企業と災害対策

 先月末行われた本紙主催の長崎新聞文化章の贈呈式でのこと。受章者のエミネントスラックス元社長高野匡史さんに感想を聞こうとあいさつしたところ、逆に「訴えたいことがある」と迫られた▲「拙筆へのお叱りか」とたじろいだが、話は、同社の工場が立地する松浦市中心部を流れる志佐川の洪水対策についてだった。「もし氾濫したら大損害を被る」と▲県が9月に更新した志佐川の浸水想定区域図では、工場周辺は最大3~5メートル未満の深さで浸水すると予測。これまで松浦市のハザードマップでは1メートル未満とされていた▲予測の大幅な変更は、2015年の水防法改正で「千年に1度」級の大雨を前提にした結果という。これを受けて同社は事業継続計画(BCP)策定を含め対策の抜本見直しが迫られることになったというわけだ▲手掛けるスラックスが国内外で評価され、躍進する企業にとって、災害対策が重大な経営課題として浮上する。「とにかく行政には洪水が起きないようにしてほしい」との訴えに切実さがにじんだ▲頻発化・激甚化する風水害に対し、企業の防災対策も問われるようになってきた。だが信用調査会社によると、BCPを策定している県内企業は1割余り。いざというときに的確な対応が取れるのか、事前の構えを確かめておきたい。(久)

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