する中、金融機関への期待は日増しに高まっている。
 あおぞら銀行の馬場信輔社長に、業界の現状と今後の展望を聞いた。

―7月にインターネット支店を「BANK支店」へ刷新、サービスを開始した

 新規顧客の開拓が狙いだ。あおぞら銀行のお客様は比較的シニアの方が多かった。メインは60代。我々としては従前から働き盛りの30代~50代にかけての世代も顧客に組み込んでいきたいと考えていた。そこで、インターネットサービスを拡充した。

―「BANK」の進捗と顧客の反応は?

 おかげさまで非常に順調だ。9月末ですでに約1万5000口座の申し込みがあった。狙い通り30代~50代を中心に、毎月6000件か、それ以上のペースで増えており、年度内には5万口座を超える見通しとなった。

―有人店舗では業界で初めて営業時間を全店で20時まで延長した

 これも若い世代を狙った取り組みだ。仕事に忙しい現役世代は、どうしても平日の昼間に来店が難しい。通常の預金取引や簡単な金融商品取引はインターネットで十分だ。
 有人店舗はどちらかと言えば、込み入った内容・相談がメインになる。単なる金融商品の販売ではなく、例えば相続に絡み、「まとまってお金が入ってきた」といったご相談もある。このようなコンサルティングに絡むご相談は、ネットでは馴染まない。
 当行としても、コンサル機能を強化していきたいが、まずは実際に銀行に来て頂かなくてはならない。現役世代も来店しやすくするには、営業時間の拡充が欠かせなかった。

―スタッフの運用は?

 当行の場合、メガバンクなどに比べて、日常的な用事のためにフラッと立ち寄られるお客様は少ない。 一方で、ご来店頂いた際は、1時間あるいはそれ以上の時間を掛け、お客様と向き合ってじっくりお話をするため、「何時に行きます」と予約を取って来店する方が非常に多い。そうすると、営業担当者も自身の予定を立てやすく、出勤時間も柔軟に対応できる。「この日は予約が午後からだから、昼に出勤して、その分、退勤は遅くに」という風にフレックス勤務制度を使って対応している。
 他行の場合は予約外のお客様が多いので、(夜間営業は)難しいかもしれない。

―スマホアプリで預金を管理する世代が、実際に銀行を訪れるのはハードルが高いのでは

 行員にもよく言っているが、例えば旅行業界の場合、普通の予約はネットで済ませることができる。パック旅行も、航空券の予約も。ところが、大手旅行代理店の店頭窓口には若い世代も多く、いつも混みあっている。整理券を配る店舗も少なくない。これはお客様の「私はこの観光地に行って、こういう行動をして、これを食べてみたい」という一人ひとりの個別の要望にきめ細かく対応しているからだ。これは金融機関のサービスにも当てはまる。このような“オーダーメードのサービス”はネットでは難しい。対面での対応が不可欠だ。

―遺産整理などシニアに向けた相続関連サービスも拡充している

 当行のお客様は60歳以上のシニア世代の方が約3分の2を占める。そのうち半分ぐらいがマス・アフルエント(準富裕層)で、3000万円から5億円程度の金融資産を持っているとみられる方だ。この方々の関心は、やはり老後の資産運用だ。いつまで金融資産で生計が維持できるか、という点だ。
 また、それぐらいの世代の方は相続の話も絡んでくる。高齢化が進むにつれて相続の相談も増加傾向にあり、本格的に対応しなければならない段階に来た。信託免許は以前から取っていたが、この10月から本格的に遺言信託と遺産整理業務を始めた。
 とは言え、今の60代、70代は若く元気な方も多いため、多くの方は相続のことを考えていない。一方で、しっかりしている時に自らの資産の最終処理をなんとかしたい、という思いもやはりある。亡くなると、預金口座も一旦閉鎖しなければならないなど、煩雑な手続きも増える。相続関連サービスへの関心はさらに高まるだろう。

―GMOあおぞらネット銀行(以下GMOあおぞら)がスタートした

 GMOあおぞらは、他のネット銀行と違ってジョイント・ベンチャーだ。対等の立場でそれぞれの良さを持ち寄ろう、とGMOインターネットグループと我々で一緒に運営している。特に注力しているのが、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)だ。業界でも、GMOあおぞらが一番熱心なのではないか。公開しているAPIラインナップも多く、かつ無償で公開している。また、お客様のニーズに合わせてカスタマイズできる自社開発力を強みとして、サービスを提供している。
 GMOあおぞらは黒子となり、銀行機能をAPI経由で提供することにより接続先企業のサービスの充実を図る、 “プラットフォーム銀行構想”を掲げている。

取材に応じる馬場社長(TSR撮影)

‌取材に応じる馬場社長(TSR撮影)

―進捗は?

 これまでに10件超のAPI接続を行っており、年度内では50件程度を見込んでいる。APIの開発キットもウェブ上で公開しており、開発に関する問い合わせは技術者自らがスピードをもって対応している。そういう意味では、他の金融機関に比べて実体面で先行すると思っている。

―GMOあおぞらの設立は、どちらからアプローチしたのか?

 GMOクリック証券がグループにあるように、GMOさんは金融に関心が強く、銀行ビジネスも視野に入れていた。しかも、当行は元々、GMOさんの取引銀行だった。こういう経緯から、(GMOあおぞらを)立ち上げる上で「一緒にやるのであれば、あおぞら」と先方からお話を頂いた。迅速に進めるため、子会社のあおぞら信託銀行をネット銀行に衣替えする流れになった。

―M&A会社が国内でも増加傾向にある

 M&A事業は、当行でも以前から力を入れており、中規模のM&Aを主に手掛けてきた。近年は地方の小口案件、特に後継者難、オーナーさんがご高齢の事業承継案件が多い。これは今後も増えるだろう。
 (M&A会社が)増えることに関しては、悲観的に捉えていない。むしろまだ少ないぐらいだ。M&A・事業承継のニーズはさらに増えるだろう。これらは国内でも数少ない成長分野だ。これから(新たなM&A会社は)どんどん出てくると思っている。

―他のM&A会社や銀行との差別化は

 地域金融機関とのネットワークの強さだろう。当行は設立から現在に至るまで、地域金融機関とさまざまな形で信頼関係を構築してきた。我々も数年前にM&Aブティックの買収を考えたことがあったが、基本的にM&Aはネットワークと人だから、「自分たちで(会社を)作った方が良い」ということになった。そこで「ABNアドバイザーズ」(以下ABN社)というM&A・事業承継専門会社をつくった。
 ABN社は、すでに約70行の金融機関と提携しており、それ以外にも200先にのぼる法律事務所、税理士事務所と提携している。

―地域金融機関との提携の形は?

 地域金融機関としては地元の企業同士でM&Aをまとめたいが、そういうケースは少なく、むしろ、東京や他地域を相手にしたM&Aが多い。地方は都心と比較して、どうしても企業が少ない分、地元で話をまとめるのは難しい。
 そういうケースの際、まず地域金融機関から「こういう地元企業の売りニーズがある」との情報があり、こちらで買う側の会社を探す。地域金融機関には、地元企業のアドバイザーになってもらうことで、地域金融機関にもM&Aアドバイザーとしての実績、経験になる。

―難しい点は?

 (買い手)候補者をさまざまな角度から選ばないといけないことだ。例えば、他の地域から買い手が来る場合、誰が経営するのか、どんな資本なのか、これは大変丁寧に見ていく必要がある。
 我々は金融機関なので、買い手、売り手の価値調査や分析は丁寧に行う。また、M&A案件をまとめて「これで、終わり!」ではなく、事後もしっかりと金融機関としてサポートをする。決してやりっ放しではない。
 我々は、立ち位置的にも“中立の銀行”と地域金融機関に受け止めてもらえている。そのため、地域金融機関の側としても、競合している銀行に買収ファイナンスを持っていかれて、自分たちがはじき出されるのではないかと警戒する必要もない。あくまでも、我々は“協調してやっていく”というスタンスで臨んでいる。
(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年12月17日号掲載「Weekly Topics」を再編集)

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