何はともあれ、まず聞いてください(電車内はイヤホン必須)
2019年秋、衝撃の「山岳遭難防止ソング」爆誕
そうよ そうなの 遭難よ〜〜♪
……耳に残って離れないフレーズのリフレイン。令和なのに昭和な親父ギャグ。男性のキャップの「OMG!」のロゴ。
いま地味〜に(失礼!)登山業界関係者のSNSで拡散されつつある、話題のソング。
この曲このアニメ、一体なに??
その疑問を解きに、新国立競技場向かいのとあるビルに向かいました。
リリース元の日本山岳・スポーツクライミング協会を直撃
リリース元は公益社団法人 日本山岳・スポーツクライミング協会。この協会は「全国47都道府県山岳(・スポーツクライミング)連盟(協会)」と「全国高等学校山岳連盟登山専門部」が加盟が加盟している団体。
「安全登山の啓発」「山の環境保全」「山岳文化の発展」のために寄与する活動を行なっています。
いたって真面目かつお堅そうな団体が、なぜにこの歌を作ったのでしょうか???
右肩上がりの遭難件数。まずは「道迷い」から減遭難を!
話をうかがったのは、協会専務理事の尾形好雄さん。
ー知人がSNSでシェアしてくれたのですが、じわじわ笑いが込み上げてしまいました
尾形さん
私たちは「安全登山の啓蒙」を行なっているのですが、ここ20年、遭難者総数は右肩上がり。
2018年は遭難者総数が3,129人でした。そのうち「道迷い」が1,187人(37.9%)もあるのです。
そこで「ストップ・ザ・1000」というキャンペーンを行なっているんです
ーなぜ「1000」という数なのですか?
尾形さん
遭難とは言い難い「道迷い」をなくせば、2,000人以下になります。遭難者ゼロではなく、まずは1996年の1,000人台に戻そうと目標を立てたんです。
防止もですが、まずは遭難を減らす「減遭難」から始めようと
ーそのキャンペーンの一環としてあの動画なんですね?
尾形さん
そうなんです。これまでもミウラ折りの小さな啓蒙カードなどを配布していたのですが、効果が上がらず……
ーたしかにもらっても読むだけで頭に残らないかも……
尾形さん
そうなんです。そこである広告会社に相談したところ、オーストラリアではアニメ動画で地下鉄での転落事故死が減少したと聞いて「これだ!」と思ったんです
尾形さんの話していた動画を調べたところ、オーストラリア「Metro Trains」による「Dumb Ways to Die」は公開後約1週間で再生回数1億4000万回を突破。ゆるキャラ全員が死ぬというこれまた衝撃アニメでした。
「音声入りアニメ動画」だと「何だろう、これ?」と興味を持ってもらえるかもしれない。
その思惑どおりに、笑いとともに確実に拡散しつつあるこの動画キャンペーン。もしや成功するのでは……。
「そうよ そうなの 遭難よ」親父ギャグに込められた願い
「音声入りアニメ動画」という方向性は決まったものの、昭和歌謡のカラオケ調ソングというかたちに昇華させたウルトラCは、一体誰のアイデアなんだろう……気になる。
ということで、尾形さんに紹介してもらった広告制作会社のクリエイターにメールでインタビューを敢行しました!
制作したのは、あの有名クリエイティブ会社だった!
答えてくれたのは、株式会社サン・アドのプロデューサーの栗田 慎さんとコピーライターの三浦万裕さんです。
サン・アドといえば、1964年にサントリー宣伝部出身の開高 健や山口 瞳、柳原良平といった錚々たる面々が創業したクリエイティブ会社。広告賞受賞の常連でもあります。
ー「遭難」という真面目なテーマに対して、工夫や苦労した点はありましたか?
栗田さん
広く多くの人に最後まで見てもらえる映像にならなければと思い、当初からエンターテイメント性を持たせることは考えていました。
内容が「遭難」なので、アニメにした方が映像が痛々しく生々しくならずに描けるのでアニメーションでの制作を選びました
ー勇ましいおじさん、現実を指摘するおばさん、謎の「おやまちゃん」というキャラはどうやって生まれたのですか?
栗田さん
今回のメインターゲットは、遭難数の多い中高年登山者。その方々に遭難を「自分ごと化」してもらうためです。
また「おやまちゃん」という謎のキャラに注意喚起をしてもらうことで、 「~をしよう」「~をしてはいけない」という言われたくないことを受け入れやすくすることを狙いました
ー動画は約2分30秒。その枠に要点を収めるのは大変でしたか?
三浦さん
どこを削るか、何を伝えるべきかのバランスは色々と試行錯誤しました。
「遭難を自分ごと化してもらう」という大テーマを掲げたため、 描く遭難のシーンはできるだけ身近なものにし、 遭難という事柄に対するハードルを下げてもらうことを意識しています
ー「そうよ そうなの 遭難よ〜」のフレーズのパンチが強くて、それが脳内リフレインしてしまってます
三浦さん
正直なところ、細かな内容は頭に残らなくてもいいと思っています
「どうやら遭難には気をつけた方がいいらしい」という印象だけでも受け取ってもらい、登山者のみなさん一人ひとりの意識が少しでも変われば、 次のアクションは自ずと変わってくるのでは、と期待しています
ちなみに今回のクリエイティブチームには、ワンダーフォーゲル部出身のかたもいたそう。
この仕事を機に登山を始めたメンバーもいるそうで、減遭難だけではなく登山者増にも貢献している!?
みんなで歌って、定番「山の歌」にしよう!
このアニメには遭難につながる「ヒヤリハット」なシチュエーションがたくさん詰まっています。体力の過信や道迷いのポイント、山岳保険や万一遭難したかもというときのリカバリー方法などなど。
近年の山岳遭難事故の傾向としては、「60〜70代の中高年登山者」「単独行」が挙げられます。日本の登山愛好者は800万人とも言われてますが、山岳会などに入っている人は、わずか10万人ほどで、大半は組織未加入登山者です。
中高年に限らず、若年層もひとり暮らしであれば、土日に登山→遭難→月曜出社しない→遭難発覚と、救助までに時間がかかってしまうケースもあるとのこと。
最後に、7,000m級の未踏峰5座を含む数々の登山歴を持ちながら、「一度も山岳事故を起こさず生還した登山家」としても知られる尾形さんに、「遭難防止で必ずしてほしいこと」をうかがいました。
尾形さん
登山届を出すことが大事。たとえ前の夜に夫婦喧嘩したとしても(笑)、朝家を出る前に「丹沢、大倉口、15時下山」という簡単な情報だけでもいいので、残して山にいってください
さぁ、みなさんもぜひ、忘年会&新年会で歌いましょう!
そうよ そうなの 遭難よ〜〜♪