敬遠しがちな「キツいアルバイト」、堅実な金銭感覚が身に着く効能あり

一生に一度はキツいバイトをすることをオススメします。なぜかといえば、その経験と得られる報酬が、その後の金銭感覚に圧倒的な影響を与えるからです。1993年3月、大学に合格し、約1ヶ月の休みとなりました。その間、自宅から歩いて5分ほどの場所にある運送業者で引っ越しのバイトをしました。


「時給941円」の重み

朝9時から18時までの勤務で日当は8,000円でした。休憩時間は名目上1時間ありましたが、実際は20~30分ほどで、実質的には8.5時間労働です。そう考えると、時給は941円です。冷蔵庫やらタンスやらを運ぶため、とにかく体がキツい! エレベーターがない団地の引っ越しなどは悶絶の時間を過ごし続けます。さらに、実にイヤ~な「クロ」と「リュウ」というヤツと組むことが多く、大学生になると言ったところ「エリートさん(笑)」とバカにされます。

彼らが喋ることといえば、競馬と焼肉と風俗と給料が安い、といった話ばかりで使いっ走りばかりをさせられ時には罵倒もされる。常に「コンチクショウ!」と思い続ける時間を過ごしていました。

結局このバイトはゴールデンウィークに入るぐらいまで続けたのですが、自分にとっては「時給941円」というのがすべてのものの基準になってしまったのです。たとえば、1,000円のランチを食べるとなると「冷蔵庫1つ、タンス1つ、段ボール20個分の労働+クロの野郎の罵声3回分」なんてことを考えます。

それを考えると「あぁ、実にオレは贅沢をしているなぁ……。明日はこんな贅沢をするのではなく、吉野家で牛丼を食うか」のような気持ちになります。最近時々行く店でギネスビールを1パイント飲むと950円です。これを頼む時も「あの引っ越し屋のバイト1時間分がこれに消えてしまうんだなぁ……」と思うこともあります。そう考えると実にその1杯が尊いものに感じられるのです。

最初から時給2,500円の家庭教師のバイトなどをしてしまうと、金銭の単位が2,500円を基準とするようになってしまうのです。となれば、1,500円のランチでさえ「安い」と思えるでしょうし、5,000円のゲームソフトを買うにしても「たった2時間分だもんね」と思ってしまう。時給941円男からすれば、5,000円なんてものは、5時間18分相当の労働時間に相当する。とてもじゃないがおいそれと買えるようなものではない。

結局この金銭感覚を持ったままあれから26年も経ってしまいました。もちろん、誘われれば3万円の寿司を食べることも厭わないですし、若者と一緒に飲んだ時は多く払うようにしますが、自分ひとりの場合はそんな贅沢をすることはない。引っ越し屋で稼いだ時給941円の重さがドーンと頭に蘇ってしまうのです。

自分よりも年上の人に話を聞くと高校生時代のバイトの時給は500円台だった、みたいな話を聞くこともあります。すると彼からすると500円というのが基準になっているようで、私のことは贅沢だ、と指摘されてしまいました。

大学に入った8月から開始したのが植木屋のバイトです。多摩ニュータウンの団地が職場だったのですが、職人が切った枝や刈った芝生や草を竹ぼうきでビニールシートに乗せてそれを2人がかりで運んでトラックの荷台に載せるという仕事でした。8時40分頃にJR中央線の豊田駅で職人にピックアップしてもらい、9時から仕事が開始。10時に一度目の休憩があり、30分お茶を飲む。11時45分頃になると職人と一緒にトラックに乗り弁当を買いに行き、12時ピッタリに昼食を皆で囲みます。食事が終わったら昼寝をします。

13時に午後の仕事が開始し、14時まで働いたら再び30分の休憩時間がやってくる。そして16時で仕事は終了です。拘束時間は7時間あるものの、休憩が2時間あるため実質労働時間は5時間しかありません。しかもこれで日当が驚きの8,000円! 時給1,600円です。

941円でバイトを開始した身としては、これは破格に良い仕事で、結局このバイトは大学卒業までやり続けてしまいました。とはいっても、「金銭感覚基準941円男」であることは変わらず、「金銭感覚基準1,600円男」になることはなかったのです。

この感覚を忘れていないからこそ、散財することなく他人から見ればお金の使い方が「節約している」と見えるのかもしれません。しかしながら「ケチ」には見られてはなりません。前述の通り出すべき時はキチンと出し、大切な人と一緒なのであればその人に合わせてお金を使うことも必要です。


お子さんがバイトをしたい、と言い出した場合は、「まずはキツそうなバイトからやってみれば」と言ってみると良いでしょう。私のもう一つのおススメはパン工場のバイトです。ひたすらマドレーヌの型となる銀紙を一つ一つ分ける作業やケーキにイチゴを乗せるなどの作業をやり続けます。18時から翌朝6時までの12時間拘束され、途中で食事タイムもありました。帰り際にはパンをいくらでも持ち帰ることができます。確かこれで1万円ぐらいもらえたのではないでしょうか。

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