<ブレーク盤> ジェニーハイ『ジェニーハイストーリー』 何回も聴いてしまう仕掛けだらけ

ジェニーハイ『ジェニーハイストーリー』

 お笑い芸人の小藪千豊とくっきー!、女性ボーカルの中嶋イッキュウに、全作詞・作曲を担当する川谷絵音、そして現代音楽家の新垣隆が加わった5人組バンドの1stフルアルバム。一見コミカルな企画バンドと思われがちだが、実際は音楽的にかなり深い作品だ。

 本編disc1の全10曲は、中嶋の抜けの良い美声ゆえ、辛うじてJ-POPの範疇にあるが、曲調がかなりジャンルレスで詞も不可思議に満ちている。唯一穏やかな曲調のラブソング『まるで幸せ』が、この中では凡庸に聞こえてしまうほどだ。

 例えば、『ダイエッター典子』では即興ジャズのような演奏や曲に、「幸せ掴みたいんでしょ お腹掴めてる場合じゃない」とタピオカの誘惑を綴っているし、ラップ調の自己紹介ソング『ジェニーハイラプソディー』も、皆で新垣氏を揶揄するように「ゴーストライター!」と叫ぶなど、かなり攻めている。

 他にも、パンク系アイドルBiSHのアイナ・ジ・エンドがボーカル参加した『不便な可愛げ』も女子の心の叫びとクールな演奏のミスマッチ感が逆に心に刺さるし、アラビア音楽とカントリーを融合したような『愛しのジェニー』も「背筋ピン」という言葉が印象に残る。つまり、何回も聴いてしまう仕掛けだらけなのだ。

 初回限定盤には、disc1全曲のオフボーカルCDと、メイキングなど約40分のDVD付き。特に、CDの方は、フュージョン好きもハマりそう。本作を堪能すれば、先の見えない人生によりワクワクするようになるはず。

(ワーナー・2CD+DVD初回限定盤 4500円+税)=臼井孝

© 一般社団法人共同通信社