早霧せいなが語る宝塚歌劇ならではの“和もの”の魅力と自身の葛藤

早霧せいなが語る宝塚歌劇ならではの“和もの”の魅力と自身の葛藤

宝塚歌劇といえば「ベルサイユのばら」のような洋風の作品を思い浮かべる人が多いだろうが、“和もの”と呼ばれるジャンルでも、数多くの傑作を送り出している。漫画の舞台化で時代劇でもある「るろうに剣心」(2016年)は、宝塚歌劇の特性を最大限に生かし、多くの観客を魅了した会心のヒット作。時代劇専門チャンネルでは、中井美穂によるナビゲート番組とともに放送する。今回は、本作で主人公・緋村剣心を演じた早霧せいなに、宝塚歌劇ならではの“和もの”の魅力などを聞いた。

──宝塚歌劇ならではの“和もの”の魅力とは?

「ハードさと甘さの両方を兼ね備えているところだと思います。単なる勝負ではなく、それぞれのキャラクターがどういう思いでそこに挑んでいるか、血と涙にまみれた人間のドロドロしたところや弱さも隠さず描かれています。その上で、ダメなものはダメ、尊いものは尊い。人の命や人を思いやる優しさ、愛がいかに大切かということをダイレクトに訴えているんです。剣心は、かつて“人斬り抜刀斎”として恐れられていた自分の過去と闘う宿命を背負っている人物で、その葛藤に苦しんだかと思えば『おろ?』なんて緩いリアクションもします(笑)。ギャップ萌えを誘うところがあるんです。強いだけではなく、もろさや弱さも持っていて、そこを隠さず生きているところが魅力です。勢いのあるシーンや殺陣がありつつ、キャッチーで面白くて緩急をつけやすいセリフもあって、絶妙なバランスがとれている作品だと思います。」

──早霧さんは「伯爵令嬢」や「ルパン三世」など、漫画を原作に持つ作品で魅力を発揮されてこられましたが、漫画原作を成功させる秘訣は?

「人気の原作ものはプレッシャーも大きいのですが、読んだ時のインスピレーションやイメージを追求していける面白さがあります。特に漫画は画(え)で正解がはっきりと見えているので、目指すところが分かりやすいんです。一緒に演じている仲間とも共通認識がはっきりとあるので『あそこってこういうふうに表現した方があのキャラクターをより出せないかな?』『私がこの“おろ?”をいかすために、ここをもう少しこうしてくれないかな?』などというコニミュケーションも取りやすいんです。全然違うことをしていたら『それ剣心じゃないじゃん!』と自分でも突っ込めますからね(笑)。原作というお手本がある上で、それを超えるくらいのものを提示しなきゃいけないというプレッシャーはあります。でもそのハードルが高いからこそ燃えましたし、みんなの士気を高める要素が高いものをやらせていただいたという方が大きかったですね。」

──退団後にも、男性キャストを交えて上演された浪漫活劇「るろうに剣心」で再び剣心役を演じられましたが、そこには剣心も真っ青の葛藤があったとか。

「宝塚歌劇で演じた『るろうに剣心』は、男役としてのキレがあり、全力で演じられた作品でした。でも、やるからには前作を越えなければ、お客さまも私も納得いきません。超えることができるのかと、すごく悩みました。そういう自分との闘いがあったからこそ、もう一つの『るろ剣』を作ることができたんだと思います。」

──二度にわたり剣心を演じたからこそ「男役としては成就している、もう未練はない」と気付いたということですが、これから目指すのは?

「お芝居という軸は失わずに、全方向を目指していこうと思っています。最近、自分の中でちょっとした変化がありました。いろいろな時に『今も“早霧せいな”を演じてるんだな』って思い始めたんです。本名の自分よりちょっと前を“早霧せいな”が歩いているような気がしています。 “早霧せいな”という表現者がどう動くかで私の立ち位置も決まるので、常に自分と対話をして前に進んでます」

【プロフィール】


早霧せいな(さぎり せいな)
9月18日生まれ。長崎県出身。2001年に宝塚歌劇団に入団。14年に雪組トップスターに就任。以降、「ルパン三世/ファンシー・ガイ!」「星逢一夜」「るろうに剣心」「ローマの休日」などに出演し人気を博す。17年に退団し、現在は舞台を中心に活躍中。20年3月、舞台「脳内ポイズンベリー」に池田役で出演。

【番組情報】


華麗なる宝塚歌劇の世界「るろうに剣心<4K版>(16年雪組 東京宝塚劇場)」
時代劇専門チャンネル
12月28日 午後3:00~/2020年1月15日 午後11:00~
※ゲスト:早霧せいな
※2Kダウンコンバートにて放送

取材・文/若林ゆり 撮影/中村彰男
スタイリスト/YOSHI MIYAMASU ヘアメーク/星隆士

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