株主優待の実施企業増加を“単純には喜べない”理由

小売業、食料品企業などを中心に、株主優待を実施する企業が増えています。株主数の増加を通じて株価の安定化が図れる、株主に事業内容を知ってもらうきっかけになるなどポジティブな面がある一方で、公平な株主還元の原則に反する、コーポレートガバナンスの観点で問題があるといった指摘もあります。

株主優待を実施する企業と実施しない企業を比較すると、実施企業の資本効率や成長性が非実施企業に比べてやや劣る傾向がみられます。短期的には株価もポジティブな反応を示しますが、長期的な影響は詳細な検証が必要でしょう。


実施企業数は過去最高

株主優待の実施企業数は、2008年の金融危機後の一時的な減少を除いて、ほぼ一本調子で増加。1993年の283社から2019年には1,499社と27年間で5倍以上に拡大し、実施率(株主優待実施企業数÷上場企業数)は11%から40%に上昇しました。

純増傾向は続いていますが、各社の適時開示をみると、新規に株主優待制度を導入する企業がピークアウトする一方で、廃止する企業は一定数あり、伸び率はやや鈍化しています。

金融危機後の2009年には39社が株主優待制度を廃止しました。廃止の理由としては、業績不振(74%)、上場廃止(13%)などで、経営環境の厳しさを反映したものが多くありました。

一方、2019年は11月15日までに13社が株主優待制度の廃止を発表していますが、公平な株主還元の観点から株主優待制度を廃止し、配当を重視するとした企業が10社(77%)と大部分であり、廃止の理由が変化していることがうかがえます。

実施企業に共通する2つの要素

業種別に株主優待実施率をみると、食料品の83%から石油・石炭製品の9%まで、業種ごとに大きな開きがあります。

企業間取引を主体とする機械、電気機器、素材産業では実施率が低い傾向がある一方で、消費者向けエクスポージャーが大きい小売業、食料品などで実施率は高くなっています。自社製品・サービスなどを優待品として提供することで、事業内容を知ってもらい、それによって宣伝効果も見込まれます。

株主優待実施企業の資本効率や成長性は非実施企業に比べて、やや劣るようです。業種別の影響を取り除くために、食料品、小売業、卸売業、サービス業、情報・通信業の5業種を対象に株主優待実施企業と非実施企業の資本効率、成長性を比較してみました(会計基準・決算期変更企業を除く)。

ROE(自己資本利益率)は、情報・通信業では大きな差はありませんが、食料品、小売業、卸売業、サービス業では株主優待非実施企業のほうが高い傾向があります。売上高成長率については、食料品を除いた4業種で非実施企業のほうが高いという結果が得られました。

株主優待の実施と資本効率・成長性の間の因果関係は明らかではありません。株主優待実施企業のほうが数値の低い要因として、成熟企業のほうが株主優待を実施する傾向が強いこと(設立年月日が2000年以前の企業の株主優待実施率は40.8%、2001年以降は33.4%)や、小額を投資する個人株主の増加から経営規律がやや緩みがちになっている可能性が考えられます。

株価にはプラスか、マイナスか

株価面で比較してみると、株主優待制度の導入を発表した企業の株価は、発表直後に上昇する傾向がみられます。また、株主優待制度を導入すると、個人株主を中心に株主数が増加し、株価の安定度が増すといわれます。

少なくとも短期的には株価にプラスであると思われますが、前述のように業績に関する指標が株主優待を導入していない企業に比べてやや低めであることを考えると、長期的な効果についてはさらに詳細な検証が必要でしょう。

<文:企業調査部 嘉山美樹子>

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