Night Tempo が志す「ネオ・昭和」新しい時代に息を吹き込まれた音楽たち 2019年 12月4日 Night Tempo の「ザ・昭和グルーヴ・ツアー」が渋谷WOMBで開催された日

韓国人DJ Night Tempo、世界的シティポップ・ムーブメントの中心人物

『Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ・ツアー』に行ってきた。

Night Tempo はヴェイパーウェイヴやフューチャーファンクのジャンルで活動している韓国人のDJで、世界的なシティポップ・ムーブメントの中心人物でもある。日本の昭和歌謡を愛し、YouTube にアップされた竹内まりや「Plastic Love」のリエディットは980万再生を超える(※2019年12月26日現在)。Winkや杏里、オメガトライブなどのリエディットもオフィシャルで担当するほどのカリスマだ。

そんな彼が日本で初めてのツアーをやるらしい。今年の夏、彼が出演したフジロックの映像を見て、「令和の世に松田聖子でブチ上ってるフェス会場がある」ことに心躍らせたのを思い出す。

時代が変わっても、媒体が変わっても、残っていく音楽や文化がある。それを新しいものへと変化させて、受け入れさせていくアーティストがいる。そのことがたまらなく尊いと思った。

Night Tempo が「昭和は最高です!」と言うたびに、私の胸はギューッと高まる。好きなものを掘り続ける人の強さを感じるからだ。

昭和歌謡に新しい息吹をもたらす Night Tempo

12月4日、渋谷WOMB。友達を誘って、彼のツアーへと向かった。「ザ・ベストテン」のオープニングと共に登場した Night Tempo。着ているTシャツの胸には大きく “昭和” と書かれていた(MCの時に話してたけど、ドンキで買ったらしい)。

「どうも、外国人の Night Tempo です」登場は完璧。ユーモアの交え方もお手の物。なによりもチャーミングだ。

そんな彼が志す「ネオ・昭和」は、かつて存在した80年代とはまた別の次元にあるとされる特別な空間だ。ポップで、グルーヴィー。そしてクール。Night Tempo によって新たに息を吹き込まれた昭和の楽曲たちが渋谷のライブハウスを揺らしていた。

日本生まれの台湾人、蘇 詩帆のイラストが用いられたキュートな映像もいい。ノスタルジックさとニュージェネレーションを同時に感じさせるセンスの良さ。30年前の音楽の焼き直しとは全く異なる、新しい文化であることを肌で感じる。

「かもめが翔んだ日」「ガラスの10代」「君は1000%」「木綿のハンカチーフ」… 鮮やかに調理された名曲たち。ビートが胸を打ち、体を突き動かす。踊って跳ねて、最高の気分。

昭和の歌謡曲に宿る、時代を超えたパワーとセンス

中でも異彩を放っていたのは細川たかしの「北酒場」だ。DJブースの上に乗り上げ、フロアを煽られたら、テンションがブチ上がってしまう。彼の手にかかれば、細川たかしだって令和最強のアップチューンになる。気が付けば、ライブが終わってからの1週間、私は北酒場を聞き続けていた…。「♪ 北の~~酒場通りには~~~」。名曲です。

MC中に行われた質問コーナーで出た「明菜派? 聖子派?」という質問に、小声で「… アキナ…」って囁くNight Tempo、めちゃめちゃよかったな…。

菊池桃子「Say Yes!」の掛け声は楽しかったし、「ミーハー」「Give Me UP」「My Revorutuon」までの流れは最高だった!そしてやっぱり生「Plastic Love」は興奮する。彼がオフィシャルでリエディットした、杏里「Rememmber Summer Days」に体を揺らせば、12月の渋谷も「ネオ・昭和」の夏の終わりへとリープする。

会場の一体感が心地よかった。世代も20代から30代の人が多かったような印象。もちろん80年代当時を知る人達もいたけど。外国人もいたりして、もはや “Showa” はひとつのジャンルとして成立しつつあるんだなと思った。

豊かな時代の豊かな音楽。色褪せずに、まっすぐで、カッコいい音楽。時にキャッチーで、グルービーで、みんなで歌えたあの曲たち。昭和の曲に宿るものは、時代を超えて、受け取られるべきパワーとセンスがあると思う。

Night Tempo が目指す「ネオ・昭和」は色褪せない!

もう一度言う。Night Tempo が目指す「ネオ・昭和」はあの頃とは別の次元にある空間だ。だからこれからもずっと存在してゆくものだし、リエディットという魔法をかけることによって、新たなカルチャーとして再定義され続ける。

韓国人で歌謡曲世代でもない彼が時間も空間も超えて、「ネオ昭和」を成立させる。もはや、ノスタルジックなんていう世界観だけに浸っていることが古いのかもしれない。

ネットの発達によって、カルチャーにおける時間や空間の障壁はほぼなくなったといってもいい。昔の歌番組だって、YouTube ですぐに見られる。もはや音楽において「時代」というものはハンディキャップにはならない。味付けしなおしてくれる、カリスマアーティストもいる。昭和から令和へと文化の再翻訳が行われる。

私が好きな “昭和” ってなんだっけ? 母の時代の焼き直しばかりして、親世代の人に「良く知ってるねぇ」なんて言われるだけでいいんだっけ? もっとできること、したいこと、語れること、あるんじゃない? 令和に生きる昭和好きとしてはそんな部分でも刺激を受けた。

レポと言いつつも、私自身が音楽やリエディットに対する専門性が高くないので、上手な言葉で解説できないことが恥ずかしくもあるのだが。ただただ思うことは、Night Tempo がよく口にしている「昭和歌謡は最高です!」という言葉だけだ。令和の世にNight Tempo がもたらした、最高の夜を私たちは忘れない。

フィナーレで会場の全員で “カラオケ” した「赤いスイトピー」。夢みたいだったな。

「ネオ・昭和」は色褪せない。

カタリベ: みやじさいか

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