ビジネスの現場で起きたさまざまな悩み事に対して、リクルートマネジメントソリューションズでコミュニケーションサイエンスチームのリーダーをしている松木知徳さんがお答えするシリーズ。今回は、転職から半年が経過した30代男性のお悩みに回答します。
【相談者のお悩み】
一緒にプロジェクト案件を担当している後輩が、自分も案件担当者であるという意識がいつまでも薄いままです。そのためか、いつまでも書類やメール文にミスや直す部分があり、先輩である自分は確認作業に追われて通常業務が進みません。
かといって、すべてを確認なしで任せても、責任感が生まれるわけでもありません。自分事としてとらえてもらい、責任感を持って仕事をしてもらうには、どうしたらいいでしょうか。(30代男性)
仕事のミスは責任感の問題?
松木:意識の持ち方は仕事のパフォーマンスに大きな影響を与える重要なポイントですが、「ミスが多いのは責任感がないからだ!」と後輩に指摘してもなかなか納得してもらえません。なぜなら、責任感は0% or 100%ではないからです。こちらの基準で決めつけた言い方をすると、反発が生まれることすらあります。
今回、発生している問題はあくまでも仕事のミスですが、その要因は(1)目的・ゴールの理解不足、(2)知識・スキルの不足、(3)責任感の不足、のいずれの可能性もあります。まず、この3つの要因のうち(1)(2)がクリアされていることを確認しましょう。
そのうえで、やはり「責任感の不足」が主な要因だとすれば、どうしたらよいでしょうか。
「責任」は「立場上当然負わなければならない任務や義務」(デジタル大辞泉)を意味します。最初からやる気に満ちた人はいません。動機づけされ、仕事を自律的にとらえることで、責任感が高まっていきます。
「動機づけ」にはどんな段階があるのか
ここで動機づけの状態について、いくつかの段階に分けて、その対策を考えてみましょう。
ここでは、動機づけの状態を4つの段階に分類しています。
段階0:動機づけがなく、たとえば、自分の仕事なのかさえも理解していない状態(やる気なし)
自分の仕事や責任の範囲すら不明確な場合である。大人数のプロジェクトになったり、途中からメンバーが入れ替わったりするときに自分の責任範囲が不明確なまま参加をするとこのような状況になりやすい。
段階1:自分の仕事であることはわかりつつも、意欲の沸かない状態(仕方なく働く)
仕事の割り当てとともに評価基準や賞罰を与えると、ある程度仕事に取り組み始める。しかしながら、嫌々作業を行うことになるので、他の業務で多忙な場合など後回しになりやすい。
段階2:仕事の影響を理解して、意識して仕事をする状態(大切だから働く)
仕事の意義・重要性をきちんと伝えることで、仕事のアウトプットに対する品質や納期などを意識することにもなり、緊張感をもって取り組むようになる。
段階3:仕事のやりがいを感じて、前のめりになる状態(楽しいから働く)
仕事を通じての成果や自身の成長を感じることで、自ら積極的に関わりを持ったり、求められた以上の提案をしようとしたりする。該当するプロジェクト以外でも意欲的に関わるきっかけになる。
もし、問題の主要因が責任感である場合は、動機づけがどの段階にあるのかを確認して対応をすることが有効です。
「段階0」の後輩に講じるべき3つの対策
それでは、段階ごとにどのような対応が有効なのか、本相談のケースを踏まえて考えてみます。たとえば、何も知らされていない後輩が、新メンバーとしてプロジェクトに参加する場合を考えてみましょう。
対策1:賞罰・評価基準の設定
まずは、プロジェクトの達成基準について説明をします。何を成果として目指すのかをイメージできることが必要です。
「××の改善」「△△の推進」という抽象的な目標を耳にすることがありますが、どこまで求められているのかが不明確だと行動が起こしにくくなります。ブレークダウンして「〇〇%まで改善したら評価をGにする」など、基準と評価が明確であるほど、ゴールに向かいやすくなります。
対策2:意義・重要性の説明
次に、このプロジェクトを行う意義を伝えます。この仕事に取り組むことが何の役に立つのかが見えないと、やらされ感が蔓延し、時が経つにつれて意欲が低下してしまいます。意義には「社会的な価値」「組織への貢献」または「本人の成長」などいくつかの種類がありますが、相手にとって動機づくポイントを探り 、伝え方を工夫できると効果的です。
対策3:効力感・有能感を感じるフィードバック
最後に、プロジェクトの成果を定期的に振り返ります。長期的なプロジェクトになると進捗管理だけでは息苦しい雰囲気になり、メンバーのエネルギーや能力を十分引き出すことができません。
推進してきたプロセスでのナレッジなど、得られた成果や自分達の成長を確認したり、相互にフィードバックしたりすることで、メンバーが効力感や有能感を得ることができれば、さらに前向きに活動ができるようになります。
今回の相談にある後輩は、どの段階にいるのでしょうか。上記のように、メンバーの動機づけの状況によって、対策は変わってきます。
もちろん、仕事を進めるうえでミス自体や責任感の欠如を指摘することも必要です。しかし、後輩が責任感を感じていないとすれば、まずどんな状況にあるのか、どこで行き詰っているのかを、動機づけの段階を踏まえて考えてみてはいかがでしょうか。