高齢者の緊急入院を83%も減らしたロンドンの取り組み 【2020新年スペシャル】佐々木淳「英国徇行記」より

新年明けましておめでとうございます。 MEDIAN TALKS 編集部です。
本日より新年企画、外部配信開始記念企画としまして、通常の記事、コラムと並行しまして、これまでオリジナルサイトで掲載されてきたコラム記事の中から反響が大きかったものをピックアップ、スペシャルとしてお届けいたします。
今回は佐々木淳医師の英国視察報告の中からお届けいたします。


 高齢者の緊急入院を83%も減らした「在宅入院」。それは本気で高齢者の入院を防ぎたいと願う急性期病院とGPの協力による合理的なシステムだった。

英国では病院は3次救急を担う高度急性期病院、2次救急を担う急性期病院、そしてコミュニティホスピタルの3群に大きく分類される。英国では高齢化に伴い国民の医療依存度も上昇しており、急性期病院の稼働率は非常に高い。

ここノースウィック・パーク病院でも、700床のベッドがほぼ満床稼働を続けている。一方で、入院医療は社会コストが高く、多疾患の高齢者にとってはリスクでもある。急性増悪した高齢者を入院させずにコミュニティでケアしていくことは、社会資源の視点からも高齢者のQOLの面からも重要になる。

 この病院で行われているのは「STARRTS(Short Term Assessment, Rehabilitation and Reablement Service)」

これは、一言でいえば「病院に配置された多職種のプライマリケアチームが、高齢者からの救急医療ニーズに在宅で対応し、在宅でケアを完結させてしまおう」という試みだ。

これまで具合の悪くなった高齢者は地域のGPや巡回看護師、ロンドン救急などから病院に紹介され、そのまま入院になっていた。

しかしSTARRTSは、紹介された患者の自宅に医療専門職がアウトリーチする。そして、自宅でシステムレビュー(全身の診察)を行い、採血等を実施する。そしてGPの関与の下、病院の老年病科の専門医(コンサルタント医師)らの指示に基づき、在宅での治療を開始する。

通常、初回訪問するのは看護師と理学療法士の2人のチーム。最初の依頼から3時間以内(7割は2時間以内)に患者宅にアウトリーチする。医師らは往診せず、院内のステーションから遠隔で対応する。STARRSには常時2人の医師(上級医(コンサルタント)+アシスタント(トレイニー))が待機しiPhone(FaceTime)によるオンライン診療を行い、必要に応じて電子処方箋を発行する。

STARRSのチームは、最大1日2回の訪問を行い、必要に応じてGPや巡回看護師など、地域のチームとも連携しながら、在宅ケアを行う。おおむね5日間で急性期治療は完了、その後はGPに治療を引き継ぐ。

患者の基礎疾患は感染症(尿路・気道など)、気管支喘息やCOPD、心不全の急性増悪など。月平均で約400件の紹介に対応し、83%は入院せずに自宅で治療を完結する。1か月以内の再増悪は8.4%、3か月以内の再増悪は14.7%。成績は悪くない。

多職種チームにはソーシャルワーカーも所属する。必要に応じて地域資源への接続を行う。

この仕組みができたことによって、地域のGPは、緊急往診や在宅での高度な医療処置を求められることなく、STARRSの多職種チームと連携して「急変した高齢患者の診療をシェアする」ことが可能になった。

結果として、GPの急性期在宅ケアの負担は少なくなり、患者の入院も大幅に減った。

イギリスでは、このような取り組みをそれぞれの地域の中核病院で進めているという。

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