『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』 音楽映画の枠を超えた感動作

(C) FISHERMAN FILMS LIMITED 2019

 音楽映画が、特定のミュージシャンのファン層に向けたものでなくなって久しい。もちろん、その最大の成功例が『ボヘミアン・ラプソディ』だ。以降もエルトン・ジョン、ビートルズといった大物をネタにした作品が続々と公開され、今もブームは続いている。本作もまた、実在のミュージシャンを扱った音楽映画だ。

 舞台は、2010年のイギリスの港町ポート・アイザック。仕事仲間たちとバカンスで訪れた音楽マネジャーが、漁師たちで結成した地元の舟歌バンドをメジャーデビューさせようと奮闘する話だ。上司にけしかけられてのことだったが、次第に彼らの魅力に気づいていく。だから、王道のサクセスストーリーであり、主人公の成長物語。シングルマザーであるバンドのリーダーの娘とのツンデレな恋模様もアクセントとして効いている。

 とはいえ、現在も活動を続ける「フィッシャーマンズ・フレンズ」は、日本では全くの無名だし、しかも彼らは中高年で普段は漁師。キャスティングも相当に地味である。内容だって保守的で、『ボヘミアン~』のような問題提起があるわけではない。それでも日本に輸入されるだけの何かがあるということ。実はその何かこそ、音楽映画ブームが続いている理由だと思う。本作には、特定のミュージシャンのファンどころか音楽好きの枠すら超えて、老若男女が楽しめる心地よい笑いと感動があるのだ。★★★★☆(外山真也)

監督:クリス・フォギン

出演:ダニエル・メイズ、ジェームズ・ピュアフォイ、タペンス・ミドルトン

1月10日(金)から全国公開

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