結婚相手に家事能力を期待する時代は続く?年の瀬に考える夫婦の家事分担の行方

結婚しないライフコースを歩む人々が増えています。これまで少子化に関する議論等で注目されることの多かった50歳時点で一度も結婚したことがない男女の割合は、2040年には男性が29.5%、女性が19.5%になると推計されています。

一方で、国立社会保障・人口問題研究所の調査では18~34歳の独身男女の約9割が「いずれ結婚するつもり」と答えており、依然高い水準が続いています。若い世代の多くが結婚の意向を持っているにもかかわらず、結婚しない人が増えているのはなぜなのでしょうか。

今回は、独身男女が結婚相手に望む条件の変化や、夫婦の家事分担に関するデータからこの点について考えます。


相手の「人柄」「家事・育児の能力」を重視する独身女性

国立社会保障・人口問題研究所では、独身男女が結婚相手に何を重視するのかを長期にわたってたずねています。

この結果をみると、2015年調査で男女とも最も多くの人が考慮・重視すると答えたのは「①人柄」で、「⑥家事・育児の能力」がこれに続いています(図1)。女性では男性の「⑥家事・育児の能力」を考慮・重視する人が「②経済力」をあげた人を上回っています。

相手の「経済力」を考慮する独身男性の増加

独身男女が結婚しない理由をめぐっては、女性が男性の収入水準に高望みをし過ぎる傾向にあることがよく注目されます。しかし、筆者が注目しているのは先の図で、結婚相手となる女性の「②経済力」を「考慮する」と答える男性が増えていることです。

女性は以前から男性の「②経済力」を考慮・重視してきましたが、近年は男性も「考慮する」と答えた人が少しずつ増えています。

この背景には、自分1人の収入で家族を養い、長い人生を乗り切って安心して老後を迎えられる時代ではないと感じている男性が増えているためではないかと筆者は考えています。

女性が男性に経済力を求め、家事や子育てを分担してほしいと考えているのと同じように、男性もまた、長期にわたる人生を通じて家族の家計を自分一人で担っていくのは難しいかもしれないと感じている人が増えているのではないでしょうか。

図1:独身男女が結婚相手に望む条件の変化

注:回答者は「いずれ結婚するつもり」と回答した18~34歳の独身男女
資料:国立社会保障・人口問題研究所「現代日本の結婚と出産―第15回出生動向基本調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書―」2017年3月より作成

妻に聞いた夫婦の家事分担の実態

このようななか、先の研究所では今年9月、「ゴミ出し」などの“家事”とともに、「ふだん家事として語られることの少ない日常的な作業」を“見えない家事”として夫婦の分担の実態を公表しました。

有配偶女性を調査対象とするこの調査では、「ゴミ出し」「日常の買い物」「部屋の掃除」「風呂洗い」「洗濯」「炊事」「食後の片付け」といった“家事”を妻が行う頻度がいずれも高い上、“見えない家事”とした「食材や日用品の在庫の把握」「食事の献立を考える」「ゴミを分類し、まとめる」「家族の予定を調整する」に関しても夫に比べ妻の担う割合が高いことを指摘しています(図2,3。ただし「購入する電化製品の選定」に関しては「ふたりで一緒に」や「夫」の割合が「妻」よりも高い)。

この資料では「夫も家事や育児を平等に分担すべきだ」との考えに賛成する女性が8割を超えること等からも、「妻に偏る家事育児の分担」について、「夫婦の平等」が求められると強調しています。

図2:妻の"家事"遂行進度(家事の種類別)

注:集計対象者は、全国の有配偶女性6,142名のうち、すべての家事の種類について回答した60歳未満の人。四捨五入の関係で割合の合計が100にならない場合がある
資料:国立社会保障・人口問題研究所「第6回家庭動向調査」2019年9月

図3:夫婦における"見えない家事"の遂行状況

資料・注は図2に同じ

妻は夫婦の「平等な」家事分担を望んでいるのか?

この調査が興味深いのは、妻の回答に基づいて妻の負担を問題にしていることです。家事の担い手が妻に偏る厳しい現実はあるものの、夫も夫なりに頑張っている場合もあるので、夫の言い分も聞いてみないと少しアンフェアなようにも感じられます。

もしかすると、もう少し手伝えたらと思っている夫や、負担ならその家事自体を減らしたり効率化してはどうかと思っている夫もいるかもしれません。

また、ミドル世代の中には、自分が担っている家事や見えない家事を、夫が肩代わりすることや、夫と分担することを望んでいる妻がどの程度いるのかが気になる人もいるでしょう。この調査では夫の家事に対する妻の満足度もたずねています。

夫の家事の現状に不満を感じている妻の割合は妻の年齢や働き方、夫の帰宅時間によって異なるものの、おおむね半数程度にとどまっています。

出張や夜勤・早朝勤務など夫婦の働き方が不規則で、家事を平等に担うのが難しいケースもあれば、夫婦の働き方によらず、妻の側が夫に家事を委ねることを好まない場合もあるかもしれません。

妻が行っている家事のやり方や求める水準、夫婦の収入のバランスといった要素も、妻が主な担い手となっている偏りの現状や妻の負担感につながっている可能性がありそうです。

「家事能力」より重要になる、レベル感や妥協点の共有

独身男女が共働きを続けるライフデザインを描いていく上では、夫婦で家族の家計、家事や育児を担える体制でいる方が、どちらかがキャリアアップをはかるために転職や学び直しを行う場合だけでなく、子育てや介護、ケガや病気等で仕事や働き方を調整せざるを得ない場合にも、世帯としての適応力が高そうです。

一方で、家事効率化のための手段や求める家事の水準への価値観を夫婦で共有できれば、家事に優先順位をつけて取捨選択することや、家事の種類によって役割分担をはかること、時短家電を利用することするなど多様な手段を柔軟に検討することができます。

このように考えると、今後は結婚相手に家事能力そのものを期待するのではなく、家事や育児を含むライフスタイルにおいて何を大切に考えて、どんなことにお金や時間を使っていきたいのかの価値観を共有できる人柄かどうかが、これまで以上に重視される時代が来るのではないでしょうか。

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