日産 GT-R。その名前を試乗車として聞いたとき、ちょっと身構える。それと同時に、心が躍る。しかも今回は袖ヶ浦フォレストレースウェイで、「NISMO」を試すことができるというのである。日本が誇る日産 GT-R。その最強のカタログモデルは、果たしてどんな一台に仕上がっていたのか。
2020年モデルとなったGT-R NISMOの進化は、GT-Rコンセプトそのものの進化でもあった。
2007年に登場したGT-Rは、その硬派な乗り味がひとつのキャラクターだった。「時速300キロでパッセンジャーと会話ができるマルチパーパス スーパースポーツ」として、超高速領域での安定性を担保するべく、その足回りはガッチリと固められていた。
しかし2014年モデルの登場から、GT-Rは基準車にリアルワールドでの現実味を反映させた。単刀直入にいうと、日常域での乗り心地が大幅に高められたのである。いくら志は高くとも、ユーザーが実際に使う領域での快適性なしに、その良さを理解することは難しいということを、遂に認めたのだ。それと同時に「NISMO」を設定し、GT-R本来の「速さへの追求」を、維持し続けたのであった。
そしてこうした改良からおよそ6年の歳月が流れ、ロードゴーイングカーとしてのGT-Rは、多くの支持を得た。だからこそMY20モデルでは「GT-Rの本質」を追求するために、NISMOに大きく予算が割かれた。
それがまず、今回の変更部分を語る前に、知るべきGT-Rのストーリーである。
NISMOが開発したGT3用タービンを投入
GT-R NISMOの走りを極める上で、最良の素材とされたのはFIA-GT3車両*のアイテムだった。
まずエンジンは、そのタービンに新スペックが投入された。タービンブレードの歯数をMY17モデル比で11枚から10枚に変更し、さらにその板厚を0.8mmから0.5mmに薄型化することで、14.5%の軽量化を達成した。
*FIA-GT3車両FIA規定に則ってメーカーが制作する市販車ベースのレーシングカー。日本ではスーパーGT GT300クラスに参戦が可能。
とはいえ日産いわく、高速回転するタービンブレードは、ただ薄くしただけでは強度が保てない場合がほとんどだという。そこでMY20モデルはブレードを形状変更する際に、その構造に背板を追加し、圧力だまりを抑制。歯数を減らしながらも過給圧の低下を抑えることに成功した。600PS/660Nmの高出力を維持したままピックアップレスポンスを20%も向上させ、なおかつブレードの慣性重量においては、24%も低減することができたという。
そしてこのタービンこそ、NISMOがGT3車輌のために開発したものだった。
ボディ形状を変更して空力性能を改善
ボディワークでは空力特性が改善された。
フェンダー上部に設定されたエアアウトレットは、GT3車輌の開発から得られたデバイスだ。レーシングカーではこのアウトレットを、揚力低減に使っている。高速回転するタイヤが生み出す空気の乱流を排出し、走行風で引き抜くことによってタイヤハウス内の圧力を減じて、ダウンフォースを生み出すのである。
対してGT-R NISMOは、これをクーリングダクトとして活用した。エンジンルームから約70℃の気流を排出することで、エンジン性能を向上させているのである。
またアウトレットの形状を最適化することで、排出した空気を車体後部まで剥離させることなく清流して空力性能をも向上させた。
軽量化と空力性能もさらに向上
さらにGT-R NISMOでは、軽量パーツの投入による軽量化が推し進められた。
これまでもカーボン・フロントバンパー(約4kg)、カーボン・リアバンパー&トランクリッド(約2.5kg)、チタンマフラー(約4.5kg)の投入で軽量化を行ってきたGT-R NISMOだが、今回はさらにエンジンフード(約2kg)、前述したフロントフェンダー(約4.5kg)、ルーフ(約4kg)がカーボンパーツ化された。全体としては僅かに10.5kgの軽量化ではあるが、フロントオーバーハング部と重心から遠いルーフの軽量化は、ハンドリングレスポンスに少なからず影響すると開発側は力説していた。
タイヤのスペックも見直しが行われた
またMY20モデルからそのタイヤは、遂にスペック変更が行われた。
チーフ・プロダクト・スペシャリストである田村宏志氏いわく、これまでは「GT-Rの進化をコンパウンドで稼いだとは思われたくなかった」という理由でタイヤのスペックを進化させることは避けて来たが、今回は転がり抵抗値やライフを維持したままその接地面積を11%拡大。さらにコンパウンドのグリップ性能を7%向上させた。
当然こうしたグリップ向上に伴いサスペンションはスプリング及びダンパー剛性の最適化を求められたが、これを行うことで結果としてコーナリングフォースは5%向上できたという。
[筆者:山田 弘樹/撮影:佐藤 正巳]
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