<レスリング>【2019年全日本選手権・特集】0.01パーセントの可能性を信じ、光が見えた!…女子50kg級・須﨑優衣(早大)

(文=東京スポーツ新聞社・中村亜希子、撮影=矢吹建夫)

息詰まる接戦を制し、マット上で涙ぐんだ須﨑優衣

 0.01パーセントの可能性を信じ、2020年東京オリンピックの代表挑戦権をつかんだ-。

 2019年全日本選手権の女子50kg級決勝は、須﨑優衣(早大)が入江ゆき(自衛隊)を接戦の末、2―1で下して優勝。3月末のオリンピック・アジア予選(中国)出場を決めた。勝利の瞬間、マットに伏して涙した元世界女王は「ようやくオリンピックのスタートラインに立つことができた」と声を震わせた。

 世界選手権(9月、カザフスタン)の代表決定プレーオフで、入江に1―6で完敗した。世界選手権で入江が3位以内に入れば、東京オリンピックの道は途絶える。身をもってライバルの実力を知るだけに、「絶望的だ」と失意のどん底に落ちた。

 東京オリンピックで金メダルを取ることだけを目標に日々を費やしてきた。その生きがいが消えてなくなろうとしている。寝床についても「私は一体何のために生きているのだろうか」と涙が流れた。

 前を向くきっかけになったのは、吉村祥子コーチの言葉だ。試合を終え、帰る車のなかで「0.01パーセントでも可能性があるなら、一緒に頑張ってみよう」と声をかけられていた。確かに、この先、何が起こるか分からない。次第に「0.01パーセントでも可能性があるなら、1日1日を精いっぱい生きよう」と思えるようになった。

「プレーオフは一生の後悔。あんな思いは二度としたくない」

 世界選手権の代表合宿にも参加し、代表の練習相手を務めた。ここ数年、常に一番手だった須﨑にとっては辛い経験だっただろう。吉村コーチは「苦しかったと思います。でも自分が代表の時は、負けた選手たちが相手をしてくれていた。反対側の気持ちを知ることは、この先の人生にもつながってくると思ったので、合宿には出た方がいいと言いました」と振り返る。

鉄壁の守りで入江ゆきの攻撃を許さなかった須﨑

 世界を2度制した選手であるにもかかわらず、あえて8月の世界ジュニア選手権(エストニア)にも出場。悔しさを内に秘め、ひたすら地道にレスリングに取り組んだ。

 そして、チャンスが再び巡ってきた。「プレーオフは一生の後悔。あんな思いは二度としたくない。今回は、絶対に勝ちたいという強い気持ちのまま、最後まで闘えた」(須﨑)。苦しんだ経験を勝利につなげた。

 アジア予選で2位以内に入れば、東京オリンピック代表に決定する。試合後、「絶対に優勝して代表になりたい。今はホッとしているというより、絶対に東京オリンピックで金メダルを取りたいという気持ちです」と、すぐに気持ちを引き締めた須﨑。今後の課題についても「タックルだけのイメージがあると思うけど、それだけでは勝てない。がぶりなど、トータルの部分でもっと強くなりたい」と力を込めた。苦闘した5ヶ月間を無駄にするつもりはない。

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