下城麻菜(劇団癖者主宰)- 予想外なことが起きて楽しい

「やってみるか!」で始まった劇団旗揚げ

──まずは、下条さんの演劇歴から聞いてもいいでしょうか?

下城:一番最初は宝塚に入りたくて、宝塚付属の演劇学校に中学3年生まで通っていたんですけど、まわりを見て、まあ挫折し(笑)、そこから大学入学のタイミングで上京して小劇場の劇団に2個所属して、そのあとは自分で「癖者」を立ち上げた…という流れですね。

──劇団の立ち上げはどういった経緯で?

下城:もともと自分には劇団主催なんてできるわけがないと思っていたんです。でも2個目の劇団にいたとき、「人の気持ちが全然わかってない、人がどれだけお前が出ることに協力してくれているのかわかってないからそんなことができるんだ、一回自分でやってみろ」と言われたことが…もちろんもっとマイルドな言い方でしたけど(笑)、それがその劇団を辞めたあとにも心に残っていて。そのことを友達に相談したら、「やったらええやん! 協力するし!」って言われて始めました。

──今までは演技だけだったところから主催となると、急に他の全てを始めたわけですよね?

下城:はい。脚本も書いて、演出もつけて、振り付けも考え始めたのもそこからです。「協力するし!」って言ってくれた友達のやすくん(松岡康範)と、まほちゃん(野下真歩)、若林(若林佑真)、といったまわりの友達が「協力するって言ってくれるしじゃあやってみるか!」という感じで始めて6年経っちゃいました。まわりがなんとかしてくれるだろうという甘い考えがそのときもあったんですけど…(笑)。

──いやいや、そんだけ信頼できて協力してくれる人が周りにいるのはすごいことですよ! というか、そうはいっても脚本とか、急に書けるようになるわけではないじゃないですか?

下城:そうなんですかね?(笑)脚本は、最初に書いたやつはいま考えると面白くないと思うんですけど、でも書いているうちに書きたかったものに気づくようになっていって、6年経ったいまは書きたいものを書けるようになりました。それより前は正直、だれかの真似事だったり…好きなものがたくさんあるのでいまでも好きなものの真似をしてはいますが。

──演出も振り付けも全部は大変では?

下城:演出振り付けはすぐできるけど、自分の出演シーンは年々減ってます(笑)。自分が一番信用できないんですよ、今回も舞台上でコケたりとか。脚本を書いてる側としては、自分で演じるより人に演じてもらったほうが予想外なことが起きて楽しいのもあります。

女の子って面白い

──女性がたくさん出て男性はあまりで手こないお話が多いですよね?

下城:男性が苦手なんですよ!(笑)男の人となにか一緒に作れないから女の子ばっかり集めちゃうんですよね。苦手なので脚本も書けなくて、女の子ばっかり出てきちゃう。そもそも女の子に囲まれた環境が多かったですね。中高も女子高だったし、今の職場も保育園だったりで女性が多いし…以前もキャバクラやガールズバーだったりで女の子ばっかり。女の子の方が面白いなって思ってて。男の人と喋る機会がないからなに考えてるかわからないし書けないんですね。(笑)

──なるほど。でも女の子も考えてることわからない子いませんか?

下城:なんか、「考えてることわからないけど、この子はこういうこと言うだろうな」っていうのがわかるんですよね、女の子なら。あとまわりの友達の発言をそのままセリフにしたりとかもあるので、「やめて~」って言われます(笑)。

──取れ高のある個性的な方に囲まれて(笑)。

下城:そうですね、わたしなんかは自分があまり好きになれないんですけど女優さんは自分に自信を持った方が多くて、見てて面白いです。変わった人も多いですし、服装とかもオシャレだったり…見てるだけで楽しいです。かわいい女の子がほんと好きで…(笑)。

──男性にはそういった興味があまり持てないんですか?

下城:でもすごくたまに仲良くなれる人がいて、そういった人たちがうちの公演に出ている感じです。今年出ていただいた杉浦哲平さんとかもオシャレでイケメンで…って方なんですが隠さない人だから、わかりやすくて喋りやすいです。いつまでも女の子しか書けないって状態だと書ける話が狭まっちゃうというのもあるので、最近はちょっと大人になって男の人とも喋るように心がけてます(笑)。

──確かに、男性がまったくでてこない公演から『真夜中ガール』(前回公演)、『元カレ殺人事件』(最新公演)と、男性の輪郭が少しづつ出始めましたね。

下城:そうですね、今年はちゃんと男の人を書きましたね…男の人が見たらどう思うのかわからないですけど(笑)。

──客層は男性が多かったり、感想が気になりますね。

下城:年々女の子も増えていますが、どんな気持ちで観てるんでしょうね?(笑) アンケートに感想をもらうこともありますけど、「瀬戸口さん(※1)に同情しました」とかですね。同世代の男の子やもっと若い男の人は結構通ずるものがあるみたいで、「舞台では女の子だけでも、女の子だけの話じゃないです」って言ってくれる人もいて嬉しいです。(※1:瀬戸口俊介。「癖者」公演に度々出演しているスーパーマルチ司会役者)

──下城さんが書いている感覚としてはどういった層に向けて…などあるんでしょうか?

下城:最初は「応援演劇」と銘打っていたので、やっぱり同世代の女の子…もっと言うと『女子校戦争』とか『真夜中ガール』は自分のしんどかったときの話を書いているので、あのときの自分と同じような気持ちの人に届いたらいいなと思います。…恥ずかしいんですけど。演じることは恥ずかしいと思ったことはないんですけど、書くことは自分の裏アカのつぶやきを公開している気分です!(笑) もちろん書く話は実話じゃないんですけど、セリフとかには裏アカみたいな部分があって恥ずかしいですね。「こんなん誰が面白いとおもうねん!」って(笑)。お客さんに観てもらうより稽古が始まったときの読み合わせがいちばん恥ずかしかったり。自分の性格と書いてるものの系統がたぶん少し違うから。

──知り合いとお客さんだと感想が違ったり?

下城:お母さんが毎回きてくれるんですけど、「あのシーン、昔のあのときのことやんな~?」みたいな感じで言われたりします(笑)。でも、まったく私のこと知らない人でも自分のどっか昔の記憶にリンクするような…こういう感情や経験が自分だけじゃなかった、って思えるだけで楽になったりしたらいいなと思って書いています。できるだけコメディにして、ポップに笑ってもらえることによって応援になるといいなと。

下城さんを構成するあれこれについて

──お話にコメディが多いのはお笑いが好きな流れからですか?

下城:そうですね。すぐ欲しがっちゃうんで(笑)。有名な脚本家の方が、1ページに3ボケいれるとおっしゃっていたので対抗して入れるようにしてます! 新喜劇的なベタなお笑いが好きです。

──お笑い以外に影響を受けたりした人や物や、好きなものはありますか?

下城:影響というか、やっぱり先輩たちに言われてきたことは、いまになって身にしみてわかったりします。いままで言われてきたことに対して、「怒られている」と思ってたんですが、先輩たちは「伝わらないことが悔しかった」んだな、って先輩側になって理解しました。やってもらったことをできるだけ返そうとは思います。

──伝わらない時、下条さんはどういった対応をするんですか?

下城:頭ごなしに怒られてもわたしはできなかったので、できるだけ相手の話を聞くようにしています。怒られるのって嫌じゃないですか、余計にできなくなったりして…だからできるだけ、どうやったらこの人に届くんだろうって考えながら接しています。最近好きで観てるものは、小悪魔アゲハ、ツイッターの婚活アカウント、出演者のブログ。出演者のブログは褒められたいんでめっちゃチェックします(笑)。そもそもめんどくさいブログ書く人…女の人ですね、好きなんですよ。熟読しちゃう! 読み終わったあと疲れるくらいの重たいやつが本当に大好きですね。あと、アメリカのギャグアニメが好きです! 「スポンジボブ」とか「ジョニーブラボー」「パワーパフガールズ」とか。色味がすごい好きで、フライヤーを作る時に参考にしたり。コメディの感じも好きなので動きとか表情を意識したり。「アニメみたいな動きして!」ってよく要求するんですけど、私の言う「アニメ」は「スポンジボブ」で、みんなが思うのは「プリキュア」とかで、ズレが生じたのでそういう言い方はやめました(笑)。

女性クリエイターは引かれ合う?

──最近よくご一緒しているシンガーソングライター・しずくだうみさんとの邂逅は?

下城:知り合いから、「すごくオススメの面白い女がいるから来い」と言われて行ったら、だうみ(しずくだうみ)さんが大喜利やってたんですよ(笑)。そのときの大喜利がすごく面白かったので、本業の音楽ライブもさぞ面白いんだろうと観に行ったら歌はめっちゃかっこいいのにMCがびっくりするくらいポンコツで(笑)、なんて面白い人なんだ!!! とイベントにオファーしたのがきっかけです。その後、だうみさんプロデュースのアイドル(sommeil sommeil)の振り付けを私がやったり、癖者の演劇の音楽をお願いしたり…。いままでは女の子がいっぱい出るお話で男の人に音楽を作ってもらっていたんですけど、私と同世代の女の人が作ったほうがやりたいことに近くなるんじゃないかなって思ってお願いしたらぴったりはまって、続けてお願いしている感じです。だうみさんだけでなく癖者スタッフには同世代の女性が多くて、例えば制作さん、カメラマンさん、フライヤーのデザイナーさんだったり…やりたいことが共通しやすいというか。

──フライヤー、こだわってますよね。

下城:フライヤー、こだわってます! お金もかかってます!(笑) みんな捨てないでほしい…! 今年の『元カレ殺人事件』もロケバスを出して撮影してきたんです。毎回同じスタッフさんと作っていて。

──毎回同じ方なんですね、なんとなく統一感があって劇団のイメージがわかりやすいです。

下城:イメージも周りの人が作り上げてくれてる感じなんです。私が好きなものがバラバラなので、それをうまいこと周りの人が筋の通った感じにしてくれてて。

──いつか10周年とか迎える時にいままで作ってきたフライヤーを全部展示するフライヤー展やりましょう。今後、手を広げてやりたいこととか、お金に糸目をつけずにやってみたいことはありますか?

下城:フライヤー展、絶対やりましょう! お金があったら…遊園地を貸し切って公演したいです! 全部をつかって。それも豊島園でやりたいです。顔ハメパネルとかも置きたい(笑)。

──めっちゃいいですねそれ!(笑) ぜひ実現してほしい…。では最後に、なにか言っておきたいことなどありますか?

下城:えっと、これ掲載されるの1/1からですよね? じゃあ…明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします!

──新年のご挨拶!(笑)ありがとうございました!

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