海外からも見知らぬ番号で着信あり、電話をかけてみると

見知らぬ着信にかけてしまうとどうなるのか。前回は国内につながるワン切り詐欺の手口をお伝えしましたが、最近は、海外からも魔の手が忍び寄ることもあります。いまや、誰もがスマホや携帯電話を持つ時代です。国際電話に折り返すと、どうなるのでしょうか。その注意すべき実態に迫ります。


不自然な日本語の自動音声

執拗に着信を残すワン切り電話の中には、海外からかかってくることもあります。2020年のオリンピックを前に、英会話を勉強し、外国人と友達となり積極的に交流を行う人も多いことでしょう。そうした中で、もしかすると、どこかで知り合った友人だろうかと思い、電話をかけてしまうこともあるかもしれません。皆さんは絶対に、折り返しの電話をしてはいけませんが、実際のところ、電話をするとどうなるのでしょうか?

テレビ番組にて、私も同席して、芸人さんに「+222」から始まる番号に電話をかけてもらいました。調べると、この番号は、アフリカ北西部にあるモーリタニア・イスラム共和国になっています。

プルルル……。呼び出し音が流れます。そして、電話がつながったかと思えば、男性の声が流れます。

「これは家族と友達です。家族または、友人があなたに連絡しようとしてます」

日本語の自動ガイダンスのようですが、ちょっと不自然さを感じる音声です。

「あなたの家族または友人と話すには、接続を維持してください。接続します。この通話を切断しないでください。ありがとうございました」

再び、プルルル~という呼び出し音が流れます。いったい、誰かにつながるのだろうか。緊張しながら受話器に耳を澄ませると、電話の向こうから……。

「タン、タ、タン、タン~♪」と、ゆったりとしたピアノの音が流れ始めます。
「ん?」

ついには、男性の声で「エブリー ムーブ ザット アイ メイク エブリ~ ♪」と歌いだします。何やら、コールセンターに電話をして、混みあっている時に流される音楽のようです。しばらく歌を聞いていると、再び、プルルル~という呼びだし音が流れだします。いよいよ、誰かに、つながるのでしょうか。息を飲みました。

と、再び、先ほどの歌が流れます。

「ソウ アイ キープ ホールディング オン~♪ ウェン ザ ワールド イズ フォーリング ホールディング オン~♪」
サビの部分でしょうか、男性歌手は「ホールディング オン~♪」を熱唱しています。

しばらく聞いていると、また呼び出し音がなり、三度、先ほどの音楽の続きが流れます。
「ターン アラウンド テイク イット バック トゥ イエスタディ~♪」

ついには、2番の歌詞に入ったようです。

私はここで電話を切るように、芸人さんに促しました。

3分で1000円の通話料

「なぜ、切ったのですか?」と尋ねられたので、「これはわざと通話を長くさせて、高額な利用料金を請求するのが、手だからです」と答えました。

このまま、誰も電話に出ることなく、延々と音楽を聞かせてお金を騙し取ろうとしてきます。この通話の背後には、詐欺グループの存在が見え隠れしています。

そのからくりは、海外の電話会社と詐欺業者がグルになり、世界じゅうに電話を発信して、電話かけてきた相手に無駄に長い通話をさせ、国内の電話会社を通じて、高額な通話料金を払わせる手口だと思われるからです。今回の場合はモーリタニアということで、電話会社に尋ねたところ、30秒で180円とのことでしたので、3分ほど通話で1,000円を超える金額になりました。

海外電話を発信する詐欺師たちのお金の手の入れ方は、まず私たちに正規の国際電話の通話料として国内の電話会社にお金(今回は約1,000円)を払わせます。その料金の何%かが、海外の電話会社へお金が行き、さらに、その中からワン切り電話をかけた詐欺業者へお金がいくと思われます。実際のところ、海外の電話会社のお金が取り分はいくらなのか、国内の電話会社に尋ねましたが、さすがに、答えてはもらえませんでした。

この他にも、アセンション島からのワン切り電話もありましたので、かけてみました。

今度は、女性の声で「〇▼×▲」と話をしてきます。何をいっているのか、さっぱりわかりませんが、何かを私たちに呼び掛けているようでした。そこでこちらも「ハロー」と呼び掛けてみましたが、問いかけを無視するように話をします。どうやら、英語は通じないようです。この後も、何度も英語で呼びかけましたが、一方的に女性は話をします。

少額を大勢から取る

そこでいったん切って、もう一度、かけ直しました。すると、同じ女性が出てきます。しかもよく会話を聞くと、先ほどと同じような間合いと言葉の流れではないです。ということは、この会話もまた、自動音声だったのです。この女性の言語は、レバノン訛りのアラビア語ではないかともいわれますが、はっきりとしたことはわかりません。ワン切り電話にも、いろんなパターンがあるようです。

騙しと言うのは、四則演算的発想で罠を仕掛けてくるものです。今や、携帯電話を多くの人が持っていますので、そこに詐欺師は目をつけ、数多くの電話にワン切りというアプローチを仕掛けます。そして折り返しの電話を待ち、一人から数百円、数千円といった、あまり懐が痛まないような金額を払わせます。

一人から取る金額は少ないかもしれませんが、より多くの人から電話があれば、掛け算式で儲かることなります。現在の世界の人口は、77億人といわれていますので、全世界の電話をもっている人から、折り返しの電話をさせれば、膨大な金が手に入るというわけです。しかも、今回見てきたように、自動音声を使うなど、電話の受発信は、すべてコンピューターシステムを使っているので、人件費はかからず、詐欺を行う側は、ぼろ儲けということになります。

ちなみに、最初にかけた、国際ワン切り電話での歌を調べてみると、「Holding On」という実在する楽曲でした。この歌は、かなり前のもので、まさか歌手本人も、勝手に詐欺集団に音声ツールとして使われているとは思ってもいないことでしょう。

タイトルを翻訳すると、「つかまって」「しがみついて」になります。原曲は恋愛の歌なので電話は関係ありませんが、「hold on」には「このまま(電話を切らずに)お待ちください」という意味もあります。後半の歌詞のなかには「永遠に続く時、私はあなたにつかまっている」とありますが、ずっとこの電話を保留し続けていれば高額な国際通話料金が発生することを、暗に示しているようにも思えます。

「ホールディング オン~♪」「ホールディング オン~♪」と、「(電話を)切らないで」「切らないで」をサビの部分で繰り返して聞かせたのは、そんな意味もあるのかもしれません。詐欺を行う側は、ウィットを効かせたつもりでしょうが、このような手口を許すわけにはいきません。

SNSを見ると、最近は、アフリカだけでなく、ルーマニアやベルギーなどのヨーロッパからもかかってきているようです。くれぐれも、何のメッセージも残さない、海外からのワン切り電話は、無視して応じないようにしてください。

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