デジタル分野への投資に消極的だったエクレストン、ハミルトンにSNS投稿の停止を要求していた

 元F1最高経営者のバーニー・エクレストンは、在職期間中はウェブやソーシャルメディアなどデジタル分野への投資については消極的な立場だった。その一方で現在のF1のオーナーであるリバティ・メディアは、デジタル分野には長期的なポテンシャルがあると考えている。

 エクレストンは40年にわたってF1に君臨してすべてを網羅していたが、1990年代後半にインターネットが出現した際には、F1をウェブに登場させて活用することに経済的メリットを見いだすことはなかった。またソーシャルメディアが登場したときには、エクレストンは同様の立場を取り、流出する画像や映像を厳しくコントロールした。

 一方2017年にF1を買収したリバティ・メディアは、エクレストンとは対照的に、ブランドの親しみやすさを作り上げるうえでファンを魅了する重要性を認識していた。リバティはソーシャルメディアのルールを緩和し、ハミルトンや、彼の数百万人にのぼるインスタグラムとツイッターのフォロワーはそれを喜んだ。

 そしてこの動きによって、ハミルトンがフォーミュラワン・マネジメントの法務部門から“停止通告書”を受け取ることもなくなった。F1のデジタル部門責任者のフランク・アルゾルファーは『SportsPro OTT』サミットで次のように説明した。

『RaceFans.net』では、「私のボスであり、F1のビジネスを経営するショーン・ブラッチズが素晴らしい話をしている。リバティがF1を買収してから、彼が持った最初のミーティングのうちのひとつがルイス・ハミルトンとのランチだった」とアルゾルファーが語ったと報じている。

「ルイスは、そのランチにバーニー・エクレストンから送られた大量の“停止通告書”を持ってきた。なぜならルイスは彼のオンボード場面を撮影してインスタグラムに投稿していたからだ!」

「聴衆のほとんどが分かっていると思うが、ルイス・ハミルトンは間違いなくF1の歴史において最大のスターであり、都市文化や音楽、ライフスタイルの垣根を大きく超える可能性のある存在だ」

「ドライバーとチームとより協力的な形でF1を作り上げることは、F1だけでなく、我々のパートナー、スポンサー、放送パートナー、プロモーターの利益にもなると考えている」

「これは戦略における非常に重要な要素であり、成功させるにはおそらくまだ初期の段階にある」

■エクレストンが投資しなかったデジタル分野のポテンシャル

 またアルゾルファーは、今日の進化するメディア界における、F1のデジタル資産の重要性を強調した。

「F1は2017年1月の時点で66年の歴史を持つビジネスであり、素晴らしいブランドだ。オーナー兼経営者のバーニー・エクレストンが40年もの歳月をかけて巨大に成長させたものだ」とアルゾルファーは語った。

「リバティがF1を買収するにあたっての命題は3分野にうまく要約することができる。ひとつ目はグローバルな財産だ。それは間違いなくチャンスと挑戦だが、価値連鎖とともに多くのプレイヤーや参加者がいて、成長できる分野を持つこの世界は、ますますグローバルな提案がなされる場になりつつある。ビジネスの将来に向けて良い状態の未開拓のチャンスがあるような感触だ」

「ふたつ目は、市場におけるライブスポーツの価値が上昇していることだ。それはメディアの状況だけでなく、経験的な状況にも当てはまると私は考えている。我々は21の国で21戦のグランプリを開催しているが、現代の経済では実体験に生じる価値が増大していると思う」

「3つ目は、バーニーが注力していた分野の度合いだ。彼はビジネスを収益化する点で素晴らしい仕事をした。これは20億ドル(約2200億円)の収益を生み出すビジネスなのだ。だが同じように将来に投資することはしなかった」

「彼はおそらくデジタルのような分野には投資しなかった。それは必ずしも短期的には純粋な利益の可能性を生み出さないかもしれない。しかし長期的にはポテンシャルがあるのだ」

「バーニーは小切手の表面ではなく、裏面にサインをしたという古い冗談がある。我々が(F1を)引き継いだ時、ビジネスはかなり限られたものになっていた。我々は長期的な財産価値を作るために投資しているのだ」

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