JR東日本スタートアップ、省人化店舗・新幹線物流などに関わる技術の体験型イベント開催

JR東日本スタートアップ株式会社は、12月4日(水)~9日(月)までの6日間、大宮駅西口イベントスペースにてJR東日本グループのビジネス創造活動「JR東日本スタートアッププログラム2019」で採択したベンチャー企業と作り上げる新しいサービスや、ビジネスのデモンストレーションを体験できるイベント「STARTUP_STATION」を開催した。

「JR東日本スタートアッププログラム2019」では、ベンチャー企業等から駅や鉄道、グループ事業の経営資産や情報資産を活用したビジネス・サービスの提案をオープンに募り、採択されたものは実際にJR東日本グループと実証実験等を行っていく。

今回のイベントでは第3回スタートアッププログラムにて採択された21件のアイデアのうち4件を実際に体験することが出来た。

IoT物販自販機で駅弁・スイーツを販売

株式会社ブイシンクのブースではウルトラ自販機によるエキナカでの無人駅弁・スイーツ販売を展示していた。(TOP画像)

消費期限賞味期限の管理など、食品衛生法に則った管理機能を搭載したことで駅弁・スイーツの販売を可能としている。

左:商品の写真・値段・説明が多言語で確認できる、右:フルーツが乗っているような衝撃に弱い商品でも販売が可能

消費期限があり冷蔵する必要がある商品を自動販売機で販売するため、内部に取り付けた温度センサーで最適な温度を保っている。

従来の自動販売機のように遠隔で監視する機能もなく単独で置いている状態で販売をしていると、停電が起こり商品を冷やせない、消費期限切れの商品を誤って売ってしまうなど自販機に何か問題が起こってもわからない状態であったが、今回のIoT物販自販機では状況を自販機側で自動的に判断・処理することが出来るため、駅弁やスイーツの販売が可能となった。

左:自販機内部。下部の長方形の箱が移動してレーンから商品を受け取り取り出し口へ持っていく、右:自販機内部の商品管理画面

内部では商品が各レーンに分けられて格納されている。あらかじめ商品のサイズが登録されており、1個売れるとその分レーンが移動する仕組みだ。補充については、売れた個数に応じて「1時間以内に追加を持っていく」等の通知を自動販売機側からセンターへ通知し、補充員を現場へ向かわせるという流れになっている。

また、今回の実証実験では適用されていないが、消費期限が迫った商品を自動的に値下げすることも可能だという。

駅弁の売り場は改札階や通路、ホーム上など、ひとつの駅で何店舗も出店しているのが見受けられる。

人が売り場に立つ場合はどうしてもスペースが必要になってしまうが、IoT物販自販機であれば省スペースで同じように駅弁を販売することが出来る。

IoT物販自販機は主にホーム上等の狭い場所での利用を予定している。

瞬間凍結技術が鮮魚の物流を変える

ブランテックインターナショナル株式会社のブ―スでは同社が開発したハイブリットアイスによる瞬間凍結技術のデモを行っていた。

鮮魚をハイブリットアイスで包むと20秒ほどで動かなくなった

ハイブリットアイスは周囲が常温の中でも-20℃以下を保っている冷媒で、従来の凍結装置と比べると食材によっては1/10ほどの時間で凍結することが出来る。また、常温下でもその温度を48時間ほど保つことが可能だ。

食材の冷凍は-1~5℃の間を早く通過すれはするほど解凍した時に元の細胞に近い状態に戻すことができるため、急速冷凍を行うことで鮮度が良い状態で解凍できるという。

ハイブリットアイス自体が冷媒のため、中央部から側面まで含めた全体が-20℃以下を保っている。

トラックでの物流では行きの便は荷物を積んでいたが帰りの便では積む荷物が無く空のまま回送となる空車回送が課題となっている。走行費が往復分になるだけでなく道路の混雑にもつながるため問題視されてきた。

今回販売している商品の中には、ニューデイズの商品を運び、空の状態で戻る予定だったトラックを利用して運んだ商品もあるという。

もちろん、通常のトラックでは冷凍された商品を運ぶことは出来ない。

凍った製品を輸送する際には冷蔵設備が必要で、冷蔵車は通常のトラックとは別に手配する必要があるが、ハイブリットアイスは常温下で-20℃以下を48時間ほど保ち続けることが出来るため、ハイブリットアイスで商品を包むことで通常のトラックで冷凍された商品の運搬が可能となる。

同社は、この技術を活用し物流の最適化に取り組んでいく。

また、同社とJR東日本はハイブリットアイスを用いた冷却装置を新幹線に乗せ、魚を輸送するという取り組みを進めている。

新幹線は人の輸送用に作られているため魚を運ぶと言われても想像がつきにくいが、今回の取り組みでは近年減ってきている車内販売のワゴンを収納していたスペースを有効活用しているという。

両社はハイブリットアイスによる地域鮮魚の首都圏流通拡大を目指す。

AIが自分好みの日本酒を判定、個人に合った酒蔵の観光提案へ

MIRAI SAKE COMPANY株式会社のブースでは自身の味覚に合った日本酒をAIが判定するという体験が出来た。

今回ブースで行っていた体験は、銘柄や製造方法が伏せられた10種類の日本酒を飲み、好きか嫌いかをスマホ上で5段階で評価。その評価を元にAIが12種類のカテゴライズされた新潟の日本酒の中から好みに合ったものを導き出すというもの。

今回は新潟駅での実証実験に向けて準備を進めているため新潟の日本酒が取り揃えられていた。

既存の日本酒の評価軸といえば純米・吟醸、本醸造酒等の言葉が浮かぶが、それらの言葉では日本酒に造詣のない人にとってはどんな日本酒なのかイメージし難い。

今回の取り組みでは、日本酒に慣れてない人でも味や飲み口をイメージしやすいよう日本酒のタイプを「オノマトペ」で表現している。

「YUMMY SAKE」公式HPより。

12種類のオノマトペに分類する基準はプロのテイスター達により日本酒の特徴(淡麗・辛口など)を数値化し作成された。

担当者によると、日本酒は純米や純米吟醸が旨い、知っている銘柄だから、等で判断されてしまうことが多く、また最初に飲んだ日本酒が自身の好みでなかった為に苦手意識を持ってしまっている人も多いという。銘柄などの先入観がない状態で好みを評価することで本当に合った日本酒を提案していきたいとのこと。

現在の新潟駅の観光案内所ではパンフレットをもらって酒蔵を巡ることになるが、酒蔵の数も90蔵以上と多い中で自分の味覚に合った日本酒を探すことは困難であり、機会を損失している蔵も多い。

同社とJR東日本は、まず自分に合った日本酒を知ってもらうことで、そこから更に自分に合った日本酒を製造している酒蔵への観光や食事処の案内などのサポートへ繋げ、地域観光の振興を目指す。

既存の調理設備で接客から調理までを行うロボットアーム

株式会社QBIT RoboticsのブースではAI技術を使ったロボットアームによる無人パスタカフェが体験できた。

タッチパネルから食べたいパスタを選択し決済をするとロボットがパスタを作り始める。モニターに表示されたロボットの顔は表情をころころ変え、パスタを調理している間も待っている客に話しかけ接客をする。

今回ロボットが使用していた調理機器は全て一般的に飲食店で使用されているものと同じだ。

アームで電子レンジの扉を開け、パスタの入ったカップを中に置き、扉を閉めてアームの先端でスタートボタンを押す、というように調理機器を人間と同じように使用している。

左:ロボットアームがポットのボタンを押している、右:出来上がったカルボナーラパスタ

今回は電源の関係で電子レンジを使用しているが、同時に4食分のパスタを茹でる並行調理も出来る。

また、温めて柔らかくなったカップでも持つことが出来るのは、トヨタグループの豊田合成と共同開発した触覚ハンド(※)を使用しているためだ。

調理ブースの頭上にはIntelのデプスカメラを設置しており、ブースに来た顧客の動線をトレースしている。また、カメラの映像をロボットに搭載された画像認識AIで分析し、年齢や性別、顔の表情といった顧客特性に合わせ接客の文言を変えているという。

ロボットアームが人と同じ空間で作業が可能になってきたことでその利用方法は広がったが、ロボットアームが使用する調理機器側はまだIoT化された製品が普及しておらず、全て時間やセンサー、回数をロボット側が判断して調理進行・食材補充通知等を行っているという。

担当者は「調理器具のIoT化が進めばロボットアームとの連携が可能になり、より簡単にロボットアームを導入することが出来るようになり、効率化も進んでいくだろう」と述べた。

※触覚ハンド:電圧を加えると収縮するe-Rubberというゴムを使用したハンド(アームの先端部)。ロボット向けの軽くて柔らかい人工筋肉として活用できる他、外部からの圧力などで変形すると内部の蓄電量が変化する性質により微妙な圧力変化を感知するセンサーとしての機能も持っている。

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