『さえこ照ラス』 沖縄の「日常」を解決

 突然ですが、傑作テレビドラマ「HERO」(フジテレビ系)のファーストシーズンは好きですか? 木村拓哉扮する型破りな検事に振りまわされながらも、事務官の松たか子が事件の核心や人間としてあるべき姿を見いだし成長していく話。「HERO」のように人間ドラマの中に痛快なカタルシスを得たいなら、絶対オススメの連作短編小説が本作です。

 弁護士モノは小説でもひとつのジャンルを確立しているが、「法テラス」(正式名称=日本司法支技センター)が小説の舞台となっていることが目新しい。あまり知られていないが「法テラス」は弁護士不在地域など司法弱者の救済を目的として、情報提供や相談を行うほか、低所得者に金銭的扶助をしてサービスを受けやすくするために全国各地に開設されている。

 本島北部の「法テラス」に東京の大手法律事務所に勤務していた阿礼沙英子(題名は主人公の名前「さえこ」と「法テラス」を掛け合わせている)が赴任してくる。彼女は20代後半、美人で有能だが恐ろしく高飛車で口が悪い。自分を貫きまっすぐ突き進むが、興味を無くすと死んだ魚みたいな目になるという極端な性格。

 そんな沙英子に振りまわされるウチナンチューの事務員・大城は法律の専門的知識はないが、沙絵子と沖縄言葉を話す依頼者との通訳のために雇われている。何の取りえもないが、情にもろく人が良いので、杓子行儀な沙英子をあきれさせる。沙英子と大城のコンビが木村拓哉と松たか子の男女入れ替えパターンといえる。

 「軍用地相続の調停事案」「モアイの相談」「ユタの証明」など沖縄の特殊な事情が語られる七つのエピソードで、沙英子のまっすぐな性格と大城の人の良さは時に衝突する。意外な方法で沖縄の日常で起こる強烈な出来事を解決していくが、そこにはちょっと優しさのスパイスが加わり心温かな気分にさせてくれる。沖縄の政治問題を声高に叫ぶ小説ではないが、フラットな視点で今の沖縄を描き、その根底に歴史問題があるとメッセージを送る作者の眼力に注目してほしい。(吉田啓・メディアプロデューサー)

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 ともい・ひつじ 1981年、群馬県生まれ。国学院大学卒。2011年、「僕はお父さんを訴えます」で第10回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。14年、「ボランティアバスで行こう!」が「SRの会」が選ぶ13年ベストミステリーの国内1位に選ばれ、注目される。

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