2019年「老人福祉・介護事業」倒産状況

 2019年(1-12月)の「老人福祉・介護事業」倒産は、集計を開始以来、過去最多だった2017年の111件に並んだ。2016年(108件)から4年連続の100件台と倒産が高止まりしている。
 介護保険法が施行された2000年以降の「老人福祉・介護事業」の倒産(負債1,000万円以上)を調査した。
 高齢化が進むなかでの倒産増加は、背景に人手不足と人件費の上昇がある。特に、ヘルパー不足が深刻な訪問介護事業者の倒産が急増し、全体を押し上げている。また、業歴が浅く、小規模の倒産が大半を占め、マーケティングなど事前の準備不足のまま参入した零細事業者の淘汰が加速している。
 2019年10月、介護報酬が改訂された。今回の改訂では、介護人材の確保に向け、介護サービス事業所での勤続年数が10年以上の介護福祉士は月額平均約8万円の処遇改善が行われたという。これに伴い公費1,000億円を投じ、リーダー級の介護職員は他産業とそん色ない賃金水準に引き上げられた。だが、一方で待遇改善への加算は、福利厚生などの条件も比較対象になり、これまで以上に人材を確保できる事業所と確保が難しい事業所の格差拡大も危惧されている。
 高齢化社会を迎え、市場拡大が期待された「老人福祉・介護事業」だが、二極化が進み小規模事業者の倒産が増えている。政府は、外国人介護人材の受け入れや介護ロボット等の活用などの対策を講じるが、介護人材の確保問題が深刻なテーマに浮上している。

  • ※本調査対象の「老人福祉・介護事業」は、有料老人ホーム、通所・短期入所介護事業、訪問介護事業などを含む。

件数は過去最多に並ぶ、小・零細規模の倒産が8割

 2019年の「老人福祉・介護事業」倒産は、111件(前年比4.7%増)だった。過去最多の2017年の111件と同数で、2年ぶりに増加した。
 負債総額も161億6,800万円(同97.3%増)と急増した。前年ゼロだった負債10億円以上の大型倒産が3件発生した。特に、有料老人ホーム経営、(株)未来設計(TSR企業コード:294993290、東京都中央区、民事再生、負債53億8,600万円)の大型倒産が全体の負債を押し上げた。
 一方、負債1億円未満は91件(前年比10.9%増)と増加し、全体の8割(構成比81.9%)を占め、小・零細規模の「老人福祉・介護事業」が大半を占めた。
 統計を開始した2000年の「老人福祉・介護事業」倒産は、わずか3件だった。その後、2008年に46件まで増えたが、中小企業金融円滑化法などの金融支援が効果をみせて減少に転じ、2011年は19件にとどまった。
 しかし、新規参入が相次ぐなか、過小資本の企業ほど人手不足が深刻さを増す悪循環に陥り、倒産は右肩上がりで推移。2016年に100件台に乗せ、以降4年連続で100件台で高止まりしている。

「老人福祉・介護事業」の倒産件数 年次推移

業種別 「訪問介護事業」が急増

 業種別では、「訪問介護事業」が58件(前年45件)と急増した。次いで、デイサービスを含む「通所・短期入所介護事業」が32件(同41件)、「有料老人ホーム」が11件(同14件)、サービス付き高齢者住宅などを含む「その他の老人福祉・介護事業」が5件(同3件)、介護老人保健施設や認知症老人グループホームなどを含む「その他」が5件(同3件)。

原因別、「販売不振」(業績不振)が増加

 原因別では、販売不振(売上不振)の81件(前年比28.5%増、前年63件)が最多だった。次いで、「事業上の失敗」(同57.8%減、同19件)と「既往のシワ寄せ(赤字累積)」(同±0%、同8件)が各8件。「運転資金の欠乏」が6件(同20.0%増、同5件)で続く。

設立別ほか、業歴が浅く、規模の小さい企業の倒産が大半を占める

 設立別では、2014年以降の設立5年未満が35件(構成比31.5%)と3割を占め、設立の浅い「老人福祉・介護事業」の倒産が目立った。また、従業員数では5人未満が74件(前年比12.1%増、前年66件)で、全体の約7割(構成比66.6%)を占めた。資本金1千万円未満(個人企業他含む)が98件(前年比4.2%増、前年94件)と小・零細規模の倒産が大半を占めた。

形態別、破産が92.7%

 形態別では、破産が103件(前年比4.0%増、前年99件)と全体の9割(構成比92.7%)を占めた。一方、再建型の民事再生法は3件(前年3件)にとどまり、「老人福祉・介護事業」は再建型の倒産を選択することが難しく、消滅型の破産が圧倒的だった。

地区別件数、近畿地区が最多

 地区別では、最多は近畿の32件(前年比52.3%増、前年21件)。次いで、関東31件(同6.0%減、同33件)、中部14件(同6.6%減、同15件)、九州9件(同35.7%減、同14件)、中国(同33.3%増、同6件)と北海道(同33.3%増、同6件)が各8件、東北6件(同25.0%減、同8件)、北陸3件(同ゼロ)、四国ゼロ(同3件)の順。
 県別では、大阪府が24件(同33.3%増、同18件)で最多。次いで、東京都11件(同26.6%減、同15件)、神奈川県(同±0%、同8件)と北海道(同33.3%増、同6件)が各8件と続く。

 「老人福祉・介護事業」倒産は、2018年に7年ぶりに減少したが、2019年は再び増加に転じ、過去最多に並ぶ111件を記録した。特に、「訪問介護事業」が前年比28.8%増(45→58件)と急増した。ホームヘルパーなどの人手不足に加え、大手の進出と新規参入組との競合から小・零細規模の事業者の淘汰が相次いでいる。
 厚生労働省が2019年7月に公開した「介護人材の不足」の資料によると、都道府県が推計した介護人材の需要は2025年度末には約245万人に達し、このままのペースで推移すると年間約6万人の介護人材の確保を迫られ、人手不足問題は待ったなし状況になる。
 2019年10月には介護報酬が改訂され、介護人材の確保への対策が進められている。外国人介護人材の受け入れや介護ロボット等の活用等も期待されるが、現実的にはまだ時間を要するため、当面は介護人材の確保が大きな課題にあがっている。特に、資金力の乏しい小規模事業者の淘汰が鮮明になっており、しばらく倒産は高水準をたどる可能性が高い。

2019年老人福祉・介護事業 業種小分類別倒産状況
老人福祉・介護事業の倒産 年次推移

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