鷹コラスの失踪、球団は厳しい対応を グリエル兄弟と異なる「前代未聞」の事態

ソフトバンクのコラス【写真:藤浦一都】

一般的にキューバ人は隣国のハイチやドミニカに亡命することが多い

 MLBへの移籍を目指し、亡命するためにキューバを出国したとされるソフトバンクのコラス内野手。今季の契約に合意しており保留者名簿に記載された状態での失踪に、ソフトバンクの球団側も困惑の色を隠せないでいる。

 7日が2020年の仕事始めとなったソフトバンク。三笠杉彦GMは報道陣に対応し「キューバ野球連盟からコラスが出国したようだという報告があったという状況。亡命については手続きがいる。本人とは連絡はついていない。今後の対応はキューバ連盟の見解も確認する」とコメントした。

 現時点でコラスの足取りは掴めていない。球団関係者によると、キューバ人が亡命する際は渡航にビザの要らない隣国のハイチやドミニカへと渡り、そこでの居住権を得てからメジャー移籍を目指すのが一般的だという。ただ、現時点でコラスがキューバから出国したことは確認できているものの、どこの国に滞在しているかなどは把握できていないという。

 NPB球団に所属していた選手で、亡命してMLB球団を目指した選手といえば、DeNAに在籍し現在アストロズでプレーするユリエスキ・グリエルと、その弟でブルージェイズに在籍するルルデス・グリエルJr.のグリエル兄弟が思い浮かぶ。

 ただ、今回のコラスとグリエル兄弟では状況が幾分異なる。ユリエスキは2014年途中にDeNAに加入。ルルデスも2015年に加入が決まり、兄弟揃って2015年シーズンをプレーするはずだった。だが、怪我を理由に兄弟揃って来日を拒否。その後、ユリエスキは契約解除、ルルデスは制限選手となった。

グリエル兄弟も元巨人ガルシアも契約解除後に亡命していた

 2016年2月、カリビアンシリーズ出場後に開催国のドミニカから陸続きのハイチへと亡命した。亡命時にはDeNAとの契約下にはなかった。また2016年に巨人に在籍したレンジャーズのホセ・アドリス・ガルシアは巨人と契約解除となった後、キューバに帰国する道中で消息を絶ち、フランスに亡命した。こちらも巨人の契約下にはなかった。

 ただ、コラスはこれらの選手とは違う。ソフトバンクと2020年シーズンの契約に合意しており、保留者名簿にも記載されている。契約上、今季はソフトバンクの契約選手なのだ。ある球団の契約下にある選手が亡命のために失踪する事態に、球団関係者も「前代未聞なんじゃないか」と戸惑う。

 契約保留者となっている選手は国内外全ての他球団に入団することはおろか、交渉することさえも認められない。関係者によれば、NPB在籍選手がMLB球団に加入する際にはNPBを通じて身分照会が行われるため、契約保留の状態でMLB球団と契約することは不可能だという。

 となると、契約を解除し自由契約となるか、保留期限が過ぎるのを待つしかない。ただ、数多くのキューバ人選手がプレーするNPB全体としても、これが認められてしまうと、今後のキューバ人選手への悪しき前例となりかねない。来日する道中や、シーズンを終えて帰国する道中で失踪してしまうことさえも考えられる。

 キューバ人の亡命はさほど珍しいものではない。球団関係者も「キューバ人と契約している以上、絶対にないということはない」と、最悪の事態としての想定はあったよう。ただ、契約下での失踪は今後にも大きな影響があるだけに「そう易々と『はい、そうですか』と認めるわけにはいかないんじゃないか」と、厳しい姿勢で対処していく必要はあるだろう。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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