大発会は400円超の大幅安、それでも「株高の2020年」が期待できるワケ

12月のグローバル株式市場では、米中貿易協議の「第1段階」の合意を好感して、株価が軒並み上昇しました。米国ではNYダウ、S&P500、ナスダック総合指数が過去最高値を更新し、日本でも日経平均株価が2018年10月以来となる2万4,000円台を一時回復するに至りました。

ただ年明けの株式市場では、こうしたリスクオン・ムードが一転。中東情勢の緊迫化により日経平均は昨年末比で451円安という大幅な調整を強いられるなど、波乱の幕開けとなっています。当面は事態の行方を見守るべく、投資家の様子見姿勢が続きそうです。


中東情勢が株式市場に与える影響

米国とイランの対立の溝が深まっていることは事実ですが、全面的な衝突は双方にメリットが少なく、回避されるとの見方が基本シナリオです。既定路線としての相場想定は、グローバル景気回復に伴う株価上昇の継続です。

米中間の貿易摩擦は完全解消とは言わないまでも、これまで以上に激化しないようであれば、グローバル経済を覆う不透明感はある程度払拭され、委縮した企業マインドは明るさを取り戻すと予想されます。米中の対立に揺れた経済は、急拡大とまではいかないものの、安定した成長軌道へと回帰していくことが期待されます。

世界経済をリードする米国が、株式投資の観点でも魅力度の高い状況は変わらないでしょうし、中国需要の減少という逆風に晒されてきた日本にも、巻き返しの余地は十分あるとみています。また、世界的に低金利環境が続くと予想されるため、金融相場下にあるマーケットは大崩れすることも考えにくい状況です。

全体として、2020年のグローバル株式市場に対しては、前向きな姿勢で取り組むことができます。

米国株は業績相場への移行を示唆?

米中合意の追い風が吹く中で、米国株は年初に再び主要株価指数が最高値を更新しました。2019年を振り返れば、業績が伸び悩む一方で、計3回の予防的利下げとそれに伴う長期金利の低下が、予想PER(株価収益率)などのバリュエーションの拡大を通じて、ここまで株価を押し上げたイメージです。

結果的に、S&P500の予想PER(12ヵ月先予想利益ベース)は足元で18倍超と、歴史的に見ても高い水準まで切り上がりました。ここから先、予想PERがさらに切り上がる展開は想定しづらいですが、かといって17倍から16倍へと切り下がっていくべき必然性も特にありません。

約2%の経済成長と2%割れの長期金利の現状からすれば、予想PER18倍はむしろ適正といえるかもしれません。2020年の成長率と長期金利はほぼ横ばいでの推移が続く前提で、結果的に予想PERは現在の18倍前後の水準でフラットな状態が保たれると考えられます。

他方、企業業績は2019年のわずか1%の増益から、2020年は10%近い増益が見込まれ、V字的な回復が基本シナリオです。その原動力となるのがハイテクセクターであり、ハイテクの業績が復調に向かう見込みであることの影響が大きいといえます。

株価が予想PERと予想利益のかけ算によって導かれることを踏まえると、2020年の米国株は予想PERの上昇ではなく、利益成長が株価上昇を牽引していく構図となります。これこそがまさに金融相場から業績相場への移行を意味するものです。

リーマンショック後の景気拡大が11年目に入った米国で、株式市場はより健全な株価上昇局面へと突き進む見通しです。そういう意味では、米国株のブル相場は未だ道半ばといえるでしょう。

<写真:ロイター/アフロ>

高値更新の欧州株にリスクはないか

世界的なリスクオンの流れの中で欧州株も堅調な推移をみせており、STOXX欧州600指数は直近で最高値を更新しました。米中協議の合意に加え、12月の英国総選挙での保守党圧勝の結果が、Brexit(英国のEU離脱)に対する不透明感をやや和らげたもようです。

とりわけ、ドイツやフランスなどの大陸欧州の株式が良好な株価推移をたどっています。この背景として、ECB(欧州中央銀行)が行う大規模な金融緩和策の下、域内景気への不安が後退している点を指摘することができます。

ミクロの企業業績も市場では2020年の増益が見込まれており、足元の株価上昇にはこうした高い期待が十分に織り込まれていると考えられます。株価のバリュエーションはすでに高い水準にあり、株高の継続のためには期待に応えるだけの実績を着実に示していくことが求められそうです。

火種として残るのはBrexit問題であり、英国のみならず、大陸欧州のEU加盟国まで巻き込んだ政治の混乱が、引き続き株式市場にとってのリスクとなります。仮に英国が2020年の1月末にEU離脱を果たした場合、次に焦点となるのは移行期間の延長の有無です。ボリス・ジョンソン首相は移行期間の延長に否定的な見方を示しており、要注意でしょう。

中国にとって2020年は節目の年に

貿易摩擦の当事者である中国も、「第1段階」の合意を好感する形で株価は戻り基調にあります。上海総合株価指数は派手さこそないものの、足元で再び3,000ポイントを超えてきました。「第1段階」の合意では、内容に玉虫色の部分を残しながらも米国の歩み寄りを勝ち取ったとみることもでき、中国に有利な結果と評価する向きもあります。

今後の米国の出方次第ではありますが、貿易摩擦を要因とする中国の景気減速は、いったんは落ち着く可能性もあります。最近の中国経済の低迷の背景には構造的な問題も存在するとの見方もあるとはいえ、節目の2020年に中国政府は是が非でも景気回復にメドをつけたいはずです。

2020年は、かねてから中国政府によって「小康社会(適度にゆとりある社会)」の実現が目指されてきた年であり、また2010年比でのGDP(国内総生産)倍増に向けて目標として設定された年でもあります。2021年に共産党設立100周年を控える中国にとって、これらの計画は極めて重要な政治課題に位置づけられているに違いありません。

そのために必要な政策対応が取られると考えれば、2020年の中国に悲観は不要と考えます。中国株はすでに最悪期を脱したとの判断であり、今後はポテンシャルの大きいマーケットとして注視していきたいと考えています。

日本株のパフォーマンスは他市場を上回る?

米中貿易協議の進展期待で10月以降に上昇基調を強めていた日本株は、「第1段階」の合意という現実に直面し、日経平均は2018年秋以来となる2万4,000円台を一時回復しました。2019年前半の日本株はたびたび「出遅れ」が指摘され、苦戦を強いられる場面もありました。

地理的に中国に近く、米中貿易摩擦激化による中国経済減速のダメージをより強く受けたことが1つの原因と推察されます。実際に、2019年度の日本企業の業績は減益が避けられない見通しです。

しかし、業績の先行きに対する見方は、決して暗くはありません。2020年度は5G(第5世代移動友進システム)向け半導体や電子部品の需要拡大の恩恵を受けて、米国同様にハイテクセクターが業績回復を牽引していくことが見込まれます。企業業績に関する市場予想の変化を見た「リビジョン・インデックス」では、日本の業績予想が相対的に改善する傾向にあることが読み取れます。

大和証券の集計では、日経平均ベースの2020年度業績(税引後利益)は1ドル110円の前提で7%ほど伸びる見通しです。それに伴い、現状は14倍程度で推移する予想PERも、投資家心理の改善とともに、今後は14倍台後半まで回復していくことが想定されます。

利益とPERの2つの要素を合わせた株価押し上げ効果は10%超に及ぶとみられ、年末の日経平均株価の想定は2万7,000円も視野に入ります。2020年の日本株には、他市場に勝るパフォーマンスを期待できるとみています。

<文:投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和>

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