旅行気分“ツアー” 今月100回目 元バスガイドの山口さん 公民館講座などで観光地紹介

「声を掛けてもらう限り講座を続けたい」と話す山口さん=佐世保市心野町の自宅

 2020年も「発車、オーライ」-。旧長崎県佐世保市交通局のバスガイドだった山口美都子(みとこ)さん(64)=心野町=は、公民館の生涯学習講座などでバスツアーさながらに県内外の観光地を紹介する活動を続けている。1月には大野地区公民館で100回の節目を迎える。原動力はバスガイドの仕事への思いと参加者の喜ぶ声。「見せたい、教えたいという気持ちでやってきた。声を掛けてもらう限り続けたい」

 ■20歳で就職

 白い湯煙が立ち上がる別府温泉、穏やかな水面に小舟が浮かぶ宍道湖…。昨年12月上旬。山口さんの自宅のパソコンの画面には、訪ね歩いた観光地の写真を使ったスライドが映し出された。「知らない場所は伝えられないから」。こだわりをにじませた。
 バスガイドの知人に憧れて20歳で交通局に就職。3時間以上にわたる定期観光バスの案内を一字一句暗記したり、県内外の名所の歴史を学んだり。勉強に追われたが、姉のように慕ってくれる修学旅行生やバスを降りる客の「楽しかった」の一言が励みだった。
 九州各地から中国・四国地方まで。行き先は違っても話や歌で笑いに満ちた車内をつくってきた。だが1988年にガイドが乗務するバスの運行は終了。「これで終わり」。最後の勤務を終え、運転席の横にマイクを置いたときは涙があふれた。
 転機は市職員として働いていた2008年に訪れた。ガイド時代の仲間と、制服を再現した衣装でNHKのど自慢に出演。放送を見た市内の公民館の職員から歌の披露を頼まれた。長崎や福岡が題材の曲を選び、ゆかりの深い町や歴史について解説すると、ほかの公民館からも依頼がきた。「もう一度ガイドができる」。回数を重ねるうち、スクリーンに観光地の写真を映し、バスツアーのように歌や話を繰り広げる形ができあがった。

 ■のぼせもん

 講座は制服姿で臨む。ガイド時代に訪れた場所を中心に、世界遺産や温泉巡りなど毎年テーマを変えてコースを組み、お薦めの宿や観光スポットを紹介する。心掛けるのは、固すぎず、砕けすぎない雰囲気だ。
 コース作りのために取材旅行をしたり歴史の勉強をしたりなど手間はかかる。テレビの旅番組を見て、「私が案内しなくても」と感じることもある。だが「旅行気分が味わえた」「また来たよ」と声を掛けてくれる高齢者に背中を押されてきた。「やっぱり好きなんでしょうね。のぼせもんですから」。喜ぶ顔を思い浮かべながら、新しい旅のプランを練っている。

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